*プロポーズ*


 もうゆきしかいない。

 これ以上の相手はいない。

 いや、出逢った時から、ゆきだと決めていたのかもしれない。

 これ以上の相手にもう二度と巡り会うことはないと、分かっていたかもしれない。

 ゆきに告げなければならない。

 そして、ふたりの関係が新しいステージに向かうことを、お互いに選びとらなければならないと、小松は強く感じる。

 けじめをつけて、更なる愛を深める段階に、ふたりはたどり着いたのだ。

 ふたりで同じ道を歩いてゆく。

 その選択が必要なのだ。

 明るくも前向きで、しかもお互いに素晴らしく高めあう選択が必要なのだ。

 ふたりで同じ人生を進む。

 それが人生の目的だと、思わずにはいられない。

 小松は決意する。

 一生の伴侶として、ゆきを選ぶ。

 まだ早いかもしれない。

 そんなことが気にならないぐらいに、小松は、ゆきを自分のものにしてしまいたい。

 小松は覚悟をする。

 小松はカフェで、ひとりゆきを待った。

 ゆきよりも早く待ち合わせ場所に着いてしまったのは、ひょっとして初めてなのかもしれない。

 それだけ、小松は今回のことに気合いを入れているのだ。

 今回のことは、人生を左右すること。

 こちらでは、プロポーズだというのだそうだ。

 そして、それをするには、指輪が必要だと言うことを聞き及んで、小松はエンゲージリングを用意した。

 この指輪を、ゆきははめてくれるだろうか。

 まだ早いだとかは言わないだろうか。

 普段は不安なんて全く感じないのに、不安になる。

 人生で一番の緊張を小松は感じていた。

 息苦しい。

 だが、それはしょうがない。

 ゆきの返事に、小松のこれからがかかっているからだ。

 ゆきしか考えられない。

 ゆきがいるからこそ、この世界にいる。

 生きている一番の理由はゆきなのだ。

 それをゆき自身が気づいているかどうかは、不明ではあるが。

 ゆきは、色恋に関しては、昔から鈍いのだから。

 余裕があるふりをして、小松はコーヒーを飲む。

 すると、ゆきが笑顔で走ってくるのが見えた。

 頬を薔薇色に染めて、幸せそうな笑みを浮かべている。

 その表情を見るだけで、小松は癒やされた。

 ゆきといれば、ずっと幸せな気持ちでいられる。

「お待たせしました、帯刀さん」

 ゆきは息を弾ませながら、小松に向かって歩いてきた。

 可愛くてしょうがない。

「掛けなさい」

「はい」

 ゆきは呼吸を弾ませながら、小松を見つめた。本当に嬉しそうに笑っている。

「ちょっと遅れてしまいました」

「いや、約束の時間にはまだ早いよ」

 ゆきは驚いたように、時計を見た。

「本当ですね」

 ゆきはホッとしたように笑った。

「何か飲み物を頼みなさい」

「はい」

 ゆきは小松を見た後、楽しそうにドリンクメニューを見つめた。

 ゆきは紅茶を頼んだ。

 ゆきを見つめながら、小松はドキドキしてしまった。

 ゆきにいつプロポーズをするのか、そればかり考えてしまう。

 お茶を飲むと、ゆきは幸せな気持ちを滲ませながら、小松を見つめてくれる。

 まだ、プロポーズのタイミングではないかもしれない。

 だが、このデートが終わる頃には、プロポーズをしたい。

 そう考えながら、小松は無邪気なゆきを見つめた。

「お茶を飲んだら、ゆっくりと歩こうか」

 小松が提案すると、ゆきは頷いた。

 

 今日の小松は何処か緊張しているように見える。

 いつもとは変わりないように見えるが、何処か緊張している。

 だが、緊迫しているような感じはしない。

 甘い緊張だ。

 ゆきは、小松がどうしてこのように緊張しているのか、分からない。

 ゆきは小松を見つめ、ただその緊張を少しでも、緩和したかった。

 小松の手を、ゆきはしっかりと握り締める。

 手を繋ぎながら、ふたりで秋の季節をゆっくりと歩いてゆく。

 こうしているだけで嬉しい。

 ずっとこうしていたい。

 出来ることならば、永遠に。

 ゆきはそんなことを考えながら、小松の温もりを感じていた。

 

 手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いてゆく。

 こうしていると、小松は心が満たされる。

 ずっと一緒にいたい。

 ゆきが共にいるだけで、満たされてゆく。

「こうしているだけで、楽しいです。秋って良いですね」

 ゆきは空と小松を見上げる。

「どの季節も、帯刀さんと一緒にいたいです。一緒にいるだけで、本当に楽しいです」

 小松は、ゆきの秋の日差しのように温かな表情に、緊張がゆっくりと溶けてゆく。

 小松は、その手を握る。

 プロポーズをするのは、今しかない。

 いや、今が一番良いのかもしれない。

 未来を夢見た街が一望できるところまで、やって来た。

 秋風が吹き、とても心地良い。

 ゆきは爽やかな表情をしていた。

 小松はゆっくりとゆきを見つめる。

 小松の真摯な眼差しに、ゆきは、直ぐにその気持ちを汲んだようだった。

 ゆきは緊張するような笑みを浮かべる。

 戸惑いと甘さが滲ませている。

「帯刀さん」

「ゆき、君はずっと、私とこうしていたい?」

 小松の言葉に、ゆきは驚いたように目を見開いたが、直ぐにニッコリと微笑んだ。

「はい、ずっと、帯刀さんと一緒にいたいです」

 ゆきはほんのりと頬を薔薇色に滲ませている。

 その瞳は、明るい未来を見つめているようだ。

 小松は、その明るい瞳に、自分の未来が重ねられる。

「ゆき、これからもずっと一緒にいたい。結婚して下さい」

 小松は遠回しではなく、ストレートにゆきにプロポーズをする。

 ゆきは一瞬息を飲んだが、次の瞬間に泣きそうな顔をする。

 だが、そこには喜びが滲んでいる。

 誰にも見せたくないような笑みに、小松は抱き締めてしまう。

「……あ、あの帯刀さん」

 ゆきは甘い緊張を見せながら、ドキドキしているようだった。

 それがまた可愛くてしょうがない。

「ね、私のプロポーズ、受け入れてくれる?」

 小松の艶やかな声に、ゆきは真っ赤になりながら頷いた。

「はい」

「有り難う」

 小松は喜びを噛み締めながら、ゆきの左手を取ると、薬指にエンゲージリングをはめる。

「……やっと、捕まえた」

 小松の艶のある笑みに、ゆきは頷きながら微笑んだ。

 これからずっとふたりでいる。

 これ以上に素晴らしい人生はないと、小松は思わずにはいられなかった。

 明るい未来と夢を紡ぐ時間が、今、始まる。

 ゆきとふたりで紡ぐ人生は素晴らしいものになると、小松は確信していた。


モドル