天海と一緒にこの世界にいられるということ。 それが何よりも嬉しい。 今日はホワイトディ。 天海は時空の狭間の神様だから、そんなことは余り関係ないと思っていたし、バレンタインディのお返しは、そばにいてくれているというだけで、充分貰っているような気がする。 だから必要なんてない。 だからゆきはホワイトディが特別だとは思っていなかった。 だが天海は、ホワイトディにデートに誘ってくれたのだ。ゆきにはそれが嬉しい。 天海のことだから、たまたまこの日にデートに誘っただけなのかもしれない。 ゆきはそんなことを考えながら、天海とのデートの準備をする。 なるべく女の子らしい、爽やかなスタイルにしようと、ゆきは色々と考えを巡らせる。 やはり大好きなひとの前では可愛くいたいというのが、乙女心だと思うからだ。 ゆきは大人びた可愛らしさを表現したくて、それに相応しいデザインのワンピースに袖を通した。 ほんのりとリップグロスをして完成。 天海は神様だから、ひととは違う雰囲気を持っているし、純粋さと美しさもある。 だからこそ、それにバランスが取れるようにと、ゆきは頑張る。 デート先は植物園。 天海はやはり自然のものの中でいるのが好きなようだ。 そこはやはり神様なのだろう。 ゆきが待ち合わせ場所の植物園に行くと、既に天海が待ってくれていた。 だが、行き交う女性たちがじっと天海ばかりを見つめているなが解る。 こんなにも完璧な男性はいないから、誰もが見つめていた。 気持ちは解る。 ゆきも、この優しい神様のことが大好きでしょうがないのだから。 だが、嫉妬も感じてしまう。 ゆきは複雑な気持ちで、天海にゆっくりと近付いていった。 すると天海もゆきに気付いたようで、こちらに寄ってきた。 本当に真っ直ぐゆきだけを見つめてくれている。 それが嬉しい。 「ゆき」 「ごめんなさい、待った?」 「大丈夫ですよ……。だけど、あなたを待っている間は、いつもかなり永く感じてしまいますね……」 天海は苦笑いをしながら、ゆきの手をしっかりと取った。 今は少しでもお互いを感じて、少しでも触れていたいと思っている。 手を繋げば、お互いを感じることが出来るから。 手を繋ぐと、天海は安心したように笑った。 「さあ中に入りましょうか。中で少しばかりゆっくりと致しましょうか」 「はい」 手を繋いで植物園に入る。 ここで緑を感じながらゆっくりとのんびりする。 それが最近のふたりの定番デートになっている。 こうしている時間を重ねて、出来る限り一緒にいること。 今のふたりの一番の幸せがそれだ。 「天海、楽しい?」 「ええ。君とこうして手を繋いで、一緒に歩いているだけで新鮮で、楽しいですよ。今まで生きていた中で一番楽しいかもしれませんね……」 天海はフッと微笑むと、ゆきと柔らかく寄り添った。 「ゆき、今日は特別な日であるということを聞きました。ですから贈り物を」今まで何も持っていなかったというのに、天海は突然、白い薔薇の花束を出してゆきに差し出した。 流石に神様だと思わずにはいられない。 こんなことは天海にしか出来ないことだ。 ゆきはただただ驚いて目を丸くするだけだ。 だが、ホワイトディの存在を知って、こうしてプレゼントしてくれるねは嬉しかった。 「……ゆき、この間の、ばれんたい、という催しで頂いた、ちょこれいと、というものが殊の外美味しかったので、そのお返しです」 「有り難う。だけど、あの時も天海は薔薇の花束をくれたよ。私はそれだけでとっても嬉しかったから、今日は良かったんだよ?」 「いいえ……。それでは私の気が済みませんから……。薔薇ばかりで申し訳がないのですが……」 「薔薇は大好きだから嬉しい。有り難う、天海」 天海からプレゼントをされた薔薇の香りを嗅ぐと、幸福で甘い気持ちになった。 「紅い薔薇よりも、あなたには無垢な白い薔薇が似合うのかもしれませんね」 「有り難う。私も白い薔薇は大好き」 ゆきがほわほわとした笑顔を天海に向けると、甘くて意地の悪い笑みが、少しずつ近付いてきた。 「…あなたは私よりも薔薇の花のほうがお好きなのですか?」 天海は背中がゾクリとするぐらいに艶やかな声で、耳元で囁いてくる。 それだけで胸がキュンとするぐらいにときめいてしまう。 こんなにもときめいてしまうと、呼吸が出来なくなる。 ゆきは深呼吸をして落ち着こうと努めたが、なかなかそうは上手くいかなかった。 ドキドキし過ぎて、喉がからからになってしまい、どうして良いかが分からなくて、全身に熱が走って真っ赤になってしまった。 「……ゆき、どちらなのですか?」 ここが植物園で、多くの人たちがいることすら目に入らなくなるぐらいに、ゆきは天海の魅力に翻弄されてしまう。 「……そ、そんなこと、天海なら解るでしょう? 神様なんだから」 ゆきが今にも消え入るような声で言っても、天海はからかうような甘いまなざしと声を止めようとはしない。 「さあ……? 私はあなたの前では、神よりも前にひとりの男ですから……」 天海の声と微笑みは、破壊力があり、ゆきはくすぐったくなる。 だが、それも幸せなくすぐったさで、止めて欲しくはない。 「余計に顔が真っ赤になってしまったようですね……」 静かに話しながら、天海はゆきをからかうように見つめている。 顔を見られるのが恥ずかしくて、ゆきはつい顔を花束で隠してしまった。 「やはり君は花束のほうが好きだということですか?」 「そ、そんなことは……。天海のことのほうが好き……だけれど……」 言っているだけでドキドキしてしまい、ゆきは喉がからからになる。 解っているくせに、天海はイジワルだ。 「……君は本当に素直ですね。愛しい子……」 「愛しい子って呼ばれると、何だか子ども扱いされているような気がする……」 ゆきが不満を漏らすと、天海はフッと微笑んで頷いた。 「解りました、ゆき。ですが私は君をひとりの女性として見ていますから」 天海に女性として見られているのは、ゆきとしても嬉しい。 愛するひとには、きちんと女性として見られたいのだから。 「うん。有り難う、天海。私、天海にだけは子ども扱いをして貰いたくはないから……」 ゆきがはにかみながら言うと、天海はギュッと抱き締めてくる。 ここは植物園だが、神様の天海にはそんなことは全く関係がないようだった。 顔を近付けてくるから、ゆきは思わずストップをかける。 「あ、天海、ひ、ひとが少ないところのほうが……」 「そうでしたね……。失礼しました。ゆき、植物園を出て、少し散歩でもしませんか?」 「はい」 天海と手を繋いで外に出た後、ふたりでのんびりと歩く。 歩いているだけで、どんな場所でもロマンティックになるのは、やはり天海の魔法なのかもしれない。 暫く歩くと、静かな場所に出た。植物園のある公園の一角で、とても温かさを感じる場所だ。 「ゆき、ここまで来れば、構わないでしょう?」 「天海……」 天海はゆきを抱き寄せると、唇を重ねてくる。 天海とのキスは、とても温かくて、とてもロマンティックで、ついうっとりとしてしまう。 甘く幸せなキスは、ホワイトディにはピッタリのキス。 ゆきは笑みを浮かべると、甘みをしっかりと抱き締めた。 こんなにも幸せなホワイトディはないと思いながら。
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