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目を覚めると、小松の家のベッドに寝かされていた。 倒れるなんて久し振りだ。 すべてを解決して、生まれた世界に小松と一緒に戻って以来、ゆきはすっかり丈夫になった、 たおれたことなんて、今までなかったというのに。 「……ゆき、気がついたの?」 小松が落ち着いた声で、ゆきに話し掛けてきた。 「私、倒れてしまったんですね……。こんなことは、帰ってきてから、一度もなかったんですけれど……」 「確かにね。君はすっかり体調を取り戻したからね……」 「はい」 どうして倒れてしまったのか、自分でもよく分からない。 ゆきは小首を傾げた。 確かに、貧血気味だったので、それが原因なのかもしれない。 「夏のせいか、少し貧血気味だったので、それが原因なのかもしれません……」 「そうかもしれないね。まさにそんな雰囲気だったからね。とにかく、ゆっくりと休みなさい」 「はい、有り難うございます」 もうすぐ夏も終わるから、きっとその疲れが出てしまったのだろう。 それはゆきも強く感じた。 「今日はうちでゆっくりして、明日、帰りなさい。今の君には、休息が一番必要のようだからね」 「有り難うございます」 小松の家でのんびりと休息をする。 それも悪くない。 ゆきは、のんびりとする時間を、神様からプレゼントされた気分になった。 小松はベッドに腰かけて、ゆきの頬をゆっくりと撫で付ける。 こうしていると、とても満たされた気持ちになる。 甘い幸せに、ゆきは思わず目を閉じた。 本当に幸せで、くすぐったい気持ちになった。 「……ゆき、貧血はひどいの?」 「そんなには、ひどくないですよ。だけど、最近は少しだけ、貧血が酷かったんですけれど……。だけど本当によくあることなので……」 「そう……」 小松は、ゆきの小さな手をギュッと握り締めてくれる。これだけで、ほっこりと安心する。 「何でも私に言いなさい。もっと甘えても構わないよ……」 「有り難うございます」 もっと甘えても良いと言われたら、一気にワガママになってしまいそうだ。 だが、それは性格上、ゆきには出来なかった。 「だけど、根本的な原因はきちんと診て貰ったほうが良いのかもしれないね。君はそのあたりを気にしなさ過ぎるからね。身内に医者がいると、仕方がないと思うけれどね……」 「そうですね……」 瞬がいるから、今まではきちんと健康管理をすることが出来た。 今は、昔ほど健康管理を瞬に頼らなくなったので、ゆきは自分で出来ていると思っていた。 ゆきも、年頃なので、微妙な乙女心もあるのだ。 「明日、朝一番に、私と一緒に病院に行く?うちの会社の嘱託医師の病院だけれど、君の場合は行ったほうが良いと思ってね……」 「大丈夫だと思うんですけれどね……」 「そういうのが油断だと言うんだよ。私の言うことをきちんと聞きなさい。良いね」 「……はい」 小松は厳しいけれど、優しくて、ゆきに対してはかなりの心配性だ。 それがかなり有り難いのだが。 「今日は私が夕食を作るから、君は寝ていなさい」 「とんでもないです。それと、帯刀さんが料理が出来るとは、思えないです……」 ゆきは苦笑いを浮かべながら言う。 家老だったひとに、出来るとは、到底、思えないのだ。 「これでも、こちらの世界に来て、ひとりで何もかもしなければならないから、少しは覚えたよ。君がいたら、毎日、食生活はかなり、充実しているだろうけれどね」 小松が然り気無くこちらがドキドキするような甘いことを言うものだから、ゆきはときめいてしまう。 「まあ、野菜のスープぐらいは、作れるようになったよ。今日はそれを作るよ。優しい食べ物のほうが、今日の君には良いだろうからね……」 「有り難うございます。楽しみにしています」 ゆきがにっこりと笑うと、小松はフッと甘さの含んだ苦笑いを浮かべた。 「余り期待はしないで欲しいけれどね?」 小松はもう一度、ゆきの髪を撫でる。 「余り私を心配させないで。本当に君は困った子だよ」 小松の言葉に、ゆきはつい笑みになる。 「帯刀さんが大袈裟なんですよ」 「私も確かに大袈裟かもしれないけれど、身体は大切だよ。ゆっくり休みなさい……」 「有り難うございます」 小松は、こういう時には、ゆきをたっぷりと甘やかせてくれる。 それは本当に嬉しいことだ。 「もう一眠りすると、体調は更に良くなっているだろうから、今は休みなさい」 「はい」 小松の言葉に素直に従って、ゆきは目を閉じた。 夏の疲れが出る時期だが、小松の甘い看病さえあれば乗り越えてゆけるのではないかと、ゆきは思わずにはいられなかった。 いつのまにかぐっすりと眠ってしまっていた。 ゆきはぼんやりと目を開ける。 すると、夕方近かった。 随分と昼間に寝てしまった。 だが、その分、疲れは取れた。 キッチンからとても良い匂いがする。 お腹もちょうど空いてきて、ゆきは誘われるように、キッチンへと入った。 すると小松が料理をしている姿が見えた。 一所懸命、吟味するように調理をしている姿が、とても可愛い。 ゆきはついクスリと笑ってしまった。 ゆきの微笑みに反応したのか、小松が振り返る。 「ゆきくん」 「美味しそうな匂いに誘われて来ました」 「それは良かった。じゃあ、ふたりでのんびりと食事をしようか」 「有り難うございます」 ゆきは、席について、食事がやってくるのを待つ。 いつもは、自分でやるか手伝っているが、今日に限っては、小松に甘えることに決めた。 本当にたまのことであるし、今日は甘えたかった。 「そう、たまにはそうやって甘えなさい。君は甘えることに本当に慣れてはいないね。だから、私に甘えなさい。ただし、私以外の誰にも甘えてはいけないよ」 「はい」 もちろん、小松以外の誰にも甘えるつもりなんてない。 「ゆきくん、君、そろそろ、敬語は止めないかな?おかしいでしょ?」 「そ、そうですか?」 「そうでしょ。私たちはこうして、お互いに尊敬しあい、愛し合い、そしてお互いを刺激しあっている、かけがえのない存在だからね。支え、支えられている関係に、堅苦しさはいらないよ」 「はい。努力します」 ゆきはドキドキしながらも、素直に受け入れた。
食事のあと、小松はゆきをベッドに連れていってくれる。 「さあ、ゆっくり休んで。今日は甘やかせる日だからね」 「有り難うございます……」 ゆきはベッドに寝かされて目を閉じる。 とても幸せな気分に、つい笑顔になる。 ゆきは、支え、支えられているからこそ、こうした甘えも許されるのかと思った。 |