*恋人たちの季節*


 恋人たちのベストなシーズンは何時なのだろうか。

 そんなことを考えるのは、季節の変わり目だからだ。

 夏のらんちき騒ぎまもなく終わる。

 残暑だとか、色々と言われているが、流石に朝と夕方は涼しくなってきた。

 吹き抜ける風は熱くなくなり、寂しさを含んだ冷たい風になっている。

 爽やかでとても気持ちが良い。

 まだまだ日中はかなりの暑さではあるが、朝夕の柔らかな涼しさに、ゆきは秋を感じていた。

 寂しさと温もりが交差する季節。

 命が交差する季節でもある。

 ロマンティックで過ごしやすい時期でもある。

 熱帯夜ではなくなってきているし、のんびり出来る。

 だからなのか、一緒に眠っている小松と脚をしっかりと絡ませあうことが増えている。

 夏の間もくっついてしまいたいという気持ちはあるが、やはり暑いので、お互いに何処か遠慮をしてしまっている。

 だが、ここになって、小松と脚を絡ませながら眠ることが出来るようになり、ゆきはとても嬉しかった。

 まだ、冬のように、しっかりと脚を絡ませることはしないが、それでもこうして絡ませることが出来るようになったのが、ゆきは嬉しかった。

 四季はどれも好きだが、小松と過ごすようになってから、より密着して過ごしたいと思うようになった。

 これも恋をするが故なのだ。

 しかも幸せな恋をしているからだ。

 ゆきはそれを分かっているから、密着出来る季節が大好きになった。

 小松と過ごすどの時間も季節も、スペシャルなものには間違いないけれども、ゆきはよりそれを強く感じる。

 秋と冬は小松をより近くに感じられるから、好きだ。

 特にくっついていられる季節は、よりスペシャルだと感じずにはいられなかった。

 スペシャルな季節は、秋から冬なのだろう。

 脚を絡ませることが出来る。

 手を繋ぐことが出来る。

 こうしてふたりでのんびりと出来るのもこの季節ならではだと、ゆきは強く感じていた。

 小松とふたりで、のんびりとくっついて眠る。

 これは、今から初夏にかけてのスペシャルなお楽しみだ。

 夏の間もくっつくが、今年は節電を意識して、あまりくっつけなかった。

 ようやく密着していられることに、ゆきはほわほわとした幸せを感じずにはいられない。

 特に日曜日の朝は、とっておきの時間だとゆきは感じる。

 お互いに休みだから、のんびりと時間を気にせずにいられるのだ。

 秋めいた感覚を、人肌で感じるなんて、随分と色っぽいこともあるものだと、ゆきは思う。

 ゆきが幸せににこにこしていると、小松が不意に抱き寄せてきた。

「……!」

「起きたの?」

 眠そうな艶やかな小松の声が聞こえて、ゆきは小松を見上げる。

「秋になったなあと、思ったんですよ」

「確かに秋めいてきたね。君をこうして抱き締めても気持ちが更に良くなったし」

 小松はわざと艶やかな声で囁いてきて、更にゆきをしっかりと抱き締めてきた。

 息が出来ないぐらいにしっかりと抱き締められて、くらくらする。

 こうして小松に抱き締められると、ゆきはドキドキするのと同時に、安堵する。

 とても快適だ。

「冬になると、もっともっと君に近付くことが出来るけれどね」

「確かに冬のほうがほかほかとします」

「そうだね……」

 小松は更に強く抱き締めてくる。

 お互いのスキンシップで、季節の移ろいが分かるなんて、なんてロマンティックなんだろうかと、思わずにはいられない。

 ゆきは幸せな気持ちで、つい笑顔になった。

 

 遅い朝ごはんの後、ふたりはのんびりと散歩に出ることにした。

 しっかりと手を繋いで、幸せな気分になる。

 こうしてしっかりと手を繋ぐことが出来るようになったのも、季節が進んでいるからだ。

 ゆきは手を繋ぐだけでも、本当に幸せでいられる。

 何処に行くとか、そんなことは関係ない。

 ただ、小松と手を繋いでいるだけで嬉しい。

「本当に散歩だけで良かったの?」

「はい、こうして、帯刀さんと手を繋いで、散歩をしているだけで楽しいですよ?」

 ゆきは素直に自分が考えていることを言葉にする。

 すると小松の目の周りがほんのりと明るくなった。

「ゆき、君はどうして、そんなに可愛いことばかりを言うの……」

 小松はほんのりと照れを滲ませながら、ゆきの手をしっかりと握り締める。

 その力強さにゆきはドキドキせずにはいられない。

 甘い緊張にくらくらしてしまいそうだ。

 付き合ってからずいぶん経つが、いつまで経ってもドキドキしてしまった。

 甘い緊張に、ゆきは真っ赤になる。

「なに赤くなるの?」

「何だか緊張してしまって……」

「本当に、今夜も帰せなくなるでしょ?全く……」

 小松は艶やかに呟いたかと思うと、ゆきの手を握ったままで踵を返す。

「家に帰るよ」

 ゆきは一瞬、小松が困って呆れ果てたのだと思った。

「あ、あの、呆れましたか?」

「違うよ。君を独占したいからに決まっているでしょ?」

 小松は早口で言うと、そのまま早足で自宅に向かう。

「も、もう少し、散歩していたいんですけれど……」

「駄目だよ。私の理性がもたないの。本当に、往来で何をするのか、私は自分で自分を止められなくなるからね」

 小松はキッパリと言い切ると、ゆきの手を引いたまま、どんどん歩いてゆく。

 ゆきは、小松に手を引かれながら、何だか可愛くてついくすりと笑う。

「どうかしたの?笑って」

「……あ、あの帯刀さんが可愛いと思って……」

 ゆきがはにかみながら言うと、小松はあからさまに照れて目を伏せた。

「……本当に君は罪な子だよ……」

 小松は、少しだけ歩くスピードを緩める。

 優しさと甘さが滲んでいた。

 ゆきは空を見上げた。

「帯刀さん、空の色が秋めいてきましたね。夏の躍動からどこか疲れて解放されたみたいです」

「確かにね」

 小松も立ち止まり、そらを見上げる。

 空を見るのも密着することが出来る。

「私、秋がものすごく好きになりそうです」

「確かにね、私もだよ」

 ふたりは顔を見合わせて微笑みあう。

「さあ、家に戻ろうか。君とのんびりふたりきりになりたいからね」

「はい、私もです」

 秋は恋人たちが、お互いの気持ちを確かめあうには良い季節かもしれない。

 お互いの温もりを通して、確認することが出来るのだから。

 よりお互いを近くに感じることが、出来るのだから。

 ふたりはそう感じた。



モドル