砂が流れるように、時間の流れは止めようがない。 幼い頃は、あんなに一日が長かったのに、今はどうだろうか。 指から砂が零れ落ちるように、時間が過ぎていく。 望美と再会してからの数日は、本当にたった一秒にしか感じない。 時間の感覚が、こんなにめまぐるしく変わるなんて、まるで迷い子のよう。 幼い頃はころころしていて、男だとか女だとか、そんなことは気にせずに育った。 ただ仲の良い友達-----それだけだ。 一緒に風呂に入ったりしても平気だった。 いつから幼いなりに、相手が自分とは違うことを意識し始めたのだろうか。 明らかに嗜好が違ってきたからだろうか。 それとも周りが、『男と女』を意識し始めて来たからだろうか。 小学生の頃には、もう一緒にお風呂にはいることも、並んで昼寝をすることもなくなってしまっていた----- それでも、一緒に遊んだし、多くの時間を共有した。 だが、中学に入る頃になると、お互いに薄い壁が出来た。 体育が別授業になったのも、影響があったかもしれないが、将臣はより男らしく、望美はより女らしく、躰のラインが出来たからかも知れない。だが、心は子供のままだった。 躰が心に追い付かない。 いつしか望美は女になった-----将臣が小学5年生の時、春日家から赤飯のお裾分けを頂いた。母親はその意味を知っていたらしく、「望美ちゃんも躰だけはもうお嫁さんに行けちゃうのね」と言っていた。最初は意味がわからなかったが、やがて意味を知り、何だか複雑な気分になった。 それもお互いに壁が出来た原因だったかも知れない。 だから、将臣は望美がひとりの女として意識をしないように、無意識の領域で気をつけていたのかもしれない。 ずっと子供のままだと、思いこもうとしていた。 だからこそ壁を越えることが出来ない所か、段々厚くしてしまっていたかも知れない。 それをハンマーで打ち破りたいと願ったとき、運命はふたりの離別を選択した。 あれから砂が零れるように、将臣の躰には3年と半年と言う重い時間が流れたのに、望美にとって園時間は僅か半年だった。 望美にとっては僅か半年----だか、その月日は確実に大人の女にステップアップさせていた。 手を伸ばせば届く距離にいた望美が酷く遠く感じる。 この3年半、将臣の望美との想い出が、ひとつ、ひとつが、記憶の中で宝石のように大切で、美化されたものに変化を遂げていた。 月日は、ひとりになった将臣に、望美への想いを自覚させるには、充分すぎる時間だった。 もう幼なじみの妹のような少女じゃない-----あの時は自力でそう思おうとしていた。 だが今は、煌めく宝石のような望美を見せ付けられてしまうと、そうは考えられなくなってしまう。 原石は、短い時間で磨かれて、本物の宝石になっていた。 朧月夜を眺めながら、将臣はリズヴァーンと酒を舐める。 望美は白龍を寝かせて、自分も寝ると言っていた。 寡黙なリズヴァーンと、静かに飲むのは悪くはない。 「将臣、神子とは付き合いが長いらしいな…」 リズヴァーンは静かに重い声で呟き、空を眺めている。 嫉妬は感じない。だが、将臣は羨望をくみ取った。 -----お互いだと思う。 リズヴァーンは望美に闘う術を教えた、この世界ではかけがえのない強い絆を持っている。 望美が成長した期間を見守り続け、その一部始終を知っている。 将臣にはそれが羨ましい。 「----ああ。俺と望美は幼なじみだからな。小さい頃からころころ育ったよ」 将臣は杯になみなみと注がれた酒を、くいっと一気に飲み干す。 静かな夜だ。 心地よく酔えそうだ。 きっと、望美が近くにいることを解っているからだろうか。 「どうだ、久しぶりに神子と再会して」 「ああ。いつまでもあいつは、ガキじゃねえんだって思ったよ」 「人間日々成長する」 リズヴァーンは将臣の顔を見ずに、ひたすら空を見上げている。その横顔は、深い想いが佇んでいる。 「-----そうだな…。いつまでもガキじゃねぇ…。アイツも俺も…」 「そうだ。神子もいつまでも子供ではない」 「ああ。アイツも意外に女で、驚いちまった…」 将臣はごろんと横になる。見えるのは薄暗い天井だけ。 この3年半の間に、そこにどれだけ望美の影を映したことだろうか。 この半年の間、気付かないふりをしていたのに、見過ごすことが出来ないほどに、望美は女になっていた。 相変わらず怒りっぽいし、泣き虫なところはあるが、それでも望美は女だった。 手をのばしって、自分の腕の中に入ってくれることが、果たしてあるのだろうか----- 将臣は胸の奥が痛むのを感じた。 目を閉じ、望美の笑顔を思った。 「こら、将臣君!!」 懐かしい声の響きに目を開けると、望美が仁王立ちをして、少し怖い顔をして立っていた。 「もう! 先生はとうに寝所に行っちゃったよ! 風邪を引くから、ちゃんと寝所に行って寝てね! 夜具はちゃんと用意してあるから!」 「-----ああ」 将臣は苦笑をすると、だらけるように躰を起こす。 「-----寝所まで、連れて行ってくれ」 「もう! わがままばっかり!」 望美はぷりぷり怒りながら、将臣に短い間肩を貸してくれた。わざと酔ったふりをして、その髪を近くに感じる。 ここには甘い香りのするシャンプーなんてないはずなのに、望美の髪からはとても良い香りがした。 それは将臣を誘っている香りに過ぎないと思った。 部屋まで連れて行ってくれると、望美は譲の横で将臣を下ろしてくれた。 「おやすみ。明日二日酔いだなんて許さないよ!」 「へい、へい」 望美は笑いながら、そっと部屋から離れる。 「おやすみ、将臣君。…」 甘い声を聴きながら、将臣は目を閉じる。 砂時計のように流れる時間を、戻すことは出来ない。 だからこの瞬間を、何よりも大切にしたい----- 将臣は明日の朝見られる望美の笑顔を楽しみにしながら、目を深く閉じた。 |
| コメント 幼なじみのお話 将臣視点です。 |