独り満月を見ていると、恋しく想った日々が思い出される。 将臣は酒を飲みながら、うっすらとたなびく雲に隠れた月を見る。 この世界に来た頃、再会までこんなにかかってしまうとは、将臣は想ってもみなかった。 忙殺されていく荒波のような時間の中で、いつしか絶望し、逢うことは一生叶わないと、諦めたなかでの再会だった。 今、こうして、僅かな時間を交差させて一緒にいるのが、信じられないぐらいだ。 将臣は月を愛でながら、また酒を煽った。 心地の良い酔いだ。 こんなに気持ち良く酔えたのは、酒を覚えてから初めてかもしれない。 「将臣くん、まだ眠ってなかったんだ」 無防備な寝間着姿で現れたのは、まだ無邪気な影を宿す幼なじみ。 自分がどんなに将臣の性的衝動を煽っているかも、全く気付かず暢気にしている。 「望美、お前、まだ起きていたのかよ」 「うん。今日は良い日だと思うと、眠れなくてね…。ちょっと興奮ぎみかなあ」 くすくすと含み笑いを浮かべながら、望美は将臣の横にちょこんと座る。 「横に座っていい?」 「座ってるじゃねぇか」 「事後承諾だよ、一応ねー」 「ったく…」 望美のからっとした笑みを貰うと、こちらまで幸福に溢れた気分になるから不思議だ。 「晩酌、付き合えよ」 「お酒飲めないよ」 「飲めなくていい。お前がそこにいたら…」 将臣のさりげなくも愛情が篭っている言葉に、望美は頬を赤らめながら頷いてくれた。 「うん、じゃあ傍にいて監視する。将臣くんが飲み過ぎないように」 「俺はアル中じゃねぇんだぜ?」 将臣が苦笑いをしながら酒を飲むと、望美は徳利を取り上げてしまった。 「おい!」 「あんまり飲み過ぎないほうが良いよ。本当に中毒になっちゃう!」 望美はまるで母親みたいに怒り、徳利を抱きしめて離さない。 「そこまでやわな肝臓はしてねぇさ」 「そんなことを言わないの。将臣くんには長生きして貰わなくっちゃいけないんだからね!」 望美はぷんすか怒ったまま、将臣を睨みつけてくる。昔から、この眼差しにはからきし弱かった。 「私が注ぐから、あんまり激しく飲まないのよ! いいこと?」 「はい、はい」 いつもこういった時には、望美のペースに巻き込まれていたものだ。今となれば、総てが懐かしい。 そして、温かくて優しい。 「まぁ、いい…。その分、心地良く酔えるだろうからな」 将臣は月を最高な気分で眺めると、ぐっと伸びをした。望美もそれを真似るように伸びをする。 「……!」 望美が伸びをすると、僅かに合わせが開け、胸の谷間が露出する。 白くて、ふわふわと柔らかなものを見せ付けられ、将臣は一瞬にして、下腹部に熱が集中するのが解った。 悩ましくも苦しいほ照りが、将臣を息苦しくさせる。 こんなに色気のある姿を見せ付けられたら、衝動が盛り上がってしまうのは、いたしかたがないことなのだ。 白い乳房が見え隠れして、このまま押し倒したい衝動にかられてしまう。 「風に当たりたくなったな…」 「今、当たっているじゃない。凄く気持ちが良いよ」 望美はあくまで暢気だ。 こんなに無邪気な色香があることを、全く解ってはいない。 だがここで押し倒してしまえば、きっと望美からは軽蔑されるだろう。 「…将臣くん、ちょっと顔が赤いよ。酔っ払った?」 「…大丈夫だ」 「そう? だってこんなに…」 いつまで経っても、望美は子供の気分でいる。その証拠に、将臣の頬を無邪気な指先で触れている。 自分を狂わせる無邪気さに、将臣は息苦しくなる。 「熱いよ…。平気?」 「平気なわけねぇだろっ!?」 「…ま、将臣くん…!?」 将臣は望美の腕を取ると、少し乱暴に自分の胸に抱き寄せてしまう。そのまま閉じ込めると、衝動的にキスをした。 「……!」 誰もが憧れるような甘いものじゃない。烈しく奪うようなものだ。 イノセントな望美が余りに綺麗で、このまま汚したかった。 望美の躰の一部でいいから、自分の色に染め上げてしまいたい。 将臣は、満たされない熱のように盛り上がる想いを抑え切ることが出来ずに、噛み付くようなキスをする。 好きだという気持ちを、抑え切ることが出来ない。 唾液すらも総て吸い上げて、自分のものにしてしまいたかった。 唇を軽く噛むと、血が滲む。 それすらも将臣は吸い上げていった。 ようやく唇を離せても、やる瀬ない熱は静まるどころ過熱くなる。 「…将臣くん…」 潤んだ瞳で見つめられながら、名前を囁かれると、将臣はたまらなくなって抱き寄せた。 こんなにも愛しく思う。 望美の唇も髪も総てを、自分のものにしたい…。 将臣は首筋に唇を宛てると、白い肌を強く吸い上げた。 「あっ…っ!」 吸い上げる度に、望美への独占欲が広がる。 切なく甘い痛みに、狂いそうになった。 「…好きだ…」 戒めを破るかのように、将臣は愛の言葉を囁く。 胸が痛くて、だが、ずっと秘めていた言葉を口にするのは嬉しくて…。 「……好きだよ……将臣くん……」 本当に小さな声で、望美は将臣を幸福にする言葉を囁いてくれる。 喜びが心に芽吹く。 それがどうしようもないぐらいに、将臣を狂わせた。 望美の躰を強く抱いた時に、小さな心もとない声が聞こえた。 「将臣くん、いつまで一緒にいられるの?」 現実を思い知らされる言葉に、将臣ははっとする。 ここで望美を抱いてしまえば、きっと離せなくなる。 自分の事情に巻き込んでしまう。 それだけは避けたかった。いや、避けなければならない事情だ。 明日をも知れない場所に、望美を連れて行かない方がいい。 それなら、ここで抱いてはいけない----- 頭が冷えると、将臣は理性で望美を離す。 「…もうすぐ西国に行かなくちゃならねぇんだよ」 「そう…」 途端に望美の声は寂しそうになり、泣きそうな顔をしていた。 「…すまねぇな…」 将臣は心を切なくさせる。 「いいよ…。将臣くんには将臣くんの事情があるんだからね」 泣き笑いで赦してくれる望美の顔を見ると、胸が痛くてたまらなくなった。 だが言わないよりはましだ。言ってしまったほうが良い。 「望美……」 泣くのを堪えきられずに、望美は目を一生懸命擦っている。 幼い頃の泣き顔を思い出して、懐かしくも重い気分になる。 「また、逢えるさ。生きてさえいれば」 「そうだね…。きっとまた会えるよ!」 望美は未来に希望を託して、明るく笑う。 将臣もまた未来に希望を投影していた。 将臣と望美はまた月を眺める。今度はしっかりと手を握って。 何時しか望美はうとうととし始め、将臣の膝を枕にして眠る。 その無邪気な寝顔に苦笑しながら、将臣は望美の頬にキスをした。 「今度はもう待たないからな?」 月が識っている約束。 |
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