*看病*


 朝から高い熱が出てしまい、ゆきは寝込んでしまった。

 本当はやらなければならないことが沢山あるから、寝込んでなんていられないかはら、ゆきには心苦しかった。

 瞬には診て貰ったが、それで病状は改善しない。

 結局は眠っているしかなかった。

 だが、ぐっすりと眠れるはずはなく、布団のなかで浅い息を繰り返す。

 小松と一緒に行動したかった。

 何よりも小松といっしょに居たかった。

 小松と一緒に話したかった。

 怨霊を封印したり、やらなければならないこが山ほどあるというのに、考えることは小松のことばかりだ。

 これには流石にゆきも苦笑いをしてしまう。

 どれぐらい小松が好きなのか、笑ってしまうぐらいだ。

 それに、躰が辛いから、大好きなひとと一緒にいたいと思うからかもしれない。

 ゆきはそんなことをぼんやりと思いながら、浅い呼吸を繰り返した。

 ゆきは眠ることも出来ずに、ただ何度も寝返りを打った。

 どれぐらいそうしていただろうか。

 不意に、機敏な足音が聞こえた。

「ゆきくん、起きてる?」

 小松の声が聞こえて、ゆきはぼんやりとしていた意識を戻す。

「はい、大丈夫ですよ。起きています」

「じゃあ、入るよ」

 小松が部屋の中に入ってくる。

 床についていてはいけないと思い、ゆきは慌てて躰を起こした。

「……ゆきくん……」

 障子戸を開くなり、小松は眉根を寄せる。

「ゆきくん、かなり顔色が悪いね」

 小松はゆきのそばに腰を下ろすと、じっと顔色を凝視した。

 こうして見られると、余計に呼吸が浅くなる。

 気分が優れないからではなく、ただ単に、小松にドキドキしているだけなのだ。

 ゆきは呼吸を整えながら、小松を見た。

「ゆっくりと休んだほうが良いよ、君は……」

 小松は情熱を滲ませるように、ゆきのフェイスラインをゆっくりと撫で付けてくる。

 こうされるだけで、ゆきは鼓動が激しいダンスを踊っているのを感じた。

「ゆきくん、しっかりと休む為に、ここから、うちに来なよ。宿屋よりもずっと休める筈だよ」

 小松の申し出に、甘いときめきが胸の中に渦巻く。

 ゆきがドキドキし過ぎて上手く返事が出来ないでいると、いきなり小松に抱き上げられてしまった。

「……え、あ、あ、あのっ!?」

 ゆきは目を丸くしながら、ついジタバタとしてしまう。

 いきなり、小松がこんな風に実力行使をするなんて、ゆきは思ってもみなかった。

 戸惑いがかなり大きい。

 だがそれ以上に嬉しかった。

 ゆきは上手く言葉に表すことが出来なくて、ただ目を大きく見開いて、小松を見つめた。

「行くよ。駕籠を用意しているから。ゆっくりとうちで休めば、君も少しは楽になるでしょ。うちは宿のように慌ただしくはないから、ゆっくり休める」

 小松は有無を言わせないとばかりに言うと、ゆきを軽々と抱き上げ、宿の外へと向かう。

 恥ずかしいのに、嬉しい。

 全く奇妙な感覚だ。

 宿から出ると、直ぐに駕籠がやって来た。

 やはり有力藩の家老なだけあり、立派な駕籠だ。

 小松はゆきを丁寧に駕籠に乗せてくれると、自分もその後に続く。

 小松が嫌いな非合理的なことだというのに、ゆきのためにそれをあえてしてくれる。

 それはゆきにとってはかなり嬉しいことだった。

 駕籠がゆっくりと動き始める。

「ゆき、今日は私に掴まっていなよ。そのほうが楽でしょ。しっかりと掴まっていて。気分が悪ければ言うんだよ」

「ありがとうございます」

 ドキドキしながら、ゆきは小松の逞しい腕に掴まり、支えられる。

 こうしていると何よりも安心するのが不思議だ。

 ゆきは何度か深呼吸をしながら、小松にすべてを任せた。

 こうしているとかなり楽だ。

 ゆきは何度か深呼吸をしながら、小松に甘えるようにそっと寄り添う。

 しばらくじっとしていると、小松の屋敷についた。

 屋敷に到着しても、小松はゆきを過保護なぐらいの扱いをしてくれる。

 駕籠から降りると、小松はゆきを抱き上げて、客間へと向かう。

 確かに宿屋よりもかなり静かだ。それは有難い。

 ゆきは小松に抱き上げられている間、静かに目を閉じてその想いを感じる。

 こうしていると、ときめくのと同時に、ひどく落ち着いた気持ちになる。

 それだけ小松に信頼を寄せて愛しているからだろう。

 部屋に入ると、そこには既に寝具が用意されていて、ゆきは直ぐに寝かされた。

 とても静かだ。

 休むという視点で考えれば、とても理想的な場所のように思える。

 目を閉じているだけで落ち着くからだ。

「ゆきくん、今日はここでゆっくりと休みなよ。夜になったら仲間の所に送り届けてあげるから」

「ありがとうございます、小松さん……」

 小松は穏やかに優しく微笑むと、ゆきの手をしっかりと握り締めてくれた。

 温かで力強い優しさと強さと、愛が沢山感じられる。

 こうされていると、ゆきは落ち着くのを感じた。

 小松の優しさに沢山の感謝を言わなければならないだろうが、ゆきは更に我が儘な気持ちを抱いてしまう。

 ずっとこうして手を握りしめていて欲しい。

 じっとこうしていて欲しい。

 ただそれだけだ。

 ゆきは潤んだ瞳で、小松をすがるように見つめる。

 そばにいて欲しい。

 ずっとこうしていて欲しい。

 それは我が儘なことなのだろうか。

 小松はきっと、やることが沢山あるのに、こうして気遣ってくれているのだ。

 いつもはイジワルなところもあるが、肝心なところはいつもいつも優しいのだ。

 ゆきは小松を静かに見る。

「小松さん、お忙しいのに迷惑をかけてご免なさい」

「そうだね、私は忙しいし、神子殿にばかり気にかけてはいられない」

 小松に冷たく淡々と言われて、ゆきは流石に凹んでしまいそうになる。

「……だけどね、君よりも仕事や忙しいことを優先には出来ないでしょ? 君には最高の状態でいてもらわなければならないし、それに……、君が弱々しいのを見るのが、私は嫌なんだよ……」

 小松は軽く唇を噛むと、ゆきの手をギュッと握り締めた。

 手を握って貰うと、本当に安心する。

 ずっとこうしていられたら良いのにと、思ってしまう。

 離れないで欲しい。

 今は。

 ゆきはすがるように小松を見つめる。

 まるで小さな子供のように我が儘を言いたくなった。

「……どうしたの?」

「……私が眠れるまで、もう少しだけ、小松さんにこうしていて欲しい……。だめですか……?」

 ゆきは断られるのを承知で、訊いてみる。

 すると、小松はこの上なく優しい笑みを向けてくれた。

「……良いよ。君がそれで、神子として務めが果たせるぐらいに、頑張れるなら」

「頑張れます」

「……じゃあ、こうしているよ。今日は君に私の時間をあげるよ……」

「ありがとうございます……」

 小松がそばにいる。それだけで安心できて、眠くなる。

「ゆき、おやすみ……」

 小松はゆきに顔を近づけると、そっとキスしてくれる。

 甘いキスにはときめきが沢山詰まっている。

 ゆきはドキドキしながら、そっと目を閉じる。

 ときめいたままで、ゆっくりと眠りに落ちてゆく。

「……良い夢を、ゆき」

 小松の声を遠くで聞きながら、ゆきは緩やかに眠りに入る。

 大好きなひとに、感謝をしながら。

 

「……ねむったね……。余り無理はしないで……。ゆき、君に何かあれば、きっと私は自分を許せなくなるからね……。おやすみ、ゆっくりと眠りなよ」

 小松はゆきの頬にキスをすると、その横で、同じように眠りに堕ちていった。





モドル