*眠れぬ夜のために*


 小松が天海の手にかかる夢を見た。

 夢でなく、現実に起こったことではあるから、ゆきは余りのリアルさに、胸が潰されてしまうのではないかと思うぐらいに、痛みでどうしようもなくなる。

 小松がゆきの世界から消えてしまうということを、ゆきは恐れすぎて受け入れることが出来ない。

 ゆきは夢が余りにも生々しいシーンの連続であったから、そのまま泣いてしまった。

 夢だとは解っているのに、現実としてしか思えなくて、ゆきはいつの間にか泣いていた。

 こんな現実ならばやりなおしたい。

 ゆきは痛切に想いながら、もがいていた。

 涙が零れ落ちて、ゆきはこのままどうして良いのかが分からない。

 ここから逃れたい。

 それだけを考えて走った瞬間、ゆきは目覚めた。

「……あっ……!!」

 飛び起きた瞬間、隣を見ると、小松が眠っていた。

 すやすやと寝息を立てている。

 その様子を見ながら、ゆきはホッと大きな溜め息を吐いた。

 躰から嫌な汗が吹き出してくる。

 まだ心臓がバクバクと鳴っていて、ゆきは落ち着かない。

 気持ち悪くなる。

 吐きそうになるぐらいに、ゆきは不安になる。

 横に小松がいることぐらいは解っているというのに、ゆきの不安は収まらなかった。

 ゆきは何度も大きな溜め息を吐いた。

 瞳からは涙が出てくる始末だ。

 ゆきは不安がおおいかぶさって眠れなくなってしまった。

 眠れないし、小松に寄り添ってリアルな温もりを貰ったとしても、起こしてしまうのではないかと、ゆきは思わずにはならない。

 だが、小松の温もりを得たい。

 ゆきはどうしたら良いかが分からなくて、小松から少し離れて、じっとしていた。

 不意に小松が寝返りを打つ。

 すると、ゆっくりと小松の瞳が開かれた。

「……ゆき、どうしたの?」

 小松は寝惚けたようなセクシャルな笑みを浮かべると、色気がある声で囁いてきた。

「……あ、あの……」

 まさか、小松が死んでしまう夢を見ただなんて言えなくて、ゆきは言葉を濁した。

「……あのね、ゆき……、私の腕から離れて眠るなんて、許せないんだけれどね……」

 小松は不快そうに言うと、ゆきをいきなり抱き寄せてきた。

 まるで捕らえるかのように。

 息が出来ないぐらいに抱き締められて、ゆきはこの力強さと温もりが、本物の小松なのだということを、知った。

 この温かさがずっと続くのは解っているのに、どうしても信じられないところがある。

 それは恐らく、ゆきがあんなにも辛い現実を一度は突きつけられたからだろう。

 ゆきは重苦しく想いながら、不安げに小松を見た。

 すると小松は、この上なく優しい眼差しを向けてくれる。

 その眼差しの温かさを見ていたら、ゆきは涙を一筋溢す。

 切なくて苦しくて、堪らない。

「……ゆき、どうしたの!?」

 ゆきの涙に、小松も流石に驚いてしまったようで、目を見開いた。

「……ゆき、泣かないで。本当にどうしたの?」

「……怖い夢を見て……」

 ゆきが泣きながら呟くと、小松は苦笑いを浮かべた。

「……怖い夢ぐらいで泣くなんて、君は子供だね?」

 小松は笑いながらも、ゆきをしっかりと抱き締めてくれる。

 しっかりと抱き締めてくれるのが、ゆきは嬉しい。

 こうしていると安心する。

「もう大丈夫だよ。ゆっくりと眠れるから」

「なんだか眠れなくて……。小松さんにこうして抱き締められると安心するくせに、なかなか眠れないの……」

 ゆきは苦笑いを浮かべながら言う。

「……だったら君が眠れるまで付き合ってあげても良いよ……。まあ、付き合ってあげられたら、だけど」

 小松は意地悪にもくつくつと笑う。

 ゆきは小バカにされたのが気に食わなくて、少しだけ拗ねた。

「……ひとりで頑張って眠れるようになるから、良いです」

 ゆきが小松から離れようとすると、しっかりと抱き締められて逃げられないようにしている。

「……君を腕から離す気はないよ」

 小松は堂々と宣言をすると、ゆきを逃がさないとばかりに、更に抱き締める腕に力を込めてきた。

「……ゆき、私から離れないで。眠ってからも」

 小松はゆきに命令をするように言うと、額にキスをしてくれる。

「……君は、いつも眠っている時に、いつの間にか私から離れているよね……。私はそれが嫌なんだよ……」

 小松はまるで小さな子が駄々をこねるようなに言うと、ゆきに依存をするかのように肩に顔を寄せてきた。

 何だか可愛い。

 ゆきは、先程まで暗くて怖かった気持ちをすっかりと忘れてしまい、つい笑ってしまった。

「……小松さん、可愛いね……」

 くすりと笑いながらゆきが言うと、小松は恥ずかしさが含まれた拗ねるような顔をした。

「……可愛いって……。日本男児のしかも薩摩隼人に言うことじゃないでしょ。そういうことを言う子はおしおき……」

 小松はわざと低くて甘い声で呟くと、ゆきの唇に、いきなり深いキスをしてきた。

 息を総て奪われるようなキスをされて、ゆきは躰が蕩けてしまうぐらいに感じてしまう。

 ゆきは息が出来なくて、苦しくて、思わず小松の背中を叩いてしまった。

 小松は意地悪にも、ゆっくりと唇を離す。

 小松の唇が離れると、ゆきは声を出すように派手に大きく深呼吸をした。

 ゆきが余りに派手に深呼吸をするものだから、小松は柔らかく抱き締めて背中をそっと撫で付けてくれた。

「……大丈夫……?」

 優しい小松に、ゆきは甘えるように頷く。

 すると小松は、意地悪なのに魅力的な笑みを唇に浮かべた。

「……今のは君が悪いんだ……。だから、おしおきが必要だったんだよ……」

 意地悪な声で囁きなから、小松は今度は触れるだけのキスをする。

 優しいキスをされると、うっとりとした気持ちになる。

 微睡んでいたいような気持ちになる。

 小松にこうして背中ををリズミカルに叩かれると、うっとりするぐらいに安心して、眠くなってゆく。

「……眠い?」

「……少し……。だけど、もう少しだけ、小松さんの声を聞いていたいの……」

 小松の魅力的な声を聴きながら、ゆきはうとうととしてしまう。

「……私の声なら、明日の朝でもたっぷりと聞かせてあげるから、今は、寝ると良いよ……」

「……有り難う……」

 ゆきは明日の朝に聞けるだろうと想いながら、ゆきはゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 ゆきが眠った後、小松は抱き締めながら、背中を撫でる。

「……今度、怖い夢を見ても、私が素敵な夢に変えてあげるから、心配しなくても良いよ……」

 小松はくすりと微笑みながら、ゆきの唇にキスをすると、そのまま目を閉じる。

 きっと明日の朝は、素晴らしい朝になると願いながら。





モドル