中編
小松がプラニングしてくれたデート。 昼間はゆきがプラニングをし、夜は小松がプラニングをする。 なんて贅沢なのだろうかと、ゆきは思わずにはいられない。 アフタヌーンティーをゆったりと楽しみながら、ゆきはにんまりと笑顔になるぐらいに幸せだった。 「たまには、アフタヌーンティーというものも良いものだね。ゆったりと出来るから」 「はい。こうして、帯刀さんと一緒にいられるのは嬉しいです」 そうなのだ。 こうして同じ時間を愛する小松と共有する。 それが、ゆきにとっては一番大切で幸せなことなのだ。 ゆきは改めてしみじみと思った。こんなにも幸せな時間は他にないのだと、ゆきは感じずにはいられない。 内容だとか、そんなことは、本当はどうでも良いことなのかもしれない。 「幸せそうな良い表情をしているね。良いことだけれどね」 「帯刀さんとこうして一緒にいられるだけで、本当に幸せなんだと思っています。だから、表情に出たのかもしれませんが」 ゆきがくすりと笑うと、小松は更に手を強く握りしめてくる。 温かくて、力強いのに、何処か繊細な気持ちが伝わってきた。 手にいきなりキスをされて、ゆきは目を見開く。 いきなりの甘い行為に、心臓がいくらあっても足りない。 こんなにもドキドキさせるのは、小松だけだ。 「ゆき、君は自分が何をしたか解っている?」 「え……?」 「無自覚もここまで来れば、天才だね。君は全く、どうして私が自分が抑えられなくなるようなことを、簡単に言うの……」 小松は甘い艶のある苦しみを滲ませながら呟くと、ゆきの手を握りしめたままで離さない。 ドキドキして、恥ずかしくて、ゆきはまともに小松を見つめることが出来ない。 見つめてしまえば、ドキドキし過ぎて、このまま溶けて自分が消えてしまうような気すらした。 「……ここを出てから覚悟しなさい」 「か、覚悟って!?」 「自分が一番解っているでしょ?どのような覚悟がいるかぐらい……ね?」 小松の艶が溢れた声に、ゆきは鼓動がおかしくなる。 午後の爽やかでロマンティックなはずのティータイムが、何だか官能的な時間になってしまった それは小松故のことであることを、ゆきは解っている。 「さあ、スコーンとやらが、残っているよ。しっかりと食べなさい」 「あ、はい」 ゆきは、クロデットクリームと、ブルーベリージャムを付けて、シンプルなスコーンを食べる。 やはりスコーンは美味しい。じっくりと味わえるのが素敵だ。 「美味しい?」 「あ、あの、美味しいです……」 ゆきは、真っ赤になるのを恥ずかしく思いながら、スコーンを食べる。 いつもよりも美味しく食べられるのは、小松と一緒に同じものを食べているからだろうか。 「スコーンとやらは、自分で甘味が調整出来るのが良いね。私は気に入ったよ。特にクロデットクリームが良いね」 小松はさらりとクールに呟くと、ジャムはほんの少しだけつけて、クロデットクリームをたっぷりめにつけて楽しんでいた。 「気に入って頂けて、嬉しいです」 「合格だよ。ゆき」 小松に言われると、やはり嬉しいとゆきは思った。 「では、私も君に合格だと言って貰えるように、後半のデートは頑張らないとね」 何処か意味深に言われて、ゆきのドキドキは全く止まらなかった。 アフタヌーンティーを楽しんで満足した後は、小松がデートをしきる番だ。 「ね、今から、水族館に行こうか」 「今からなら、閉館時間間近ですから、余り見られないですよ?」 「そう、それが狙いなんだよ」 クスリと小松は意味ありげに笑った後、ゆきの手をまるでお姫様のように取ると、水族館までエスコートしてくれた。 閉館時間間近の水族館は切ないノスタルジーが詰まっている。 誰もが帰ってゆくのに、ゆきと小松は逆行するように進んでいく。 そのせいか、スムーズにクリアに水槽の様子を覗き込めた。 「本当に、ゆったりと見られますね」 「でしょ?穴場だよ、閉館間近の水族館は」 「確かに」 小松とふたりだけで、水族館を二人締めしているような気がした。 だから、深海にいるような、ロマンティックな時間だ。 ふたりだけで、深海にいるような気分になった。 完全に誰もいなくなる。 すると、小松は、ゆきを背後からしっかりと抱き締めてくる。 「……ほら、こうして抱きしめられるでしょ?」 「……あっ……」 深海で二人きりのような気持ちになる。 なんてロマンティックなのだろうか。 ゆきはついうっとりとした気分になった。 小松の男らしさと温もりを直に感じることが出来る。 肌が滑らかに紅潮して、ゆきは女としての部分がより強調されるホルモンが出ているのではないかと、思わずにはいられない。 ドキドキしながら、ゆきは小松に総てを預けた。 「良い子だ……。君は……」 小松はフッと微笑むと、更に強く抱き締めてくる。 「閉館間際の水族館って素晴らしいでしょ?君をたっぷりと堪能出来るんだから」 小松は官能的な笑みを浮かべると、ゆきの白い首筋に口づけてきた。 「……こんなことも出来るからね」 からかうように言われて、ゆきはこの場から離れたくなるぐらいに恥ずかしくなってしまった。 本当に恥ずかしくて、ゆきはどう反応して良いのかが分からなかった。 小松は、腕のなかで、ゆきの華奢な身体をくるりとひっくり返して、自分と向きなおさせる。 「……帯刀さん?」 「ここまできたら、こうするのが一番……でしょ?」 小松は官能的に甘い声で差囁くと、ゆっくりと顔を近づけてきた。 小松の唇が、ゆきの唇にしっとりと重なる。 誰かに見られるかもしれない。だが、見られないかもしれない。 スリルがキスを更に情熱的なものに変えてくれている。 水槽では、鰯の大群が、美しい姿をキラキラと輝かせて、ふたりの時間を彩るように、泳いでいた。 結局は閉館間際、ギリギリまでいてしまった。 コンパニオンのような、案内スタッフの女性にはほんのり申し訳なかった。 「ゆき、じゃあ行こうか。今からうちにおいで。今日はうちでゆっくり夕食を取るのが良いでしょ?」 小松の自宅。 嬉しい。 小松とのんびり出来るなんて、久々だ。 意識しすぎてドキドキする。 ゆきは、頬を紅に染め上げると、しっかりと頷いた。
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