*ふたりの休日*


 小松と結ばれて、もうすぐ一年になる。

 間もなく結婚記念日だ。

 結婚してからの幸せな日々は瞬く間で、あっという間の一年だった。

 ふたつの時空のはざまで愛を育んできた。

 結婚という形を取ってからも、愛の育みは止めてはいない。

 ふたりで愛を育んで、更なる大きなものにできればと思っている。

 更に小松と愛を育むことが出来ればと思わずにはいられない。

 

「ゆき、出かけるよ」

「はい」

 小松がこの世界にやって来て、月日を重ね、ようやくふたりで人生をあるいて行くようになった。

 そばにいて、お互いを支えながらの日々が続く。

 今日はふたりで手を繋いで、のんびりと公園に出かける。

 久々の小松の休日で、ゆきが外に遊びに行きたいと、リクエストしたのだ。

 外と言っても、ふたりでただのんびりとしたいだけだから、わざわざ繁華街に行くよりも、近くの公園が良かった。

 公園を散歩してのんびりする。それだけで、ゆきは良かった。

 小松とふたりでのんびりと、心が洗われる時間が出来れば、ゆきはそれで良かった。

「本当にこれで良かったの?私としてはのんびり出来て良いけれどね」

「私も帯刀さんとのんびり出来たら、それで良かったので……。それに、今は、繁華街に行くのは大変ですから……」

 ゆきは苦笑いをする。

「……確かに。繁華街に行くにはかなりきつくなってきたね」

 ゆきの身体を見ながら、小松も苦笑いを浮かべながら同意する。

 あと二ヶ月すれば、ゆきは母親になる。

 お腹も随分と大きくなり、そろそろ繁華街に行くのは大変になる。

「それに、緑を見たほうが、胎教には良いような気がします」

「そうだね。緑は心も身体も癒してくれるからね」

「確かに」

 ゆきと小松はお互いに顔を見合わせると、フッと甘く笑った。

 ふたりでのんびりと歩いて行けば、公園に行くまでの道程もとても楽しくなる。

 つい、笑顔になる。

 ふたりで過ごす穏やかな時間は、誰よりも幸せで、満たされた気持ちになる。

 豪華な食事や、イベントなんて、何も必要じゃない。

 ただ、ふたりでいられればそれで良いと思っている。

「君は何処に行きたいとか、ないね」

「ただ一緒にいられたら、それで私は幸せです」

「それは私も同じかな。君と一緒にいられたらそれだけで、嬉しいけれどね」

「私たちは同じですね」

「そうだね」

 お互いにくすりと笑いあう。それだけで幸せだ。

「ゆき、だからこそ、私は君を生涯の伴侶だと思ったし、君を愛したんだよ。今までは、君のように、些細なことでも私と価値観が似ているひどいなかったんだよ。一番大きいのは、やはり幸せの価値観が同じだということだよ」

 幸せの価値観が同じ。

 これほど素晴らしいことはないのではないかと、ゆきは思う。

 同じベクトルで物を考えられるのは、なんて素晴らしいことなのだろうか。

 愛するひとと同じ視点で物事を見られることほど幸せなことはないと、ゆきは思った。

 公園まで来て、春の日差しを楽しむ。

 ベンチに腰を掛け、空を見上げる。

 何にも特別なことはしてはいないが、こうしているだけで楽しい。

 木陰でふたりでのんびりしていると、何でもありのような気がしてくる。

「ゆき、からだの調子はどう?」

「脚が浮腫みやすい以外は、とても調子が良いですよ」

「そう。それは良かった」

 小松はフッと微笑むと、ゆきの手を取った。

「浮腫むなら、足をあげると、良いらしいよ。だから、私の膝に足を乗せれば良い」

 小松の提案が大胆すぎて、ゆきは思わず目を見開く。

「……恥ずかしいです……」

「ゆき、誰も何にも思わないよ。仲の良い夫婦だと、思うだけだよ」

「恥ずかしいのには、かわりはないですよっ」

 ゆきは真っ赤になりながら、恨めしい気分で小松を見る。

 だが、従ってしまいたくなる。

 それぐらい魅力的な申し出ではある。

「さ、ゆき」

「帯刀さんは、随分と大胆ですね」

「私? さあ、そんなことは思ったことはないけれどね………」

 小松はくすりと笑うと、ほんのりと知らん顔をする。その表情が、とても魅力的だ。

「君には選択肢、なんてものは、はなからないような気がするけれど?」

 小松は、ゆきがかたくなになれないことを知っていて、わざと言うのだ。

「解りました……」

「今日は、レジャーシートもフリースマットもあるからね。至れり尽くせりでしょ?」

「帯刀さん、確信犯ですか?」

「さあね」

 小松の含み笑いを見ると、やはりそのようだ。

 かといって悔しいかと言われたらそうでもない。

「じゃあ、ちょっとだけ……」

「のんびりすると良いよ」

 小松はフッと甘く笑うと、ゆきが横になりやすいように、てきぱきと準備をしてくれた。

 このようにしてくれると、とても嬉しい。

「有り難うございます、帯刀さん」

「当然でしょ」

 さらりと言ってくれるのも、ゆきには嬉かった。

「さ、出来たよ。おいで」

「はい」

 小松に手を差しのべると、ゆきは幸せな気持ちでその手を取る。

 嬉しくて、つい笑顔になる。

 笑顔でいるせいか、ゆきは幸せで暖かな気持ちになった。

「さ、横になると良いよ。足は私に乗せて」

「有り難うございます」

 ゆきは恥ずかしく思いながらも、小松の膝に足を乗せて横になる。

 こうしていると、随分と楽だ。

 とても良い気分になる。

「こうしていると、脚がかなり楽です」

「それは良かった」

 小松は薄く笑うと、ゆきを柔らかく抱き締めた。

「そのまま眠りなさい。そのほうが楽でしょ?」

「だけど勿体ないです」

「勿体ない?」

「はい。だって、こうして、帯刀さんと話せるのが嬉しいですし」

「そう……。眠かったら、ゆっくり眠りなさい」

 小松は穏やかな声で囁き、ゆきの身体を優しく撫でてくれた。

 こうされるととても心地が良い。

 眠ってしまいそうになる。

 だが、その心地好さに酔っ払いたくなる。

「なんだか穏やかで良いですね」

「そうだね。ずっとこのような時間を持っていたいね……」

 小松の顔がゆっくりと近づいてくる。

 ドキドキしながらも、期待しながら小松を待ち構えてしまう。

 息が出来ないぐらいの甘いときめきに、ゆきは溺れそうになった。

 小松の唇がしっとりと重なってくる。甘いキスは、どんなスウィーツよりも、ゆきを蕩けさせてくれた。

 甘くうっとりしてしまい、ゆきは小松の唇を受け入れた。

 優しい休日。

 その甘さに、ゆきは、いつまでも続いて欲しいと思った。




 モクジ