*温かな我が家*


 昨日までは夏日だったのに、急に寒くなってしまい、思わず震えてしまう。

 最近は妙な気候だ。

 これも経済活動のつけなのかと、小松は思う。

 百年と少しで、随分と環境が変わってしまった。

 地球の温暖化や異常気象はもうここまで来ているのだということを、改めて感じてしまう。

 小松のいた時空は、日本は四季をきちんと感じられていた。

 春らしく、夏はここまでねっとりとした高い気温ではなかったし、秋は深まりを感じたし、薩摩でも冬は少しながらも雪はちゃんと降っていた。

 京の四季もそれは美しかった。

 なのに今はそんな季節の移ろいを感じられない。

 それがとても残念に思えてならない。

 自分の子供には、自分と同じように四季を感じて貰いたい。

 強く思わずにはいられなかった。

 子供。

 昔は、一生、子供を持つかとはないと思っていた。

 自分も養子であるから、見込みのあるものを養子にとっても構わないとすら思っていた。

 だが、今は違う。

 ゆきと出逢い、恋に落ちて愛し合うようになってからは、逆に子供が欲しいと思うようになった。

 ゆきとの子供ならば、何人も欲しいと思わずにはいられない。

 だから余計に、環境や自然を気にするようになってしまったのかもしれない。

 

 帰宅が深夜になってしまい、小松はひとり車で自宅に帰宅する。

 今夜は随分と寒くて、小松は急いで帰る。

 今夜はゆきが家にいるから、温かな自宅に帰宅することが出来る。

 それが嬉しかった。

 過去にいた時空では、深夜に帰宅するのは当たり前で、なにも感じなかった。

 今は、ゆきが待ってくれているだけで、早く帰りたいと思わずにはいられない。

 ゆきが待ってくれている。

 それが何よりもの御褒美になることを、小松は知っている。

 深夜だから、先に眠っているように言っておいた。

 ゆきには余り負担をかけたくはなかった。

 自宅マンションの駐車場に車を置く。

 高級マンションだから、セキュリティも施されているから安心だ。

 小松は愛車であるハイブリッドカーを駐車場に入れたあと、ゆきが待つ我が家へと向かった。

 ゆきがいるから、“我が家”の表現がピッタリだ。

 ゆきがいなければ、“我が家”とは言えない。

 もうそうなってしまっているのだ。

 小松にとっては、ゆきが、温かさの象徴だった。

 自宅のセキュリティを解除して、家の中に入る。

 廊下を歩いている途中で、灯りがついた。

「お帰りなさい、帯刀さん」

 パジャマにカーディガンを羽織ったゆきが、にっこりと微笑みながら、出迎えてくれる。

「ただいま。ゆき、先に眠っているように言った筈だけれど?」

「眠っていましたよ。うとうとしていました。うとうとぐらいが気持ち良くて丁度良いんですよ。帯刀さんが帰って来たことも気づけますから」

 ゆきはにっこりと屈託ない笑みを向けてくれた。

「外は随分と冷えていますよね。寒くなかったですか?」

「大丈夫だよ。車で帰ってきたから、寒さは余り感じなかったよ」

「本当に?」

 ゆきは心配そうに小松を見つめたかと思うと、手をしっかりと握り締めてきた。

 ゆきの手は、その性格と同じようにとても温かい。

 こちらがドキリとしてしまうぐらいに温かい。

「大丈夫だよ。今、君にこうして温めてもらったからね」

 小松は逆にゆきの手を取ると、そこにキスをした。

 そのとたん、ゆきは真っ赤になって俯いてしまう。

 それがまたゆきらしくて、とても可愛らしかった。

 ゆきの手が更に暖かくなり、小松はほんのりと微笑んだ。

「私はお風呂に入ってくるから、君は先に眠っていなさい。明日も早いんでしょ?」

「帯刀さんがお風呂から上がるまで、待っていますよ」

「ダメ。風邪を引くでしょ。自分の体調は自分で整えなさい」

 小松が諭すように言うと、ゆきは頬を膨らませた。それもまた愛らしい。

 ゆきを見つめているだけで、ほっこりした気持ちになり、小松は癒される。

「ダメだよ。眠りなさい」

「帯刀さんと一緒にいたいだけなんです」

 ゆきは素直に甘えてくる。これがまた可愛くて、小松はつい甘やかせてしまう。

「しょうがないね。私がお風呂から出たら、直ぐに寝る。待っている間も、ちゃんと布団に入っていること。守れる?」

「守ります」

「だったらしょうがないね」

 小松はわざとため息を吐くと、ゆきが恥ずかしがるのは承知で、軽々と抱き上げた。

「ベッドに戻るよ、ゆき」

「は、はい……」

 恥ずかしそうに真っ赤になって俯くゆきが可愛くてしょうがない。

 この姿が見たくて、小松はゆきを抱き上げたのだ。

 ベッドに寝かせて、小松はゆきの唇に軽くキスをする。

「良い子だから大人しくしていてね……」

 小松が耳元でわざと艶やかに囁くと、ゆきは耳まで真っ赤になって小さく頷いた。

 

 小松は素早く風呂に入る。ゆきが指宿温泉の入浴剤を入れていてくれたのが、嬉しい。

 いつもならばのんびりゆったり入浴をしたいところだが、今夜はそれよりも、ゆきの温もりをしっかりと感じたかった。

 寒い夜は愛するものと一緒にいたかった。

 抱き合って、温もりを共有してあげたかった。

 小松は素早くシャワーを浴びたあと、バスルームを出る。

 髪が長いことをこれほどまでに恨めしいと思ったことはなかった。

 髪を素早く乾かした後、小松はゆきの待つベッドルームに向かう。

 ゆきと一緒の夜は、いつでもベッドが待ち遠しくなった。

 小松がベッドルームに入ると、柔らかな寝息が聞こえた。

 ベッドに潜り込むと、ゆきは安らかな寝息を立てていた。

「……起きていると言ったのに、君はしょうがない子だね……」

 小松は苦笑いを浮かべると、ゆきを抱き寄せた。

 抱き寄せると本当に温かい。

 その温もりは、どのような暖房器具よりも素敵な温かさだ。

「……ん、帯刀さん……」

 ゆきが甘い声で囁きながら、小松に抱きついてくる。

 そのしぐさが可愛い過ぎて、堪らなくなる。

 本当に可愛い過ぎる。

 小松はゆきを愛したくて仕方がなくて、その柔らかな身体を組み敷いた。

「……あ、帯刀さん!?」

 ゆきはようやく目覚めたようで、目を丸くしながら、小松を見る。

「……君が可愛いから悪いんだよ……」

「……帯刀さんっ!」

 小松がゆったりと愛し始めると、ゆきは愛の世界へと溺れてゆく。

 寒い夜。

 愛するものと過ごす夜は、最高の楽園になる。






モドル