*夢から覚めても*


 朝、起きた時に、大好きなひとがいなくなったらどうしようかと、いつもゆきは思う。

 朝方に目が覚めて、いつも横にいるかを確かめてしまう。

 違う世界からやってきたひとだから、いつかいなくなってしまうのではないかと、そればかりを考えてしまう。

 信じていないわけじゃない。

 ただ、不安なのだ。

 異世界からやってきたひとだから、本島にいついなくなってもおかしくないと、そればかりを考えてしまうから。

 ゆきは息が出来なくなる。

 ただ横に大好きなひとがいることを確認して、ホッとして再び眠りに堕ちる。

 今度は最高に素晴らしい夢が見られますように。

 それだけを祈って、ゆきは眠りに堕ちた。

 

 朝がきた。

 小松はそれを感じて目覚める。

 いつも、目が覚めた後は、目を開けるまで、暫くの時間を要する。

 それは、目覚めたら愛する者のいない、元の世界に戻っているのではないか。

 そんな不安があるから。

 もし、愛するものと一緒にいる世界が夢であるならば、そこから永遠に覚めたくはないとすら思ってしまう。

 ゆきのいない世界なんて、考えられないと思っているから。

 ゆきがいたからこそ、この世界にいるのだ。

 それだけだ。

 それしか理由はない。

 小松はゆっくりと目を開ける。

 すると、見慣れた西洋風の天井にほっとする。

 いつも、ほんの一瞬ではあるが、和室の天井に見えてしまうことがあるのだ。

 あくまでも一瞬ではあるのだが。

 隣にゆきがいるかを、小松は確かめる。

 するとゆきがあどけない寝顔を魅せている。

 いつも、この寝顔を見ると、ホッとしてしまう。

 本当に可愛くて、ついじっと見つめてしまう。

 ゆきの寝顔を見て、いつもホッとしてしまう。

 同時に、愛しさが込み上げてきてしまい、どうしようもなくなる。

 本当に可愛い。

 どうしようもないぐらいに。

 ゆきをギュッと抱き締めたくなる。

 大好きで大好きでしょうがなくなる。

「……小松さん……」

 可愛い声で小松のことを呼んだかと思うと、ゆきはそのまま抱きついてきた。

 可愛らしさと妖艶さが同居していて、ゆきは胸が締め付けられてしまうぐらいに、ドキリとする。

 甘く胸がかき乱されそうで、小松は困ってしまった。

 困るといっても、甘い悩みではあるのだが。

 ゆきは小松に抱きついたまま、全く離れない。

 何だかすがりついているような雰囲気すらある。

 それが可愛いといえば、カワイイのだが。

 小松は幸せな苦笑いを浮かべると、ゆきを思いきり抱き締めた。

「しょうがないね、君は……?しょうがないから、抱き締めていてあげるよ」

 小松は苦笑いを浮かべながら、ゆきを更に抱き締めた。

 抱き締めると、腕から離したくはなくなる。

 もっと強く抱き締めたくなる。

 小松はゆきの髪を撫でながら、愛しさが込み上げてどうしようもなくなっていた。

 小松がゆきの温もりを感じながら、優しく髪を撫で付けていると、ゆっくりと眠たそうにゆきが目を見開いた。

「……あ……」

 ゆきはぼんやりとした眼差しをしていたが、その表情はうっとりとして、可愛らしそうだった。

「……おはよう、ゆき」

「おはようございます、小松さん……」

 恥ずかしそうにしているゆきが、本当に可愛い。

 その可愛らしさに、小松は思わず口付けた。

「髪が寝癖で立っているよ」

 小松はくすくすと笑いながら、ゆきの寝癖を直してやる。

 すると、何とも言えない、照れ臭そうな恥ずかしそうな表情になる。

 頬が桃色に染まるのが本当に可愛くて、小松は愛しさの余りに思わず目を細めた。

 本当に可愛すぎてどうして良いのかが解らなくなる。

 愛が溢れてしまい、小松はゆきを更にきつく抱き締めてしまう。

「……あっ……」

 初々しい反応をするのに、声は艶やかで女らしい。

 小松はその愛らしい声を聴くだけで、ゆきを独り占めにしたくなる。

 ゆきを生涯、独り占めにすることに決めて、この世界にやって来たのだ。

 ゆき以外には何もいらないと、それだけを思ってきたのだ。

 ゆき以外に誰も欲しくない。

 逆に言うと、それだけゆきを求めているということが言えた。

 小松はゆきをベッドに縛り付ける。

 組み敷いて、動けないようにしっかりと抱き締めた。

 するとゆきは恥ずかしそうに頬を染める。

 それが可愛くてしょうがなかった。

「……小松さん……?」

 はにかみながら名前を呼ぶゆきが可愛い。

 総てが可愛い。

「……朝から愛し合うのは、身体に良いってこと、知ってた?」

 小松は甘く少し意地悪な響きの声で呟くと、ゆきの耳たぶを甘咬みをする。

 すると肌が艶やかに震えて、美しい。

 このままうっとりとしながら見つめていたい。

 小松は本当にゆきに夢中なのだということを、改めて感じずにはいられなかった。

 このままゆきを貪るように愛する。

 幸せすぎて、壊すこと、失うことなど、吹き飛んでしまいそうだ。

 小松はゆきを深く愛しながら、夢中になっていった。

 

 小松に朝からくまなく愛された。

 愛されている間は、小松が本当に近くにいるのだと、感じて、幸せと満ち足りた感情しか込み上げては来なかった。

 こうして小松が愛してくれるから、消えていなくなるなんてことはないとは思っている。

 しかし、不安になるのは確かだ。

 何処にも行かないで欲しい。

 ずっとそばにいて欲しい。

 切ないぐらいに思ってしまう。

 小松を離したくはなくて、ゆきはその身体にしっかりと抱きついた。

 小松はサムライなのだ。

 常にストイックな考えをしている。

 必要であれば、消えてしまうことも、わけない。

 だからこそ、余計に不安になってしまう。

「……どうしたの、ゆき。そんなに私にくっついて。私のことがこんなにも好き?」

 からかうように笑う小松に、ゆきは顔を真っ赤にさせる。

「……小松さんが何処にも行かないようにって、おまじないです」

 ゆきが子供のようにくっつきながら呟くと、小松はそっと手を握りしめてくれた。

「……何処にも行かないよ。私の意思ではね。もし、私がどちらかに飛ばされてしまいそうになったら、ゆき、君は私を行かないように繋ぎ止めてくれる?」

 小松は冗談めかして言っているが、そこには何処かリアルな感情が含まれていた。

「繋ぎ止めます。必ず。絶対に離しませんから」

 ゆきは力強く言うと、小松が何処にも行かないようにと、ギュッと身体を抱きすくめた。

「……頼んだよ」

 手を握る小松の手の力が強くなる。

 同じだ。

 同じように失うことを恐れている。

 ゆきはそれが嬉しくて、更に抱きつく。

 こうしてふたりでいれば、大丈夫だと、ゆきは思った。





モドル