*時を重ねて*


 高杉がこの世界にやって来てから、のんびりとした時間を過している。

 今まで厳しい時間を過してきたから、高杉にとってはとても得難い時間のようだ。

 花を愛でて、緩やかに流れる時間に身を置く。

 それが、今までの高杉にとっての贅沢であった筈だから。

 この世界に来て、高杉はやはり独特のカリスマ的なリーダーシップを発揮している。

 会社を立ち上げて、組織作りに威力を発揮しているようだ。

 だが、ゆきとふたりで過ごす時間は疎かにはしてはいない。

 今日もふたりでのんびりと過ごす。

 高杉が暮らし始めたのはやはり和風の住宅。

 和風の庭には、梅や桜、ちいさな紅葉に寒椿。様々な植物が植えられて、とても趣のある庭になっている。

 ゆきもこの庭で、のんびりと過ごすのが大好きで、陽向ぼっこをするのを目的に、よく遊びに行っている。

「高杉さん、美味しそうな梅のお菓子が手に入ったから持って来ましたよ」

「ああ、有り難う、ゆき」

 高杉は静かに言うと、ゆきを縁側に通してくれた。

「お茶でも出そう」

「私がやりますよ。高杉さんに鍛えられて、お茶を淹れるのは随分と上手くなりましたから」

「……そうだな……」

 高杉は穏やかに笑うと、ゆきはキッチンに入る。キッチンといっても、和風なので、どちらかといえば“台所”といった雰囲気だ。

 選ぶファッションはかなりハードな男らしいものなのに、家の中での高杉は、落ち着いた和が好きなようだ。

 和といっても、最近のものを取り入れた、和モダンなのだが。

 高杉好みの深蒸しのお茶を淹れた後、ゆきは和菓子を小皿に入れた。

 縁側にお茶と和菓子を運んで、ゆきは穏やかな気持ちになった。

 高杉と縁側でいると、本当に気持ちが安らぐのだ。

 高杉もゆきも、日頃の生活に忙殺されている。だからこそ、こうした穏やかな時間が、何よりもの糧になる。

「高杉さん、どうぞ」

「有り難う」

 ふたりで縁側に座って庭を眺める。

 おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと高杉とはこうしていたいと思う。

 それが究極の将来の夢だ。

 孫に囲まれるのも良い。

 そんなことを想像するだけで、ゆきはくすぐったい気持ちになった。

 いつか、高杉と穏やかな夢を実現出来たら良いのにと思う。

「やっぱりここから見る庭は最高です。のんびりと温かな気持ちになれますから」

「そうだな……」

「高杉さんとずっとこうしていられたらって思います」

 ゆきが顔を真っ赤にさせながら呟くと、高杉はゆきの頬を優しく撫でてくれる。

 こうしているととても落ち着いた気分になる。

 ゆきは目を閉じて、甘い落ち着きに酔う。

「俺はお前とずっと一緒にいる為に、お前と生きる為にこちらに来たんだからな。だから、ずっとこうした時間は取れるだろう」

 高杉は今の幸せを噛み締めるように言うと、ゆきをそっと引き寄せてくれた。

 ゆきは頬を赤らめながらも幸せで、ついにっこりと微笑んでしまう。

「高杉さんとこうしているだけで、本当に幸せです」

「俺もだ」

 高杉は静かに言うと、暫く、ゆきを抱き締めてくれる。

 この逞しくて優しい温もりを感じて、こうしていられるなんて、ゆきには思っていなかった。

 だがこうしてリアルに感じている。なんて幸せなのだろうかと思う。

 自分たちが生きている。

 それをしっかりと感じることが出来て、ゆきは嬉しくてしょうがなかった。

 ふと高杉の横に、六法全書が置いてあるのが見える。

「高杉さんは、法律に興味があるんですか?」

「ああ。ここがどのような仕組みで政治が行われているかが興味があったからな。だから読んでいたが、やはりきちんと整備がされていて、かなり進んでいると感じる」

「そうですね。確かに色々な点が整備されていますが、今はなかなか決断がない時代なんですよ」

「そうだな。ニュースとやらを見たら解る」

「だから法律の勉強を?」

 ゆきが小首を傾げて高杉に問うと、苦笑いを浮かべた。

「俺が政治に関わる仕事をするかは、正直、分からん。こうして、お前と共にのんびりとしているのが悪くないからな」

 高杉はしみじみ言うと、ゆきを更に抱き締めてくる。

「龍神に、この世界で生きてゆく手助けをして貰ったからな。ここでも自分の志を持って生きてみたいと思っているが、今は、少しだけこういった時間に漂いたい」

 高杉は低いがとても優しく響く声で呟くと、ゆきへの抱擁を解いた。

 そして、庭を穏やかなまなざしで眺める。

「……今までの俺には、こんなにも穏やかな時間が過ごせるとは思ってはいなかったからな……。永遠に訪れずに死んでいくのも構わないと思っていた……。だが、今はこうして、最も欲していた時間が過ごせる。俺はこれが一番幸せだと思っている」

「高杉さん……。私も、こうしているだけで、なんて幸せなんだろうかって思っています。高杉さんと一緒にいられるだけで、私は嬉しいんです。何だか幸せだなあって感じます」

 ゆきは思い切り幸せな伸びをすると、お茶菓子を頬張りながら笑う。

「もっと、最近の楽しい場所だとかにお前を連れていけたら良いけれどな。俺はそういうことは疎いからな。お前には申し訳ないと思っている」

 高杉は済まなさそうに笑うと、ゆきの柔らかな髪を撫でた。

「私は高杉さんとこうして縁側にいるだけで良いんですよ。これだけで幸せです」

 ゆきが言うと、高杉は苦笑いを浮かべた、

「お前は……。だから、都に老けていると言われるんだ。お前を“おばあちゃん”にするなと、この間言われたけれどな」

「おばあちゃんにはなりませんよ。だって、高杉さんと一緒にいると、本当にドキドキし過ぎて、どうしようもないですから。老けることなんて、有り得ないと思いますよ」

 ゆきが自信を持って言うと、高杉はフッと微笑んで頷いてくれた。

「お前がそう思ってくれているんなら、そうなんだろうな」

「はい」

 こうして他愛のない話をするというのも、楽しいもので、こうしてのんびりと話が出来るのも、この縁側にいるからだ。

 高杉とふたりでオヤツを食べた後、ゆきも高杉も思い切り伸びをして、縁側に横たわった。

「高杉さん、お仕事でお疲れですか?」

「ああ」

「だったら、少し眠られますか?」

「そうだな」

 高杉はそう言うと、ゆきの膝を枕にして、横になってしまった。

「少しで良いから、このまま眠らせて貰えないか?」

 ゆきはほんのりと頬を赤らめながら、高杉の髪をそっと撫でた。

「高杉さん、ゆっくりと休んで下さいね」

「ああ……。お前の膝枕が一番安眠出切るな」

 高杉はうつらうつらとしながら、緩やかな表情になっている。

 ゆきは高杉がリラックスしてくれているのを見つめながら、幸せがこれからもずっと続くようにと、ゆきは思わずにはいられなかった。

「……ゆき、重くはないか?」

「大丈夫ですよ。高杉さんが気持ち良く眠って下さっていたら、それだけで幸せですから」

 ゆきが言うと、高杉は手をギュッと握り締めた。

「有り難うな……。この世界に来て、変わらない信念がひとつあるんだ」

「信念?」

 ゆきが小首を傾げると、高杉は静かに笑う。

「……お前を誰よりも愛しているという信念だけは、消えそうにないな」

 高杉は、力強いがとても柔らかな印象を与える笑みを向けた。

「…私も高杉さんから離れないと言う信念は誰にも負けませんよ」

「ああ」

 ふたりでこうして穏やかで温かな時間を重ねていきたいと、ふたりは思っていた。





モドル