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イルミネーションの主役は、やはり点灯したツリーだと、ゆきは想う。 感謝祭近くになると、巷ではありとあらゆるクリスマスツリーの点灯式が行われる。 日本では感謝祭なんて余り馴染みのあるものではないから、ついつい点灯式がクローズアップされがちではあるのだが。 点灯式は、ロマンティックなホリデーシーズンの入り口であるから、ゆきにとっては、大好きなひとと過ごす温かなシーズンが始まる、わくわくした季節になる。 だが、この季節は、同時に、小松が多忙を極めるシーズンの幕開けにもなる。 デートが余り出来なくなる季節でもある。 それ故に、ゆきにとっては切ない季節になるのだ。 余り会えないがゆえに、ビッグイベントに、ロマンティックさを凝縮させようとも思う。 会えないからこそ、貴重な時間に想いを表したかった。 小松の会社の近くのショッピングモールで、今年も可愛いからくりツリーのイルミネーションの点灯式が行われる。 ゆきは、是非とも小松と一緒に参加をしたくて、誘うことにした。 週末の夕方に行われる点灯式。 アンサンブルの演奏などもあり、華やかでロマンス溢れる時間が過ごせそうだ。 小松の会社からかなり近いこともあり、ゆきは誘ってみることにした。 点灯式の時間だけでも、一緒にいて貰えないだろうかと思いながら、ゆきは小松に連絡を取ることにした。 いきなりの連絡であるから、小松もビックリするのに違いない。 仕事の邪魔はしないと決めているものの、どうしても一緒に過ごしたかった。 断られる覚悟で、ゆきは小松に連絡を取ってみた。 「はい、小松です。あ、ゆき。どうしたの?」 「お忙しいところすみません。あの、小松さん、会社の近くのショッピングモールで、今週末に点灯式があるんですが、夕方、少しだけ抜けることは出来ないですか……? あの、一緒に点灯式に参加したいのですが……」 ゆきは遠慮がちに言う。 だが、返ってきたのは、とても冷たい一言だった。 「無理だよ。忙しい時期に入っているからね。学生の君とは違って、イベントに浮かれて場合じゃないかね。それだけ? 用は」 「そ、それだけです」 「だったら切るよ。仕事中だからね」 小松はキッパリと言い切ると、冷徹に電話を切ってしまった。 ゆきは、ただ呆然とスマートフォンを握り締めた。 断られる覚悟はしていたが、まさか、ここまでとは思ってもみなかった。 ゆきは余りにも冷たくあしらわれてしまい、ただ笑うしかない。 苦笑いしか浮かべられない。 本当に忙しいのだろう。 ならば納得はする。 だが、こんなにも冷たくあしらわれるなんて、ひどいと思う。 小松は会社を経営しているゆえに、様々な責任がのしかかってくる。それはわかっている。 だからこそ少しの時間で良いと思ったのだが、それすらも叶わなかった。 ゆきはがっかりする。 しょうがない。 それはわかっている。 なのに切なくてたまらない気持ちになる。 重苦しい気持ちに、ゆきは溜め息を吐きそうになった。 気持ちを切り替えて、ひとりで楽しもうとも思う。 ひとりなら誰にも迷惑をかけることはないから。 ゆきはそう考えると、気持ちがスッキリとした。 点灯式は、今年だけではない。毎年行われているものだから、また来年、誘えば良い。 ゆきはそう思うと気分が晴れ上がった。 翌日から、ゆきは早速、点灯式の時間や、催しを調べることにした。 調べると、本当に楽しくて、ゆきは、点灯式がとても楽しみになった。 ワクワクしながら、点灯式を待つ。ひとりでも、季節のイベントを楽しめる。 それを小松に見せて、大丈夫だと安心させなければならない。 ゆきはそう思いながら、ひとりでも楽しめるのだと言うことを、証明したかった。 点灯式まで、ゆきはまるでデートをプランするような気持ちになりながら、様々な準備を楽しんだ。 笑顔になる。 小松と一緒にいけないのは残念ではあるが、それでも充分に楽しめることを、証明したかった。 いよいよ点灯式の日だ。 小松の会社の最寄り駅で降りるが、会社のビルには行かずに、ゆきはショッピングモールへと向かう。 大々的なイベントなだけあり、可愛くて綺麗なクリスマスツリーの周りには、既にひとがかなり集まっている。 アンサンブルの音楽家もスタンバイを始めた。 看板に書かれた協賛企業には、小松の会社の表記もある。 ゆきはほんの少しだけ嬉しくなった。 今日は点灯式のロマンティックさを堪能して帰ろう。 それが良い。 やはり点灯式だからか、ショッピングモールの位置関係からか、恋人たちや夫婦が多い。 ゆきは、その様子を見ながら、少しだけ羨ましくなった。 幸せそうなカップルが多くて、ゆきは複雑な気分でずっと見つめていた。 いよいよ、点灯式が始まる。 クリスマスソングがアンサンブルによって演奏され、ゆきは静かに耳を傾けていた。 こうしているとほわほわとした幸せな気持ちになる。 うっとりとするようなクリスマスソングの数々に、ゆきはここに来て良かったと思った。 そして、いよいよ、カウントダウンをしながら、クリスマスツリーへの点灯が行われる。 点灯ボタンを押すのは、有名モデルだ。 見ているだけで目の保養になるような人だ。 そして、点灯のタイミングで、見慣れた人を見つけた。 小松だ。 協賛企業のCEOとして、参加しなければならなかったのだろう。 キッパリと断られた理由が分かったような気がした。 これならばしょうがないとゆきは思いながら、遠くのステージを眺める。 距離があるから、小松が気付くことはないだろう。 そんなことを考えていると、一瞬、小松に見つめられたと、ゆきは気付いた。 だが、まさかだと思い、気にはしなかった。 点灯ボタンを、小松やモデルといったゲストが押し、華やかなクリスマスソングがアンサンブルにて上演され、クリスマス気分が高まってくる。 恋人たちはすっかりロマンティックな気分に酔いしれているようだった。 カップルを見ていると、羨ましい。 ゆきは、隣に小松がいたら良いのにと思わずにはいられなかった。 不意に目隠しをされたかと思うと、そのまま背後から抱き締められた。 「……ゆき……」 官能的な香水と艶やかな声に、ゆきは震えてしまいそうだ。 「帯刀さん……」 「お待たせ」 小松にギュッと抱き締められて泣きそうになる。 「間に合った?」 「間に合いました……」 ゆきは嬉しくて堪らなくて、つい涙ぐんでしまう。 最高の点灯式になったよ。 きらびやかなクリスマスツリーのイルミネーションを見つめながら、ゆきは甘く思った。 |