*ある日の出来事*


 小松が、ゆきの世界に来てから、あっという間に馴染んでしまった。

 余りにもの馴染みぶりに、ゆきも驚いている。

 小松は、事業を起こして、直ぐに成功させてしまった。

 これも、小松の力ゆえだろう。

 合理的かつ物事を見極める力があるからこそ、出来ることなのだろうと、ゆきは思った。

 小松は、こちらの世界でも、相変わらずの働きぶりだ。だからこそ成功を手にすることが出来たのだろうと、ゆきは思った。

 だからこそ、小松の体調が心配にもなる。

 本当に大丈夫なのだろうかと、ゆきは思わずにはいられない。

 ゆきにとって、小松の成功は嬉しくあるのではあるが、それよりも体調が心配だった。

 それが重い事実として残ってしまう。

 小松の体力だけが、本当に心配だった。

 

 今夜は、小松の家にお泊まりだ。

 お泊まりと言っても、小松はまだ仕事からは帰って来ない。先に寝ておくようにと、言われる始末だ。

 かなり仕事がたてこんでいるのだろう。

 折角、抱き締めて眠って貰えるには、とても良い季節になったというのに、抱き締めてくれて、抱き締められる相手は、今夜も遅いのだ。

 ゆきはため息が出る。

 小松が大変な立場にあることは知っているし、率先して働かなければならないことも分かっている。

 なのに、こうして拗ねたような気持ちになってしまうのだ。

 夕食も済ますから、先に食べておくように言われた。

 小松に自分が作った料理を食べて欲しくて、頑張っているのに、何だか切なかった。

 最近、小松に食事を作る機会がとても少なくて、ゆきはどんよりとした気持ちになっていた。

 やはり大好きなひととは、一緒に甘い時間を過ごして、幸せを分け合いたいと、ゆきは強く思う。

 小松が帰ってくるまでは起きていたい。できたら、「おやすみ」と言いたいが、眠くなってきてしまった。

 時計を見ると、12時近い。

 眠くもなる筈だ。

 ゆきは、眠気には流石に弱くて、目を深く閉じてしまう。

 もう我慢ができなくて、結局は、ベッドに潜り込んで寝てしまった。

 

 どれぐらいうとうとしていたのかは、分からない。

 ただ、うとうとしていて、とても気持ちが良かった。

 このままずっと眠っていたいような、そんな気持ちにすらなる。

 だが、柔らかく抱き締められて、ゆきはその甘い感覚に誘われるように、ゆっくりと目を開けた。

 目の前には、小松が寝仕度をして横になっていた。

「……帯刀さん……」

 頭がぼんやりとして、ついぼけてしまう。

「……ごめん、起こしてしまったかな」

「起こされないより良いです」

「そう……。だったら良かった」

 小松はふと笑うと、ゆきをギュッと抱き締めてくれた。

 こうして抱き締められると、とても気持ちが良かった。

 小松はゆきに口付けた後、パジャマのボタンをそっとはずしにかかる。

「帯刀さん、お疲れではないですか?」

「疲れはあるけれど、君を愛することが出来るから、私は余り気にはならないよ」

 小松はゆきをしっかりと抱き締めて離さない。

「君は疲れているの?」

「大丈夫です」

「だったら、私のことは心配しなくて大丈夫だから。君を抱きたい。君を抱くことが、私にとっては一番の幸せだからね」

 小松にキッパリと言われて、ゆきはついドキドキしてしまう。

 甘い感覚に溺れてしまいそうだ。

 小松が幸せなことは、ゆきにも幸せなことだ。

 ゆきは小松に同意するように、しっかりと抱き締めた。

「そう……。良い子だ……」

 小松は低めの声で呟くと、ゆきのパジャマを脱がしてゆく。

 こうして愛し合う瞬間だけは、小松がとても近くにいてくれる。それがゆきには嬉しくてしょうがなかった。

 このひとときが、ゆきにとっては貴重な時間だった。

 

 翌日、小松は休日だったが、疲れのせいか寝込んでしまった。

 ゆきは、小松を緩やかに看病をする。

 今夜は泊まり込むつもりだ。

「……申し訳ないね……。折角の休みなのに、君を何処にも連れてはいけないなんてね……」

「そんなことは気にされないで下さいね。私は帯刀さんのそばにいるだけで、嬉しいんですから……」

 ゆきは心配な想いを表さないように、穏やかに微笑むと、小松の手を握り締めた。

「今日はゆっくり休んで下さいね」

「有り難う」

 小松は申し訳なさそうに微笑むと、ゆきの手を握り返してくれた。

 小松が安心して眠るのを見届けてから、ゆきは、昼の準備をしたり、やらなければならないことを行う。

 こうして小松のために色々と行うことが、ゆきには一番幸せだ。

 大好きなひとのために、何かが出来るというのは、なんと幸せなことなのだろうかと、ゆきは思った。

 こうした時間を重ねていこうと、思った。

 

 昼時になり、ゆきは小松が起きるタイミングを見計らう。

 先程に比べると、随分と顔色が良くなった。

 小松の無防備な寝顔を見ることはなかなかないから、ゆきはついじっと見つめてしまう。

 小松の様子を見ていると、愛しい気持ちが込み上げてきた。

 ゆきはホッとする。

「……ん……」

 小松がゆっくりと目を開ける。

 昨夜よりも、生命の力が強い光を、ゆきに見せてくれる。

「帯刀さん……」

「ゆき、随分と気分が良くなったよ。あと少し休めば、大丈夫だから……」

「それは良かったです」

 ゆきはにっこりと笑うと、ホッとした。

「……過労だね、完全に」

「そうですね……。余り無理はされないで下さいね?」

「分かっているよ。だから、そんな心配そうな顔はしないの。今日、ゆっくりとしたら、良くなるから」

「だけど無理はされないで下さいね?」

「解ったよ。君には弱いよ」

 小松は苦笑いをしながら、ゆきの手をしっかりと握り締めた。

 

 ゆきが用意をした消化の良いおかゆを食べた後、小松は再び眠る。

「気持ちが良さそう」

 見つめているだけで、ゆきは幸せな気持ちになる。

 自分も眠りたくなる。

 ゆきは、こまつにつられて、ベッドに寄り添うように横になる。

 とても幸せに想いながら、ゆきはゆっくりと目を閉じた。

 

「眠っている……」

 起きた小松がクスリと笑いながら、ゆきを見つめる。

 もう少しふたりで眠りたい。

 そう想いながら、小松はゆきを抱き締める。

 そのまま再び眠りに落ちた。

 幸福の国へと向かっているのを感じながら。

 次に目覚めたら、もっと体調は良くなっているだろう。

 今度は、もっと幸せな気持ちになっているだろう。

 小松はうっとりとした幸せを感じながら、深く眠った。



モドル