*愛の言葉*


 恋をしているひとは不器用なところがあって、なかなか甘い言葉をくれない。

 愛してくれていることは解っているし、それを然り気無い態度で伝えてくれてもいる。

 だが、時々、かなり不安になる。

 言葉があるとそんな不安は解消できるかは解らないけれども、確実に安心することは出来る。

 高杉に愛されていると、深く感じることが出来る。

 どうしたら、愛するひとから愛の言葉を聴くことが出来るのだろうか。

 ゆきはついぼんやりと考えてしまう。

 果たしてそれが、自分達にとってベストなのだろうかとも。

 愛するひとは愛に対してもかなりストイックで、ゆきには人前ではあからさまな愛情を示すことはない。

 かといってふたりきりでいる時は示してくれるのかといわれると、それも穏やかで然り気無いものばかりだ。

 ただふたりでのんびりと縁側に座ったりするぐらいで、本当に然り気無さ過ぎる。

 だからこそ、本当に愛されているのかと不安になってしまう。

 今はやりの、草食男子というわけでもないのだ。

 ゆきはどうしたら愛を上手くかんじられるのか。

 そんなことをぼんやりと考えてしまう。

 ゆきもそんなに積極的なタイプではないから、余計に厄介なのかもしれないが。

 女の子が憧れる甘い愛情を、愛するひとから貰えたら良いのにと、考えずにはいられなかった。

 

 高杉とのデートは、楽しいのと同時に、甘い穏やかな時間を過ごせる“癒しの時間”となっている。

 情熱的な雰囲気はないけれど、穏やかな雰囲気の下には、お互いの熱い愛情が隠れている。

 手を繋いでみれば感じられるが、言葉がないから本当にリアルに感じているのかが、不安になってしまう。

 今日も、手を繋いで植物園でまったりとデートをする。

 高杉とこうしていっしょいられるのは、何よりも幸せだけれど、それ以上のものが欲しくなる。

 嫉妬したら、くれるの?

 だがそんなことは、高杉には通じない。

 嫉妬をさせるなんて、小手先の技が高杉に通じるはずなんてないのだ。

 だから、どうしたら良いか解らなくなる。

 感情の迷子になる。

 手を繋ぎながら、ゆきがあれやこれやと考えていると、高杉が不意に強く繋いだ手を握りしめてきた。

 力を入れられて、ゆきは驚いてしまい、目を見開いて高杉を見上げた。

「……痛かったか?」

「……大丈夫……。少し驚いただけですから」

 ゆきは驚きながらも、つい笑顔になる。嬉しい驚きだったからだ。

「……そうか……。お前が何か考えに熱中しているようだったから、ついな」

 高杉が柔らかな瞳でゆきを見つめてくる。そこには何処か甘美で切ない光が宿っていた。

 ゆきは高杉を見つめながら、考え事をしている自分を恥じた。

 高杉とこうして逢えること、デートをすることが、何よりも気持ちを直に感じられる時間だというのに、つい、愛されていると実感できる詞を貰うにはどうしたら良いかなんて、こんなときに考える自体、本末転倒だと思った。

「お昼のことを考えていたんです」

 ゆきは誤魔化すように言うと、高杉に笑いかけた。

「……そうか。なら、昼は何を食べたいんだ?」

「お蕎麦とか」

「蕎麦か……。だったら食べに行くか。俺も食べたくなったからな」

「はい」

 蕎麦を食べたいだなんて、本当は口から出任せ過ぎることだったけれども、高杉の言葉を聞いていたら、本当に食べたくなってしまった。

 美味しい蕎麦を高杉とふたりで食べることが出来るのは、やはり嬉しい。

「何だか、植物園よりも、蕎麦を食べることのほうが楽しみになってきました」

「お前は典型的な“花より団子”だな」

 高杉のからかうような言葉に、ゆきは幸せな気持ちになってゆく。

 つい素直な笑顔を、高杉に向けた。

 高杉は、先程の名残を滲ませながら、ゆきの手をしっかりと結ぶ。

 いつもより男らしく力強い手に、ゆきはうっとりと幸せな気持ちになった。

 植物園で、様々な花を見ながらも、ゆきは蕎麦のことをつい考えてしまった。

 高杉と一緒にかわいい花を見るのも楽しいが、一緒にごはんを食べるのも、やはり好きだ。

 一緒にごはんを食べる行為は、かなり親密で深い行為のように思えるから。

 高杉と一緒に食べるお昼御飯のことばかり考えていたからか、再びギュッと手を握り締められた。

「……あ……」

「何を考えていた?」

 高杉は落ち着いた声で問いかけてはくれたが、何処かすねるような雰囲気だった。

「……高杉さんと食べるお蕎麦のことばかり考えてました……」

 ゆきは食べ物のことばかりを考えていると笑われるのは恥ずかしかったが、素直に伝える。

「……俺は蕎麦に負けたということか……」

 冗談で言っているのではなくて、半ば本気のようにも聞こえる。

「違います。お蕎麦そのもののことを考えていたというよりは、高杉さんと食べることが嬉しかったりするんですよ。食べ物は何でも良いのかもしれません」

 高杉と一緒に食事が出来るというのが大切であって、本当は食べ物が何だろうと関係はないのだ。

 ゆきはそんな想いを込めて、高杉に伝えた。

 すると高杉は薄く笑う。

「俺もお前と食う飯が一番旨いと思っている」

 高杉も同じ気持ちでいてくれる。

 ゆきにはそれが嬉しくてしょうがなかった。

 

 蕎麦屋に入り、冷たい蕎麦を頼む。

 こうしていつまでも高杉と一緒に食事が出来たら嬉しい。

「……ゆき、今日は上の空のことが多かったが、ずっと蕎麦のことばかりを考えていたわけではないだろう?」

 高杉の真を突く言葉に、ゆきは少しだけ目を伏せた。

「お前が何処かに行ってしまうんじゃないかと、俺はいつもそんなことばかりを考えてた……。そんな目をしていた……」

 高杉は何処か切なそうに笑う。

 その笑みがとても切ない。

 正直な気持ちを表してくれた高杉に、ゆきは答えなければならないと思う。

「……私は……、高杉さんのことを考えていました。手を繋いで一緒にいるけれど、言葉がないから、本当に好きでいて下さるのか、不安になっていただけなんです……」

 正直な気持ちを高杉に告げると、驚いているようだった。

「……お前も不安に……?」

 高杉の言葉に、ゆきが頷くと、大好きなひとは微笑んで、テーブルの下にあるゆきの手を思いきり握り締める。

「じゃあ俺たちは似た者同士だということだな……。お互いに不安な部分を解消しに行こう」

「はい」

 ふたりは蕎麦を食べ終わった後、高杉の家へと向かう。

 ふたりだけの言葉と、触れ合いで、愛を確かめ合うために。





モドル