*繋いだ先にあるもの*


 手を繋ぐ。

 その行為は、とても親密だと思う。

 素直な“好き”だという気持ちが、沢山詰まっているから。

 義務ではなく、自ら手を差し伸べたい時、自ら手を繋ぎたいと思うとき、溢れかえるぐらいの“好き”という気持ちが満ちているから。

 ゆきはいつも横にいるひとと、手を繋ぎたいと思う。

 いつの間にか、横にいてくれる大好きなひと。

 然り気無く気配りが出来る素敵なひと。

 だから好きになった。

 大好きな気持ちが溢れてくる。

 自分のことしか考えていないように見えながらも、本当は誰よりも周りのことを考えているひとだから。

 ゆきは、いつでも手を繋ぎたいと思う。

 

 高杉とふたりで町を歩く。

 本来は、陽炎や怨霊の警戒なのだが、つい、高杉とふたりだから、デートのような気分になってしまう。

 だが、デートではないし、緊張感を持って歩かなければならないが、それでもゆきはつい華やいだ気持ちを抱いてしまう。

 高杉に着いて歩くと、かなりの早さで歩き回ることになる。

 ゆきが女の子であることはお構い無しだし、その点を特に気遣っているようにも思えない。

 ゆきを他の八葉や、武士たちと別け隔てなく扱ってくれている。

 高杉らしい。

 お姫様のように扱って貰うのも良いけれど、こうして、一人の仲間として対等に扱ってくれるほうが、ゆきは嬉しいと思っていた。

 高杉の熟考された上の扱いが、ゆきにはまた素晴らしく素敵だと思っていた。


 空を見上げると、そろそろお昼も過ぎたぐらいだ。

 朝からだから、かなり歩いた。

 最近では、空の高さで、ゆきは時間がわかるようになった。

 本来は、時計の秒針に駆り立てられるような生活をするのではなく、こうして空を見上げながら判断するのかもしれない。

 歩き回ったせいか、足がかなり疲れてきた。

 よく、“足が棒になる”なんて表現をすることがあるけれども、まさにそれなのかもしれない。

 とにかく足が痛むぐらいに歩き回っている。

 そんな気持ちにすらなる。

 だが、真剣に高杉が見回りをしている様子をみると、ゆきは言い出せなかった。

 それに加えて、女はこれだからと、思われたくもなかった。

 流石に喉が渇いてしまい、ゆきは竹筒に入れておいた水を飲む。

 生温いが、それでも喉を潤すのには充分だった。

 ゆきが水を飲んで一息吐くと、流石に高杉もかなり歩いてきたと気付いたようだ。

「……随分と歩き回ったみたいだな……。流石に休まなければならないだろう……」

 高杉は空を見上げて時間の経過を確かめると、ゆきを静かに見た。

「ゆき、少し休憩するか……。何処かの茶屋でもいって、腹拵えをしなければならないな」

「ありがとうございます」

 ゆきは正直にホッとしていた。

 今は少しでも休みたかったから。

 こちらの世界に来てから、確実に体力は削られている。命を削りながら生きているのだから、当然なのかもしれないのだが。そのせいもあり、疲れやすくなっていた。

 高杉は、握り飯と簡単なおかずが食べられるような茶屋に立ち寄ってくれた。

 足の裏が固くなって痺れている上に痛い。

 だから、腰を掛けて休むことが出来るのはかなり有り難かった。

 こうして座っているだけで、かなり楽だ。

 腰かけて足の痛みを癒していると、美味しそうな握り飯と簡単なおかずが運ばれてきた。

 歩き回った後だから、ゆきは握り飯がとても美味しく思える。清々しい美味しさと言っても良かった。

「美味しいですね。何だか、ホッとする味です」

「そうだな」

 高杉は薄く笑いながら頷く。

 普段の高杉が冷徹な表情ばかりだから、笑顔がとっておきに甘く見える。

 ゆきは高杉の笑顔に魅了されずにはいられない。

 高杉の独特な冷徹さや緊張感を総て払拭するような笑顔に、ゆきは我を忘れて見入っていた。

「どうした?」

 高杉が怪訝そうにゆきを見る。いつもよりも優しい顔。

 こんな表情を見せられたら、ドキドキし過ぎて、次にどうリアクションをして良いのかが解らないではないか。

 ゆきはついドギマギしてしまい、どうして良いのかが解らなかった。

「……な、何でもありませんよ、本当に何でもないんです……」

 ゆきが真っ赤になりながらシドロモドロに言うと、高杉はびっくりしたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。

「変わった奴だな」

「は、はい」

 今は、高杉に何を言われても、ゆきは恥ずかしくて堪らない。

 つい耳まで真っ赤にして、ゆきは俯くことしか出来なかった。

 

 握り飯を食べ終わると、また、町を見廻る。

 だが、立ち上がったところで、ゆきは足に違和感を感じた。

「……んっ……」

 ほんの一瞬だけ、ゆきは痛みの余りに顔をしかめてしまったが、直ぐに笑顔に戻す。

 高杉には、絶対に知られたくはなかったから。

 だが、洞察力の鋭い高杉は、直ぐにゆきの変化に気付いたようだった。

「ゆき、具合が悪いのか?」

 高杉は静かに、しかし、ゆきを咎めるように低く言う。

 かなり厳しい眼差しをゆきに向けてきている。その眼差しを見つめていると、ゆきは逃れられないと思った。

「……大丈夫です」

 高杉の前だから、ゆきはつい強がりを言ってしまう。

 だが、そんな中途半端な強がりが、高杉に通用するはずがない。

「……嘘をついても解る。俺の前だけでも素直にはなれないか? ゆき」

「それは……」

 高杉の前だから素直になる。

 大好きな人の前だからこそ素直になる。

 そうかもしれない。

「……歩きすぎて、足が痛いです……」

 ゆきが正直に言うと、高杉は苦笑いを浮かべたが、半ばホッとしているようだった。

「しょうがないな。脚の疲れが取れるとっておきの場所に連れていってやる」

「……はい」

 高杉の声は相変わらず低くて冷たいものだったが、それでも瞳は優しさに満ちていた。

 ゆきは温かな高杉の瞳にドキリとする。

「あ、ありがとうございます」

 高杉がいきなりゆきの手を取ると、そのまま歩き始めた。

 高杉がスタスタと長いストライドで歩いてゆくのを、ゆきは一所懸命着いていく。

 しっかりと手を繋いで貰っているからか、不思議と足は痛くなかった。

 手を繋いで貰っているだけなのに、本当に不思議だ。

 手を繋いでいると、足の痛みなんて何処かにいってしまうぐらいに、安らぎが流れてくる。

 大好きな人に手を繋がれているだけで、こんなにも違うのだと、ゆきは思った。

「もうすぐだから、頑張れよ」

「ありがとうございます」

 高杉は町から少しだけ離れた、川のほとりに向かう。

 とても静かで、ホッとする環境だ。

「ここだ」

 高杉が指し示しをしたのは、綺麗な小川だった。

「この石に腰かけて、足をこの流れに浸けてみろ。気持ちが良いはずだ」

「はい」

 ゆきは高杉に言われた通りに、くつを脱ぐ。

「すべるといけないからな」

 高杉は静かに言うと、ゆきの手を取って、滑らないように支えてくれた。

 石に腰を掛けて、そっと足をつけると、ほんのりと暖かい。

「温泉ですね!」

「ああ。温泉に漬かれば、少しは楽になるだろう」

「はい」

 足湯に入ることが出来るなんて、ゆきは思ってもみなかった。

 気持ちが良い。

 だが、足湯よりも、高杉がしっかりと手を握って居てくれたことが、一番効果的だった。

 こうしてずっと手を握られていると、何だか高杉の特別なひとになったような気がした。

 手を繋ぐこと。

 それはある意味、かなり親密でないと出来ないのではないかと、ゆきは思う。

 掌から感じる高杉の温もり。

 それは、ゆきに特別な甘い感情を教えてくれる、とっておきの温もりであると思う。

 スペシャルな温もりを得るために、ゆきもまた高杉の手をギュッと握り締める。

 幸せが滲み、ゆきは笑顔になる。

 高杉の笑顔と重なり、幸せな気持ちを運んでくれた。






モドル