小松と手を繋いで、秋の紅葉を堪能する。 こうして大好きなひとと一緒にいられるというのは、なんて幸せなことなのだろうかと思う。 ただ手を繋いで歩いている。 本当にそれだけなのに、ゆきは幸せで満たされた気分になる。 楽しいと言っても良かった。 ゆきは小松の横顔を何度も見る。 本当に綺麗で、ついうっとりと見惚れてしまう。 こんなにも美しいひとが、自分とお付き合いをしているなんて、ゆきにはにわかに信じられない。 大人で素敵な男性が、こうして自分を選んでくれる。 それだけでゆきは幸せだ。 「ゆき、さっきからニヤニヤしているけれどどうしたの?」 小松に指摘をされて、ゆきは真っ赤になりながら我に還る。 「……あ、あの、幸せだなあって思っていただけです……。本当に幸せだなあって……」 ゆきが真っ赤になりながら呟くと、小松はくすりと笑った。 「確かに、こうしているだけで幸せだね」 小松はしみじみと呟くと、ゆきの手を思いきり握り締める。 それがとても強くて、ゆきはドキリとした。 「久しぶりだからね。こうして君と一緒にいるのは」 「帯刀さんは、仕事が忙しかったですから。こうして、時間を取って下さっただけでも感謝します」 ゆきは小松に笑顔を向ける。 すると、小松は寄り添ってくれ、ゆきをそっと引き寄せてきた。 こうして身体を密着されるのは、中々なれない。 大好きなひとがそばにいるというだけで、意識をしてしまうからだ。 ゆきが真っ赤になって半ば固まっていると、小松は強く抱きすくめてきた。 「君は相変わらず初々しい反応をするよね?それが、私をどれほど煽っているかは、君は解らないでしょう?」 「煽ってなんかはいないですっ!」 ゆきがドキドキしながら言っても、小松には全く通じないようで、余裕のあるイジワルな眼差しで見つめられた。からかうように見られている。 それは解っているけれども、ゆきはつい反応してしまう。上手くあしらえない。 小松はといえば、くすくすと笑っている。 ゆきの予想通りの反応を楽しんでいるのだろう。 「さてと、からかうのはこれぐらいにして、とっておきの場所を紹介するよ、姫」 「ありがとうございます」 小松に手を引かれて、ゆきはついて行く。 からかわれるのも、嫌ではないけれど、それは小松が相手だから受け入れる子とが出来るのだ。 それをきっと解ってはいないのだろう。 小松はゆきの手を引いて、ゆっくりと歩いてくれる。 いつだってふたりでいるときは、ゆきのペースに合わせてくれる。 本当はもう少し、早足で歩いていることは、ゆきも解っている。 だが小松は、いつもゆきのペースに合わせてくれているのだ。 それがゆきにはとても有り難いことだった。 「とっておきの場所って何処ですか?」 「内緒。だって行ってみなければ、本当の良さは解らないでしょ?だから内緒。楽しみにしておいで」 「はい」 小松は静かに歩いていく。 都会のとっておきの場所とは、どのようなところなのだろうか。 きっと都会だからこそ、とっておきの場所になるのだろうか。 「秋は良いね。生と死が交差をする時期ではあるが、それゆえに実りを沢山、感じることが出来る」 小松は、高くて澄んだ青空を見上げながら、同じぐらいに透明な声でしみじみと呟く。 その表情と横顔がとても綺麗で、ゆきは思わず見惚れてしまった。 本当に綺麗だ。 「どうしたの?」 視線に気づいた小松が、絶妙なタイミングで話しかけてくる。 これにもゆきはドキリとして、またおたおたとしてしまう。 ゆきがおたおたする姿を見たいから、わざとからかってイジワルを言うのだろう。 「秋の空は、綺麗だなあって思いまして……」 「確かにそうだね。秋の空は美しいね」 くすりと笑われて、ゆきは余計に恥ずかしくなってしまった。 「ゆき、君も秋は好き?」 「好きですよ、秋。だって美味しいものが沢山ありますし」 「君はやっぱりそこなんだね。君らしいと言えば、君らしいね」 小松はまた愉快そうに笑っている。 「だって帯刀さんだって美味しいものが好きでしょう?」 ゆきが拗ねるように言うと、小松はさらに愉快そうな表情をした。 「それはね。誰だってそうでしょ。恵みには感謝しなければならないからね。だけど、私は美食家ではないからね。だから、私は素朴な恵みで充分かな」 小松は優しい笑みを浮かべると、ゆきを柔らかく見つめた。 小松は静かな路地に向かって、ゆっくりと歩いてゆく。 こんな場所に素敵な場所があるというのだろうか。 賑やかな表通りとは世界が違うように思える。 まるでここだけが隔離をされているような気すらした。 「……ゆき、こっちだよ」 小松は更に情緒がある路地に入る。 まるで迷路のなかに迷い込んでしまったみたいだ。 なんだか冒険をしているように思えて楽しかった。 「何だか楽しいです。迷路に迷い込んでしまったみたいで」 「私は風流な場所に連れていこうと思っているのだけれどね」 小松は呆れながらも、楽しそうに微笑んでくれている。 「さあ、こちらだよ」 小松が指したのは小さな神社だった。 ビルや住宅の谷間にある、ほんとうに狭いスペースにある。 恐らくは本殿もかなり小さいのだろう。 「随分とかわいらしい神社ですね」 「都君の実家の神社ほど立派ではないけれど、とても良い神社だよ」 「はい」 手を引かれて、神社の境内に入ると、予想とは違い広い空間が出てくる。 ゆきは驚いて言葉を失う。 神社の境内というわりには狭い場所かもしれない。 だが、美しい紅葉と桜が寄り添うように生えていて、その二つの寄り添りそう姿を映し出すように小さな池がある。 お互いに足りないものを補うように寄り添っている。 まるで永久の契りを交わした夫婦のようだと、ゆきは思う。 「……まるで連理の枝を見ているようでしょ?思い出して、君に是非見てもらいたいと思ってね」 「帯刀さん、ありがとう。お互いに足りない部分を補っていて、かつ支えあっているように見えます」 ゆきは小松と同じ視点で連理の枝を見つめる。 「そうだね……。私たちもそうありたいね……」 「はい」 ゆきがしっかりと返事をすると、小松は柔らかで優しい笑みを浮かべてくれた。 ゆきの手がしっかりと握りしめられる。 「……誓おうか。この枝に」 「はい」 ゆきが返事をすると、小松はゆっくりと、顔を近づけてくる。 誓いのキス。 その甘さに、ゆきはうっとりとしてしまう。 小松は唇を離すと、ゆきの瞳を真っ直ぐ見つめる。 「約束は違えないからね」 「はい」 秋の日よりのロマンティックに、ゆきはうっとりとした幸せを噛み締めていた。
|