再会して、イキナリ三歳も年上になってしまうなんて狡いと、望美は思った。 横にいる将臣を恨めしく思いながら、探るように上目使いで見上げた。 いつもふたり組で、一緒に成長して来たというのに、将臣がひとりで成長してしまったのが、何だか切ない。 「どうしたんだよ?」 「何かね…」 男らしい横顔に、魅了されずにはいられない望美は、わざと視線を落とした。 「はっきり言えよ」 今までとは違うどこかおとなびた声に、望美は戸惑いを覚える。 言葉ひとつで、将臣に流れた時間が感じられた。 「将臣くんは、何だか器が大きくなったっていうか、大人っぽくなったなあって…」 そう。今までは何ともないと思っていたというのに、今は小さなことですらも鼓動が弾むぐらいにはげしくときめくのを感じる。 「当たり前だろ? 俺はお前より三年も多く年を重ねちまうんだからな? 俺はもう21だからな。立派な大人だ。お前と違ってな」 ふざけるようにウィンクするところは、以前の将臣とは変わらない。だが、滲み出る経年に、胸の奥がほんのりと明るくなった。 ぱふり。以前よりも大きくなった手の平を頭の上に乗せられる。 いつもなら気持ち良いと感じるのに、今はくすぐったいような複雑な気分になった。 黙ってしまうと、将臣は何度か髪を撫でられた。まるで父親のように。 「どうせ私は子供だよ…だけど…将臣くん…」 言葉に上手く出来ない。今の気持ちは複雑すぎるから。 「何だよ、怒らねぇから言えよ」 言葉の端々で大人を感じ、望美は余計に胸が痛くなる。そんなにどんと構えられたら、小さな我が儘を言ってしまいたくなった。 「-----我が儘言ってもいい?」 「ああ。何か拗ねてるみてぇだしな、お前。夕方からなら、何かしてえことでもあるなら、我が儘聞いてやるよ。ただし小さな我が儘ならな」 まるでちいさな子供をあやすように言われて、望美は拗ねてしまいたくなった。 「将臣くん、桜を見に行こうよ。夜桜」 つい口についた我が儘な言葉を、将臣は受け取り頷いてくれる。 「いいぜ」 「有り難う…」 素直に頷くと、将臣が心ごと包み込むような笑みを浮かべてくれた。 「飯喰ったら、桜を見に行こうぜ」 「うん、そうだね」 闇に浮かぶ、清純と妖艶を持つ花びら。それを見れば、素直な気分になれるのだろうか。望美は複雑な気分を抱いて、将臣を眺めた。 最初は何とも思ってはいなかった。生まれたときから当たり前のようにいた幼なじみが、心地良かっただけ。 望美はただの友情しかないと思っていた。 だが-----こちらの時空に来て、それは確実に違うと感じるようになっている 「望美、桜を見に行こうぜ」 「うん!」 今夜はみんなとわいわいやるというよりは、将臣とふたりてしんみりと桜を眺めたかった。 「…みんなは?」 「今夜は久しぶりに将臣くんとゆっくり桜を眺めたかったんだよ。駄目かな…」 望美が恐る恐る聴くと、将臣は優しい笑みを浮かべてくれる。 「…いや。俺もお前とふたりで見たかったから、ちょうど良かったのかもな」 「有り難う…」 ふたりの気持ちが重なり、望美はホッと胸を撫で下ろす。将臣がみんなとわいわいやりたいというのなら、そうするしかないと思っていた。 嬉しかった。 夜道をふたりきりで歩くのは久しぶりだ。まだ肌を刺す風がほのかに心地良かった。 「ねぇ、三年間、何をしていたの?」 ふたりだけだから、望美は気になっていたことをストレートにきいてみた。 将臣は暫く黙っている。深刻な影を背負い、ただ月を見つめている。 こんな将臣を、望美は見たことがなかった。それゆえに泣きそうな気分になる。 今まで将臣のことは手に取るように解って来たつもりだった。なのに…。 自分が全く解っていないことを思い知らされる。 この沈黙が息苦しくて、望美はたまらなくなった。 「ごめんね。今のことは忘れてもらって良いよ。ごめん、ごめん!」 何時ものように将臣を和ませるように笑ったが、目の前にいる幼なじみは、目を細めて切ない表情をする。 「…お前に恥ずかしいと思うようなことは、してねぇから」 将臣は望美の目を見て、キッパリと言い切ってくれた。 将臣は嘘をつかない。ただ今は何も言えないだけなのだろう。そう思うとこれ以上は、聞く気には馴れなかった。 望美はそれを受け入れると、静かに頷いた。 「解っているよ。小さい頃から将臣くんは私には絶対嘘をつかなかったから。ちゃんと解っているよ。もう私からはきかないよ。将臣くんが話す気になったら、話して貰っていいかな?」 望美が真っ直ぐと偽りのない眼差しを向けると、将臣は強く頷いてくれた。 「いつか、必ず。お前にだけはな…」 どこか胸を切り裂くような痛みを、望美は将臣から感じ取っていた。 「きゃあっ!」 ぼんやりとしていたせいか、望美はお約束にも砂利に足を取られてしまう。躰がよろけたところを将臣に抱き留められて、ひっくり返らずに済んだ。 「ったく、大丈夫かよ!? 相変わらずだな」 「ごめん」 「ったく、ちっとも成長しねぇな、お前は」 舌打ちする将臣の声を上の空で聴きながら、望美は耳の近くまで赤くなっているのを感じていた。 熱い。パルスが激しい。 全身の血液が沸騰して駆け巡っているような気分になった。 こんなにドキドキしたのは初めてかもしれない。あんなに素敵な男性に囲まれていても、今まで、こんなにもときめいたことはなかった。 なのに…。 ただの幼なじみだと思っていた将臣を猛烈に意識してしまっている。 変わった…。経年で益々男らしくなり、大人になってしまった。今ほど将臣が大人の男になったと意識したことはなかった。 「ったくしょうがねぇな」 将臣は望美の体勢を整えると、望美の手を大きく包みこんできた。 しっかりと指をからまされて、望美は手の平が心臓になったような錯覚を覚える。 「こうしたら、いつ転んでも大丈夫だろ?」 「う、うん、有り難う」 ふたりで手を繋いで歩くなんて久し振りだ。しかも、今はしっかりと指を絡まった恋人繋ぎだ。 桜が美しい並木道まで来たところで、ふたりは立ち止まった。だが手は離さなかった。このまま離してしまえば、また離れ離れになってしまうような気がしたから。 「綺麗だね桜は…」 「ホントにな。久しぶりだぜ、こんなにもゆっくりと桜を眺めたのは」 どこか自嘲ぎみに将臣は笑いながら、何かに挑むような眼差しを桜に向ける。 「綺麗なもんだな、本当に」 声に視線に、将臣が自分が知らないところでおとなびたことを、実感せずにはいられなくなる。 「…やっぱり狡い…」 ぼつりと呟くと、将臣が眉を上げた。 「何が?」 「将臣くんが先に大人になってしまったこと。一緒に成長したかったよ…」 将臣は複雑な笑みを浮かべると、望美の髪を指先で撫で付ける。そのなまめかしい指の動きに、望美は息が止まりそうになった。 「俺もな、お前と一緒に時間が過ごせたらって思ってた」 「ホントに?」 「ああ。マジで」 望美は何故だか泣きたくなってしまい、将臣にしっかりと抱き着いてしまいその胸に顔を埋める。 待っていて欲しい。必ず釣り合う女になるから。 「だったら…これ以上時間を重ねないで。早く成長するから…! 将臣くんに負けないぐらいに…。だから時間を止めて、待っていてほしい…」 「ああ。俺のなかの時計を止めておいてやるよ」 「有り難う」 ぎゅっと抱き着いて、今だけは将臣の広い胸や背中をひとりじめにする。今しか出来ないことだから。 望美は心の奥で、今度合うときにはもっと追いついてみせると心に誓い、瞳を閉じた。 |
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