大好きなひとにイジワルをされる。 それは嫌われているのではないかと、思ってしまう。 イジワルというよりは、からかわれているだけかもしれない。 それが心地好いこともあり、また、切なくもなる。 大好きなひとへの感情は、それだけ苦しいということなのだ。 ゆきは小松を見ては、溜め息を吐いてしまう。 小松を愛している。 そんな感情に気づいてしまい、ゆきは胸が苦しかった。 ゆきはひとり眠れなくて、溜め息を吐いた。 自分の荒れ果てた生まれた世界にやってくると、いつも強制的な休養を取らされる。 自分の部屋がやはり一番休まるという理屈は確かにあってはいるのだが、今回に限ってはそれは適応されないようだ。 こうしてひとりで眠っているというのに、ゆきはそれが寂しくて堪らない。 大好きなひとに逢いたい。 小松に逢いたい。 そんなことばかり思ってしまう。 ゆきは、胸が痛くて苦しいのを感じながら、何度も寝返りを打った。 「……ゆき君、いる?」 大好きなひとの艶のある声が聞こえてくる。 逢いたいと思ったから、以心伝心したのだろうか。 「……起きています」 「じゃあ、お邪魔しても構わない? 直ぐに出るから」 「はい」 大好きなひとが部屋に入ってくる。 少しでも良いから、佇まいを直したかった。 だが、そんな暇などないままで、小松は部屋に入ってくる。 「……すまないね。起こしちゃった?」 「いいえ。眠れなくて起きていたんですよ、実は」 ゆきが苦笑いを浮かべながら呟くと、小松は頷いた。 「それっぽいね。目が完全に寝ていないから」 「少しそばにいても構わないかな?」 「はい。嬉しいです」 ゆきは小松に笑顔を向ける。すると、然り気無く手を握り締められた。 こうされると、ドキドキするのと同時に、ゆきは甘く緊張してしまう。 「ゆき君、どうしたの?顔が真っ赤だよ」 どうして顔が赤いのかその理由を知っているくせに、小松はからかうように言う。 ゆきは余計に恥ずかしくなってしまった。 「……何も言わないのなら、離してしまおうかな」 ゆきが手を握り締められたいことぐらい、小松は充分に解っているくせに、こうしてイジワルを言う。 ゆきはつい拗ねた気持ちになる。 ただ首を横に振ってみる。そうすると、小松は愉快そうに笑った。 イジワルな時の小松の顔だ。 どうしてこんなにもイジワルなのだろうか。ゆきは切なくなってしまう。 ゆきは小松を見る。 「眠れないので、暫くこうしていて下さい。小松さんに手を握って貰っていたら、安心しますから……」 ゆきは正直に言う。これ以上言ってしまわなかったら、小松のからかいの餌食になる。 素直になれば、小松のからかいは少しはましになるだろうから。 「分かった。暫く、こうしていてあげる。何かあったら言ってよ」 「はい」 ゆきはにっこりと笑って、小松の手を握りしめる。 「こうしていると眠れるような気持ちになりますから」 「ま、それだけ私を信頼してくれているってことだろうから良いけれど。私以外の男にこんなことを頼むのは止めなよ。君は無防備で、男には免疫のないお嬢さんだからね? 気を付けなよ」 小松は低い声で、まるで警告をするかのように呟いた。 「こんなことを頼むのは、小松さんだけですよ」 「ま、それが賢明だと、今は言っておくよ」 小松はさらりと言うと、ゆきに顔を近付けてきた。 小松の整った顔が余りに近くにあるものだから、ゆきは鼓動が激しくダンスをして、余計に眠れなくなってしまう。 「……あ、あの、落ち着かないんですけれど……」 ゆきが言うと、小松はからかうような楽しげで甘い笑顔を浮かべる。 憎らしいけれども魅力的だ。 その笑顔を見ているだけで、うっとりとしてしまうのだから、全く始末が終えないと、自分自身で思ってしまう。 ゆきは頬を赤らめながら、小松を軽く睨んだ。 すると、余計に楽しそうに喉をくつくつと鳴らして笑っている。 「……君は私を楽しませるにかけたら、天才的な腕を持っているよねぇ……。安心する」 小松はゆきに更に顔を近付けてくる。こんなに顔を近付けられたら、心臓がいくつあっても足りない。 ゆきは泣きそうな顔をついしてしまう。 「本当に、いくら見ても飽きないよね、君は。楽しい」 「……小松さん、からかうのは止めて下さい……」 ゆきがこれ以上出ないのではないかと思うぐらいの声で呟くと、小松は余計に可笑しそうに微笑む。 どこまでイジワルなのだろうか。 そんなことを考えていると、苦しくてしょうがない。 「……どうしたの!? 苦しいの?」 心が痛いことが、表情に出てしまったからだろうか。 ゆきは何とか笑顔になる。 「大丈夫ですよ」 「私がいるとお邪魔かな?」 小松の言葉を、否定するために、ゆきはその手を強く握り返し、真っ直ぐ見た。 「……そばにいて下さい……」 ゆきは恥ずかしさと緊張で、消え入るような声で呟いた。 すると小松は柔らかな笑顔になる。 「じゃあ、そばにいてあげる。君がお望みであれば」 「ありがとうございます」 小松のそばにいると、それだけで元気がチャージされるような気がする。 きっとそれが、恋する女の子が持っている素晴らしきパワーだと思った。 「何かして欲しいことはない?」 小松はいつもより優しくなっている。ちゃんと素直に、そばにいたいと言ったからだろうか。 「小松さんがそばにいてくれるだけで、私は嬉しいですよ。本当に……」 ゆきがにっこりと笑うと、小松はフッと微笑んで、更に顔を近付けてくる。 「……だったら、もう少し、近づこうか?」 甘い声で囁きながら、小松が近づいてくる。 ゆきはドキドキし過ぎて、心臓が暴れだしてしまうのではないかと思った。 「ゆき……、どうして欲しい?」 そばにいて欲しい。 ゆきは瞳を潤ませながら、小松を見た。 「近くにいて欲しいけれど、ドキドキします……」 ゆきが真っ赤になりながら言うと、小松がギュッと抱き締めてきた。 広くて精悍な小松の胸に抱き締められると、ゆきはドキドキするのと同時に、安心もする。不思議な気持ちだ。 言葉に出来なくて、ゆきはギュッと小松を抱き締める。 「……何? そばにいて欲しいの? これぐらいの距離で良いのかな、君は……」 くすりと笑いながら、小松はゆきをしっかりと抱き締めてくれた。 「ゆき、一緒に眠る?」 まさかの言葉に、ゆきは耳まで真っ赤にさせて俯いてしまう。 「……そのほうが、ぐっすりと眠れるような気がする……」 ゆきが恥ずかしさに声を震わせながら言うと、小松はくすりと笑った。 「解ったよ。一緒に眠ろう」 小松はゆきのベッドに入ると、柔らかく抱き締めてくれる。 こうして抱き合っていると、不思議と安心してしまう。 ゆきは目を閉じる。 「小松さんの温もりは安心する……」 「そう……。じゃあ、ぐっすり寝なよ。今度こそ眠れるかもしれないから」 「はい……」 小松の言う通りで、本当に眠くなってしまう。 先程まで眠れなかったのが嘘みたいに眠くなる。 このままふたりでずっと一緒に漂っていたい。 ゆきはそう思いながら、幸せな気持ちで眠る。 次に起きた時には、きっと回復していると思わずにはいられなかった。 |