*ねがい*


 この荒れ果てた世界であったとしても、大好きなひとと一緒ならば、前向きに頑張ることが出来る。

 この世界を、愛するひとの世界を守ることが出来たら、これ以上嬉しいことはない。

 そう思う。

 力を温存するために、ゆきは自分の世界に戻ってきた。

 本当は寝ていなければならないが、どうしても高杉と一緒に居たくて、ゆきは高杉と共に出かける。

 これはゆき自身のワガママ。

 だが、高杉はそのワガママを受け入れてくれた。

 ゆきにとっては、それが何よりも嬉しいこと。

 ふたりで家を出る。

 元の時空の高杉のスタイルも好きだが、この世界のワイルドスタイルも、とても似合っていて、ゆきは好きだった。

 しっかりと指を絡めあって手を繋ぐ。

 こうしているだけで、ゆきはほっとする。

 高杉にしっかりと守られていると感じられるから。

 ゆきは高杉の大きく力強い手のひらにときめきと安堵を感じながら、しっかりと握り返した。

 ふたりでこうして歩いているだけで、ホッとした幸せな気持ちになるのだ。

 ちらりと横を歩く高杉を見る。すると、かなり厳しい顔をしている。

 整った顔立ちをしているせいか、余計に厳しさを感じていた。

「……まるで地獄だな……」

 高杉はよく通る低い声で呟く。

 確かに、ひとの営みが感じられない、無機質な世界。

 砂漠がそれを総て表している。

 寂しい荒廃した世界。

 胸を締め付けられてしまうぐらいに、冷たくて泣きそうになるような世界。

 だが、高杉といると、その世界もありなのではないかと、ゆきは思った。

 何も生命力すら感じられない世界。

 なのにロマンティックだと思えてしまうのは、高杉が一緒にいるからだろう。

 高杉がそばにいてくれるからこそ、冷たい沙漠にすら、ロマンスを感じてしまうのだ。

 荒廃した世界。

 大好きなひととふたりきり。

 高杉が傍らにいれば、それだけで素晴らしき世界が成立しているのではないかと、ゆきは思った。

「……砂漠を歩くのが辛いなら、戻るか?」

「……暫く、高杉さんとこうしていたいんです……。ワガママかもしれませんが……」

 ゆきはすがるように高杉の大きな手を握りしめる。

 暫くは、ふたりでこのままでいたかったから。

「……そうか、解った」

 高杉は静かに頷くと、ゆきの手を更にきつく握りしめた。

 こうしているだけで幸せだなんて不謹慎だと思われてしまうかもしれない。

 だが、それが今の素直なゆきの気持ちだった。

「……地獄のように切ない風景なのに、こうしていると、切ないぐらいに甘い風景のように思えてしまうんですから、不思議です。高杉さんがそばにいるからだと思います」

 ゆきは静かな微笑みを高杉に向けると、空を見上げた。

 夕焼けがオレンジ過ぎて、妙なノスタルジーを感じずにはいられない。

 綺麗な空色。

 それは、この時空が破壊されずに平和でいたときから、全く変わってはいない。

「……どうした?」

「破壊される前と後でも、空色は変わらないんだなあって思っていました……。本当は、何も変わってはいないんじゃないかって、私はつい思ってしまいます……」

「……何も変わらない……か……。確かに、ひとの本質なんて、全く変わってはいないのかもしれないな……。人間が抱く感情も、自然な営みも、総て。何も変わってはいないのかもしれない……」

 高杉は言葉を噛み締めるように呟く。

「不思議と、高杉さんとこの風景を見ていると、美しく見えてくるんですよ……」

 ゆきは苦笑いを浮かべながら呟く。

 自分の生まれた世界が、こんなにも破壊されて、命すら感じられないというのに、美しいと思う。

 ゆきには、それが不謹慎には思えなかった。

「……地獄のような風景なのに不思議だな……。俺にも美しい風景に見える……」

 高杉もまたフッと笑った。

 きっとお互いがいるからかもしれないと、ゆきは思う。

 高杉とふたりでいられれば、どんな風景でも素晴らしく美しく感じることが出来るのではないかと、ゆきは思った。

 ふたりはふと見つめあう。

 お互いの横顔がノスタルジックな夕陽色に染め上げられる。

 とても神聖な気持ちになる。

 ふたりだけで見つめる夕陽に照らされた世界が、かけがえのないものに変わって行く。

 その素晴らしき世界に魅せられ、お互いの存在に魅せられ、ゆきはゆっくりと高杉を見つめる。

 まるで映画のなかの、スローモーションがかかったかのように、高杉の顔が近づいてきた。

 お互いの気持ちと存在を確かめあうように、唇を近付けてくる。

 ゆきもまた、ごく自然に瞳を閉じた。

 愛している。

 その気持ちが唇に集まってくる。

 最も崇高で純粋な気持ちが、柔らかな唇に集中した。

 ふたりはどちらからともなく、くちづける。

 ゆきはなんて甘くて神聖なキスなのだろうかと思った。

 口付けていたのは、ほんの一瞬だったのに、まるで永遠のように感じる。

 ドキドキとした感覚に、ゆきは溺れていった。

「……ゆき……。本当は地獄なんかはないのかもしれないな……。傍らにお前がいれば……」

「……高杉さん……」

 本当にそうだ。

 高杉がいれば、どのような場所だろうと、そこが極楽になる。

「高杉さんがいる場所が、私にとっても幸せな場所になります……」

「……ゆき……」

 高杉はゆきを強く抱き締めてくれる。

 高杉がいる場所こそが幸せの場所であることは、こうして抱き締められていれば解ること。

 ゆきにとっては、高杉の腕のなかが最高の場所。

 ずっと高杉のいる場所にいられたら良いのにと、ゆきは思わずにはいられない。

 出逢うべくして出逢ったふたりならば、どうかずっと一緒にいられますように。

 神様、お願い。

 ゆきは強く願わずにはいられなかった。

「……どうした?ゆき」

 いつもはクールなのに、優しい光を宿した眼差しが、ゆきに向けられる。

「……ずっとそばにいたいと思っただけです……。高杉さんと一緒にいたいです……」

 高杉の優しい眼差しの前田と、ゆきは素直になれた。

 ゆきは泣きそうになりながら、高杉を見上げる。

 すると高杉は優しい眼差しを向ける。

「……そうだな……。運命がそれを許してくれるのならば……」

 高杉の言葉に、ゆきは唇を噛む。

 本当にそれが許されるのならば良いのに。

 ゆきはそう思わずにはいられない。

「夕陽に願うか……」

「はい」

 ふたりは再び抱き合うと、深い角度でキスをする。

 ずっと一緒にいられるようにと、願いながら。





モドル