霧雨楼



   *

 花梨がお茶を入れてリビングに戻ると、雨が降っていた。闇の中の春雨は、静かで優しいような気がする。音もその流れも、総てを包み込んでくれる。
「頼忠さん、お茶が入ったよ?」
 声をかけたのに、頼忠は窓の外を見つめている。闇の奥深くを覗いているような眼差しだ。どこか寂しそうでいて、愁いを帯びた眼差しに、花梨は胸の奥が痛くなった。泣きたくなるぐらいに、切ない。
 精美な頼忠の横顔を見ていると、このまま置いて行かれてしまうような気がして、花梨は呼吸困難になった。
 あの時代にいたときは、頼忠に「かぐや姫」などと言われたものだが、今度は逆に花梨が、いつか頼忠がどこかに行ってしまうのだろうかと不安になっている。真逆だ。
「花梨殿…いかがされましたか?」
 花梨が立ち尽くしているのを気付いたのか、頼忠が声をかけてきてくれる。落ち着いた声は、花梨が大好きな響きを持っている。
「ずっと雨を見ていたから、どうしたのかなって。あ、お茶、入りましたよ」
 花梨は頼忠の前に抹茶わらび餅とお茶を差し出す。今日学校の帰りに、頼忠が喜ぶと思って買った、上品な味のものだ。
「有り難うございます」
「頼忠さんと食べたらとっても美味しいだろうなって思って」
 花梨は不如意な心を隠すために、わざと笑って見せた。だが、そんな笑顔で目の前の頼忠をごまかせる筈もない。切れ者の武士であった頼忠は、誰よりも怜悧だからだ。そのお陰か、こちらの世界に来て、慣れない仕事についてもスムーズにこなしていたのだ。
「花梨殿…何かあったのでは?」
「何もないよ、本当に」
 笑ってごまかしても、きっと見破られる。あの澄んだ頼忠の瞳を、花梨はなるべく見ないようにする。
「こちらを向いてください、花梨殿」
 頼忠は怒ったように言うと、花梨の頬に両手を置き、自分に向き直らせた。
 花梨は驚いてしまい、大きな瞳を更に丸くして頼忠を見る。綺麗な瞳には静かな怒りの焔が燃えさかっている。花梨はそれに怯えた。
「…正直に言って下さい…」
「あの…私…」
 言葉をどう選んで良いかが解らなくて、花梨は唇を噛む。すると頼忠の表情は更に険しく曇った。
「…花梨殿…、実力行使をしなければ、あなたは何も私に仰ってはくれないのですか?」
「実力行使って…」
 花梨は頼忠の怒りに怯えながら、躰を引こうとするが出来ない。
「実力行使はこうです」
「あっ…!」
 頼忠は骨が軋むぐらいに抱きすくめてくると、花梨をそのまま床に押し倒す。抵抗する間もなく、唇を荒々しく塞いできた。
「…んんっ!」
 いつもはほんのりと冷たい頼忠の唇が、今日に限っては沸騰するぐらいに熱い。強く引きちぎってしまうほどに唇を吸い上げられた後、生き物のような舌が歯列を割って入ってくきた。頼忠の舌で口腔内がいっぱいになり、呼吸が出来ない。
 花梨の舌がぎこちなく頼忠に絡むと、それを味わうように動いていく。絡み合う舌の音が、雨の音と混じり合って部屋の中に淫猥に動いた。
 呼吸がしたい。酸素が欲しい。花梨は頼忠に縋り、酸素を求めるように唇をずらそうとした。
「…我が儘はいけませんよ。花梨殿」
 フッと頼忠が意地悪に笑う。
「意地悪…」
 ようやく空気を吸う為に唇を開くと、頼忠が、言葉を盗るようにまた唇を奪ってくる。唇の端を啄むようにキスされて、花梨は背筋にゾクリとした官能の波が走るのを感じた。
 ようやく唇を離されたときには、唇がぷっくり腫れていたいぐらいだった。
「これで言う気になりましたか? 花梨殿…」
 真上にある頼忠の顔が、意地悪に思える。なのに、悔しいぐらいに素敵だ。
「言う気だとかじゃなくて、頭の中で考えが…ああっ!」
 花梨の言葉など聞く気はないとばかりに、頼忠は衣服を脱がしにかかる。今日はお気に入りのワンピースを着ていたので、全く皮を剥くようにするりと脱がされてしまった。
「お仕置きをされたいみたいですね。花梨殿は」
 静謐な雰囲気の影に策士の一面が隠れている。それでも花梨にとって、頼忠は最高に愛しい人だ。
 頼忠は花梨のワンピースに付いていたリボンを抜き取ると、それで花梨の両手を手際よく縛り上げた。
「あ、や…っ!」
 こんな風にされたのは初めてで、いやらしい自分の格好に涙が出そうになる。こんなことをされても、頼忠を憎む事なんて、花梨には出来やしなかった。それほど、目の前の男が愛しい。
 キャミソールをするりと脱がされ、フロントホックのブラジャーも外されてしまう。この世界に来て、初めて躰を重ねたときは、ぎこちがなかったのに、今の頼忠は手慣れたものだ。それだけ、花梨と肌を重ね合っているということなのだが。
「花梨殿…」
 耳朶を舌先でちろりと舐めながら、頼忠は花梨の豊かな胸を持ち上げるように揉み上げていく。拷問とも言える柔らかな刺激に、花梨は背筋を仰け反らせた。
「あ、ああっ!!」
 頼忠は、花梨の媚態を楽しんでいるかのように微笑み、下着の下に隠れた熱い場所に、指先を伸ばす。
「やあっ!」
 襞の表面に触れられただけなのに、既に湿った音を奏でている。キスと胸を少し触れられただけなのに、花梨のそこは、もう頼忠をいつでも受け入れられる状態になっていた。
「凄く濡れていますね…。これだけ感じてるってことは、苛められるのがお好きですか? 花梨殿は…?」
「そ、そんなんじゃ…ああっ!」
 花梨の襞を掻き分けて、頼忠の指先が熱い花芯に触れてくる。くにくにと円を描くようにそこを撫でられて、花梨は脚を閉じてジタバタとした。そこに間隔が集中して、腰がずんと重くなる。
「花梨殿…。仰っていただけますか?もうここまで来れば、焦らすほうがあなたには拷問になってしまうかも知れませんが…」
 意地悪だ。本当に意地悪すぎる。だがそんな頼ただが、花梨は好きなのだ。
 頼忠の指は嬲るように花芯を弄っていたのに、今度はちょんちょんと触れるか触れないかの軽い刺激になっている。
 堪らない。先ほどまであんなに強く愛撫してくれたのに、物足りない刺激になってしまうのは、躰も心もひどく疼いてしまう。
「…お願い…っ! 頼忠さん…っ!」
 花梨が腰を浮かせると、頼忠は宥めるように抱きしめてくれた。
「あなたが仰ってくれれば、そのもどかしさを取ってあげることが出来ますよ」
「あ…」
 花梨は呼吸を整えながら、素直に折れることにした。このままにされたら、どうにかなってしまいそうだから。
「…頼忠さんが…切なそうに雨を眺めていたから…、私…過去のことを考えているじゃないかって…」
 ここまで言ったところで、花梨の瞳から大粒の涙が零れる。このままぐちゃぐちゃになってしまうぐらいに、花梨は泣いた。
「…向こうに帰りたいんじゃないかって…、私を置いて勝手に帰ってしまうんじゃないかって…!!」
 感情が爆発し、花梨は子供のように泣きじゃくった。それを頼忠が子供をあやすように背中を叩いてくれる。
「花梨殿…!! 私は何処にも参りませんから。あなたがいる場所が、私のいる場所ですから…。背中の傷と共にあった心の傷も、あなたがいやして下さった。背中の傷は遺ってはいますが、心の傷はもう遺ってなんかいません…。あなたのお陰だ…」
 頼忠は今度は優しく舌で涙を救い、涙で濡れた唇にも、羽根のようなキスをくれる。
「…私…あなたをとても愛しているわ…。だけども、束縛できないの!それぐらいに頼忠さんが好きなの!
だから、あなたがもし帰りたいって言ったら、止める事なんて出来ないの…」
「だったら私を束縛して下さい。花梨殿…。しっかりと束縛して下さい。あなたがいなければ、私は生きていても無駄です。それを刻みつけて下さい」
 頼忠は花梨の頬を柔らかく撫でてくれる。優しい手の温もりは、頼忠の言葉が総て誠であることを示している。
「愛させて、束縛させて」
「花梨殿」
「あの傷を見せて。私が一生懸命治してあげるから」
 頼忠は深閑と頷き、衣服を脱ぎ捨てた。
 いつもながら見事な美しさを持つ肉体だと、花梨は思う。
「あなたが好きよ…」
 花梨は心を込めて言うと、頼忠の背中側に行き、傷にキスを始めた。舌で愛しげにその部分を撫でる。
「…花梨殿…っ!」
 頼忠の背中が僅かに震える。感じてくれているのを知り嬉しかった。息を乱す頼ただが、花梨には可愛く思えた。
 たっぷりと背中にキスをした後、花梨は前に回った。視線の先には、頼忠の立派な雄剣がある。
 腹ばいになると、花梨は熱く硬くなった頼忠の抜き身を手の中に包み込んだ。ぴくりと跳ね上がり、血液が早く流れている。それにキスをした。
「ああっ…!」
 頼忠の亀頭を舌でちろりと舐めた後、口の中に含む。口の小さな花梨には、頼忠のそれを含むのは大仕事だが、愛する者が喜ぶなら、何でも出来た。
 蒼い味も頼忠だから美味しいと感じられるのだ。
「ん、んんっ!」
「…花梨殿…っ!」
 頼忠の指がかなり乱暴に花梨の背中を掴む。感じてくれるのが何よりも嬉しい。
「…爆発…してしまいそうです…。花梨殿にも同じ想いをさせてあげたい…」
 苦しげな頼忠に満足感を覚えながら、花梨は顔を上げた。口に周りは、既に唾液でいっぱいだ。それを指先で頼忠が拭ってくれる。
「可愛い顔をされますね…」
「あ…」
「そのリボンを解いて差し上げないといけませんね」
 頼忠は微笑むと、花梨の細い腕からリボンをするりと抜いた。しゅるりと衣擦れする音に、胸がキュンと鳴る。
「…かたはは付いていなかったみたいです。良かった…」
 縛ったところを頼忠が何度も口づけてくれる。ただ肌に唇を押し当てられているだけなのに、全身が震えてしまうほどに感じてしまっていた。
「…あ、頼忠…さんっ!」
 花梨が動くと下から濡れた音がし、頼忠はフッと微笑む。
「お可愛らしいですね。本当にあなたは」
「やあんっ!」
 再び床に押し倒されると、鎖骨の部分を思い切り吸い上げられる。
「総ての場所に私を刻みつけてしまいたい…!! 職場と学校と離れているときも、ずっと傍にいられるように…」
「ああっ!」
 奥深いところから切ない熱が込み上げてくる。花梨はそこを頼忠の熱い場所に押しつけた。
 乳房に口づけて、真っ赤な花を遺しながら、頼忠は花梨のそこがもっと疼くように、指で愛撫を始める。花芯を摘んだり揉んだりした後、入り口を押し広げるように胎内指を鎮めていく。
「ああ、ああっ!」
 花梨はしどけなく腰を浮かせながら、くねらせるように指を受け入れた。内部に感じる頼忠の指は意地悪で、胎内をかき回すだけかき回しては外に出る。
 乳首を唇に含まれたときには、もう空を飛んでいるかのように気持ちが良かった。
「ああ、ああっ!」
「ここは子供が生まれたときに吸われる場所です。そんなに感じたら、子供が驚きますよ?」
「…頼忠さんだから…っ!」
 花梨が息も絶え絶えに反論すると、頼忠は笑って唇を平らな腹部に移動させていった。
 濡れた下草を超えて、今、まさに指で熟された場所を口づけていく。ディープキスでもするかのように、頼忠は音を立てて蜜を吸い上げた。
「ああ…っ!!」
 唇で舌で花芯を愛されるのが、心地よい。とことんまで愛されているのが解るから。
「好き…っ! 頼忠さん大好き…っ!」
「私もお慕い申し上げております」
「はああっ!」
 指で最奥のふっくらとしたところを撫でられる。そこをくすぐられて、花梨は腰を震わせて、軽く達してしまった。
「はあ…」
 大きく深呼吸をすると、頼忠が満足そうに笑っている。
 一度達したものの、まだ躰は疼いていて、頼忠を深く求めている。躰の隅々まで、完全に頼忠の熱に支配されてしまっていた。
「…そろそろ私も限界です…」
「…私も…」
 花梨は素直に頼忠が欲しいことを認め、脚をぎこちなく開いた。もう何度も重ねてきた躰  最初は恥ずかしくてたまらなかったけれども、頼忠の教育で、自然に脚を開くことが出来るようになった。こうしないと、なかなか欲しいものをくれないのだ。
「…花梨殿…」
「ああっ!」
 ぐいっと力強く先端を差し入れられるだけで解るぐらいに、頼忠の楔は大きくなっている。
 内部を押し広げるようにして、頼忠は自分の逞しい剣を花梨の奥に差し込んでくる。
 ドクドクと音を立てて脈を打っている欲望が最奥まで達すると、更にその奥まで進むかのように丘に擦りつけてきた。
「あ、あああっ!!」
 頭の奥が本当に可笑しくなりそうになる。
 頼忠は花梨の敏感な肉芽を指先で弄りながら、ピストン運動を始める。
 気持ちが良すぎて、花梨は、飲み込んだ頼忠の武器を思い切り締め上げた。
「くッ…! 花梨殿…っ!!」
「はあ、ああっ!」
 頼忠の苦しい声と同時に、花梨の躰がふわりと高みに導かれ始めた。動きが激しくなってきたからだ。
 内部を抉るように頼忠が動いてくる。もうどうにでもなれとばかりに、ぐちゃぐちゃになる。
 お互いの熱で、頼忠と花梨はまるで牛酪のようにとろとろに溶けてしまいそうになる。
 躰総てが頼忠に反応して、ロケット花火が打ち上がる寸前ぐらいに高まった。
「頼忠…さんっ!」
 収縮が激しくなり、花梨の躰も激しく弛緩し始める。酔っぱらってしまうぐらいの気持ちよさに、花梨は全身がとろけてしまう。
 もうどうしようもないぐらいに頼忠が好きで、このまま壊れてしまいたくなる。
「花梨…殿…っ!!」
 頼忠の声が震えた瞬間、花梨は空の高みにぱあんと弾け飛んでしまった  

   *

 気付くとベッドに寝かされ、頼忠に抱きしめられていた。
 こうして抱きしめられるのが気持ちが良い。愛し合った後のアフターフォローも、頼忠は理想的なほどに肌理が細かい。
「今夜はとても感じていらっしゃったみたいですね? 戻ってくるまで、時間がかかられたから」
 そうしたのはこの自分なのだと、どこか頼忠は自慢しているようにも見える。その笑顔が、花梨には恥ずかしくてしょうがない。
「もう、知りません! 頼忠さんだっておあいこだったじゃないですか」
 花梨はぷいっと顔を横に向け、拗ねてみる。すると頼忠は背中から包み込むように抱きしめてくれた。
「本当にお可愛らしいですね。あなたは…。服は皺になるといけませんから、ちゃんとかけておきましたから」
「うん、有り難う…」
 花梨は背中に頼忠の熱を感じながら、回された手を握りしめる。その鼓動も気持ちが良い。
 頼忠の規則正しい鼓動と、雨の音がミックスされてしまうと、心地がよい子守歌のようになる。
 気持ちが良く微睡んでいると、頼忠の手が忙しく動き始めた。
「あ、あの…」
「眠らないで下さい、花梨殿。夜は今からです…。まだまだ長いですから…。明日はお休みですから、あなたをとことんまで愛したいのです…。花梨殿…」
「あ、ああんっ!」
 再び胸を揉みし抱かれると、花梨の躰はあっという間に感度が良くなる。
 息を早くなり、あんなに気持ち良く微睡んでいたのに、眠気が一気に消えてしまった。
 こうなるともうどうなるかは解っている。オールで頼忠に求められて、明日は腰が痛くて起きられなくなる。容易に想像できる結末に、花梨は抵抗したくなる。
「折角気持ち良く眠っていたのに…!」
「明日、ゆっくりふたりで一緒に眠りましょう…」
「ああっ!」
 花梨の抵抗の言葉を飲み込むように、頼忠は唇を塞いでいく。
 優しい雨は、ふたりを愛の世界に閉じこめる。
 雨の音が聞こえなくなるほど、ふたりは夢中になって愛を交わした。




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