小松がこの時空にやってきて、間もなく一年になる。 カンパニーを立ち上げるのが楽しくて、本当に心から楽しんで会社を立ち上げて、運営をしている。 自由に生きることが出来、自分に情熱があれば、誰でもどのような仕事に就くことが出来る。 本当に素晴らしい世界だ。 小松がいた時空とかなり似た過去を持つ異世界。 小松の世界では、階級が厳しく定められており、職業選択の自由なんてなかった。 生まれた環境が総てだった。 だから、才能があっても埋もれた者は無数にいたし、才能も能力もないのにのさばるヤツも沢山いた。 だが、この世界は違う。 生まれついた経済的な環境というのは、多少影響は受けてはいるが、それでも前向きに頑張れば道が開ける機会もある。 それは本当に幸せな事だ。 小松はこの時空の素晴らしさを肌で感じている。 この世界も、このような状況になったのは、ここ七十年ぐらいなのだと聞く。 そう考えれば、開拓者がいたからこその世界であることを、思わずにはいられなかった。 カンパニーを運営するというのは、なんて楽しいことなのだろうかと、小松は思う。 自分で様々なことが動かせるのだから、当然ではあるのだが。 仕事に前向きに取り組むことが出来るのは、きっとゆきの存在が大きい。 ゆきが精神的な部分の拠り所が大きいから、きっと頑張れるのだろうと思う。 ただ、仕事の運営がかなり忙しいせいか、ゆきをついかまえなくなる時間も多くなる。 ゆきはまだ学生であるから、そのあたりのケアをしっかりとしてあげなければならないと思っている。 ゆきと一緒にいたい。 出来る限り長く。 それは深く愛しているがゆえに思うことだ。 小松はたまにゆきに逢いたくて、逢いたくて堪らなくなる。 ゆきに一週間も逢わなければ、途端に、重症なゆき欠乏症が発生してしまう。 仕事も大事で、今は沢山の社員も抱えている身の上であるからか、なかなかワガママで、ゆきを呼ぶことは出来ない。 何とか時間を作って、小松はゆきと会う時間を作ってはいるのだが、なかなかそれも儘ならなくなってきていた。 今日も、ランチを食べる時間が惜しくなるくらいに仕事をする。 そういう日が何日も続いているせいか、小松はかなりイライラして、限界に近くなってきていた。 愛するゆきに逢いたい。 逢いたくて、逢いたくて堪らなくなる。 ゆきの笑顔の禁断症状すら出てしまう始末だ。 我ながら、なんと愛しているものだと、思わずにはいられない。 小松の世界には、このような情熱的な愛情というのは、余り存在はしなかった。 穏やかな優しいものであればったが、それはある意味、静かでそして空気のようなものだった。 だが、ゆきに抱く感情は、情熱的で奥深い。 一生、なくなることはないものだと、思ってしまわずにはいられなかった。 今日も限界にきてしまい、小松はゆきを呼び出す。 少しで良いから逢いたかった。 こういう時は便利で合理的なものがある。 携帯電話だ。 この魔法のような機械があれば、なんとでもなるなんて、なんて、素敵な世界ではないかと、思う。 この時空には、合理的でかつ使いやすい道具が沢山ある。 この環境のお陰で仕事がスムーズに片付くのと同時に、仕事の奴隷のように捕らえられてもいる。 小松は直ぐにゆきにメールをする。 かなり簡潔にだ。 逢いたい。会社に来て。 ただこれだけで伝わる。 とても合理的で素晴らしい。 一々ひとを通さなくても良いのだから。 人を通さないと、誤解も生じないので、小松にとってはそれはまた都合が良い。 こういったところは、とても気に入っていた。 小松からメールが入っているのに気が付き、ゆきは携帯電話を、見た。 相変わらず、簡素すぎるメールだ。 それが小松らしいといえば、らしいのだが。 ゆきは直ぐに返事をする。 相手の都合を聞かないところなんて、らしすぎる。 ゆきは苦笑いを浮かべながら、小松に返信をする。 用事があります。 それを終えてからなら、会社に向かえます。 ゆき ゆきはメールを素早く送る。 小松を優先ばかりするわけにはいかない。 ゆきも逢いたい。 逢いたくて堪らない。 だが、小松中心に世界を回してしまうと、後で辛いことになるのではないかと思い、そうしないように努力はしている。 小松のことを愛しているけれども、これは譲れなかった。 ゆきにもゆきの世界がある。 小松にも小松の世界があるのと同じで。 駆けつけたいけれども、そこは気持ちを押さえた。 ゆきから直ぐには行けないという返事をもらい、小松は複雑な気持ちになった。 解っている。 ゆきにはゆきのやるべきことがあると。 それは自分と同じであると。 だが、ゆきに夢中になりすぎていて、その部分が見えなくなることがある。 「……私としたことが、どうかしているな……」 そう思わずにはいられないぐらいに、ゆきに逢いたくて堪らないのだろう。 我慢しすぎているのかもしれない。 ゆきに逢いたくて、逢いたくて堪らないくせに、それを上手く口にすることが出来ないのだ。 本当に逢いたい。 本当に抱き締めたい。 限界まで我慢をしてしまうと、我が儘な部分が頭をもたげてしまうのだ。 これはまずいとは思いながらも、立ちきることが出来なかった。 ゆきを待ちながら仕事をする。 ゆきに会わないと、途端に、心が萎えてしまう。 やはり、仕事をするには、ゆきという名前のエネルギーが必要なのだろう。 仕事をしていると、軽やかで華やかな足音が聞こえてくる。 ゆきだ。 小松はつい笑みを浮かべた。 ゆきは用事を済ませると、小松のオフィスに向かった。 やはり、大好きなひとに会えるというのは、幸せな事だ。 最近、会えなかったから余計にそう思うのかもしれない。 ゆきは、陣中見舞いに薩摩芋で作ったお菓子を持っていく。 やらなければならないことを優先したけれども、やはり小松には逢いたい。 溺れすぎない訓練もあり、用事を優先させたのだ。 ゆきは小松の会社の受付に顔を出し、CEOの部屋までのセキュリティカードを貰った。 もうすぐ小松に会える。 会ったら直ぐにどうしょうか。 抱き締めたいけれども、そんなことをすれば小松が驚くだろうから、する勇気はなかった。 ゆきは深呼吸をして、ドアをノックする。 「小松さん、ゆきです」 「入って」 小松に言われて部屋に入ると、相変わらず仕事をしていた。 「待ってて、直ぐに終わる」 待たせて悪いというのは、ある意味悪い杞憂だったのだろうか。 自分の方が好きなのかもしれない。 そんなことを思っていると、小松は仕事をすぐに済ませて、立ち上がる。 ゆきに向かって来たかと思うと、いきなり抱き締めてキスをする。 痛みのある野獣のようなキス。 口のなかがほんのりと血の味がする。 ゆきが痛みに顔をしかめると、小松は唇を離した。 ゆきは痛くて無意識に唇を舌で撫でる。 「……私を待たせたおしおき、だよ……」 小松は低い声で呟くと、ゆきを思いきり抱き締める。 「……きみを沢山感じさせて」 小松は切羽詰まったように呟く。 小松もゆきと同じように求めてくれていたのだ。 ゆきは優しく甘い気持ちになると、小松を抱き締める。 「私にも小松さんを沢山感じさせて下さい……」 ふたりはしっかりと抱き合うと、お互いに熱くて深い感情を分けあった。
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