*不器用な愛し方*


 夏になると、女の子は恋をして綺麗になる。
 望美も例外でないのか、いつもよりもキラキラしているように将臣には見えた。
 好きなひとが出来たのだろうか。いや、あんなダラダラと毎日を過ごしている望美に限ってはそれはあるはずもない。…と思っている。
 じゃあ身近に譲が相手なのだろうか。だとしたら、あちらもずっと望美に一途だし、まるく収まって大団円…。
 …ムカつく。
 一番望美の相手としては相応しいだろうし、将臣も安心して任せることが出来る譲。
 相手が譲ならば安心しても良いはずだというのに、どうも安心出来ないでいる。
 だったら誰なら安心出来るのだろうか。
 色々な男達の顔を思い浮かべるものの、誰もしっくりとこない。
 それどころか、想像しているだけでムカムカしてしまう。
 胃がじんわりと痛くなって、何も考えられなくなる。
 いったい誰が一番相応しいのか。
 望美が誰と恋をしていたら安心するのか。
 それをぐるぐると考えていると、呼吸がおかしくなった。
「将臣くん、何をしているの?」
 望美がきょとんとした表情でこちらを見つめてきて、正直言って驚いてしまった。
「何だよ、いたのかよっ! 来るならちゃんと声を掛けろ」
「何度も将臣くんに声を掛けたんだよ。なのに一向に返事をしてくれなかったのは、将臣くんだよっ!」
 将臣は少し恥ずかしくなって、瞳の周りをほんのりと紅く染め上げると、望美を軽く睨んだ。
「…で、お前は何をしにきたんだよ」
「ゲームをしにきたんだよ。新作なんだ。将臣くんと一緒にやろうと思って」
 望美は新作のゲームを差し出して、ニッコリと笑う。
 その笑顔がきらきら輝いてみえて、将臣は戸惑いを感じてしまった。
「…ゲームばっかやってると、バカになるぜ」
「バカになんかならないもんね。ね、しよっ、ゲーム」
 いつものようにまるで年下の女の子のように無邪気なのに、将臣はそこはかとない明るいエロスを感じてしまう。
 こんなにドキドキしてしまうなんて、心臓が病気なのかもしれない。
 望美は無防備で、いつも以上に隙だらけだ。
 このまま抱き締めてしまったら、簡単にキスしてしまえるかもしれない。
 そこまで考えたところで、将臣はハッとする。
 全く何を考えているんだろうか。
 これならただのエロじじぃではないか。
 ちらりと望美を見ると、いつものように近いところでちんまりと座って、コントローラーを握り締めている。
「ね、早く勝負しようよっ!」
「ったく、しょうがねぇな」
 将臣はわざと溜め息を吐きながらコントローラーを握り締めると、ゲームを始めた。
 何時もなら負けず嫌いをいかんなく発揮をして、望美に対しても容赦のない戦いをするというのに、今日は全く集中力が出ない。
 横にいて夢中になってゲームをする望美の表情のほうが可愛い過ぎて、そちらにばかり神経がいってしまう。
 それに。
 今日の望美は涼しそうなスリップドレスを着ており、視線をほんの少しだけ下げるだけで、胸の豊かな谷間が見えてしまう。
 白くて品のあるなまめかしさに、将臣は鼻の奥がツンときてしまうのを感じた。
 やばい。やばすぎる。このままではヘンタイまっしぐらだ。
 だが、他の女子には全く何も感じないので、望美限定のヘンタイなのかもしれなかった。
 今日の望美は本当に可愛いくて、ドキドキしてしまうぐらいにエロい。
 将臣はこのまま襲いかかってしまいそうになる。衝動を抑えるのに必死で、何も考えられないし、集中も出来なかった。
 本当に、望美はいつの間にか綺麗になってしまった。
 ここまで可愛いと、また不安になってしまう。
 他の男のものにすることなんて、勿論、許されない。
 望美を独り占めするのは、自分だけだ。
 ここまで考えたところで、将臣はハッと息を呑む。
 この感情の名前は、なんというものなのだろうか。
 今まで誰にも抱くことが出来なかった感情に、将臣は戸惑いを隠せなかった。
 ひょっとしてひょっとするかもしれない。
 こんなに誰かを愛しいと思ったことはないかもしれない。
 将臣は自分の本当の気持ちにようやく気付いて、愕然となってしまい、ゲームのコントローラーを投げ出してしまった。
「もうっ! 将臣くんっ! ホントなヤル気があるのっ!? 折角、将臣くんとゲームをしたくて遊びに来たのに」
 将臣のお姫様はすっかりご立腹で、可愛いらしく唇を尖らせている。
 まだ幼さが残る仕草も、大人の色を帯びてきた躰も、総てが愛しくてたまらない。
「ごめん。ゲームやろうぜ。折角、お前が持って来てくれたんだからな」
「うん、そうだよ。だけどこの回はありだからね! 私の勝ちだよ!」
「ああ。俺が悪ぃからな。ここからは気合いを入れるから覚悟しろよっ!」
「望むところだからねっ!」
 結局は、色気は一切なく、ふたりはゲームに興じた。

 ダイビング仲間とカフェでひとやすみしていると、望美とその友人たちが華やいだ雰囲気で店内に入ってきた。
 望美たちは将臣の存在に全く気が付かないようで、アイスフラペチーノを片手にお喋りに興じていた。
 将臣は聞き耳を立てて、望美の様子を伺う。
 高校生女子の話題の中心はと言えば、やはり恋愛だ。
 最も、望美は殆ど聞き役に徹しているようだった。
「…で、望美には好きなひとはいないの?」
 友人の何気ない一言に、将臣も、そして望美も同時に息を呑む。
「…あ、あのね…」
 望美は口ごもらせて、困っているようにもじもじとしている。
 将臣の心臓は悪いリズムを奏でている。明らかに望美は誰かを好きなのは確かだ。
 それを考えるだけで、将臣の背筋には冷たい嫌な汗が流れ落ちた。
「…あ、あのね、そ、その…好きなひとはいるんだけれど…」
 望美は大きく溜め息を吐くと、喉が渇いたのか一気にフラペチーノを吸い上げる。
「ち、近いひとだから…、なかなか言い出せなくて…」
 まさか、譲!?
 将臣はこっそりと話を聴いていることをすっかり忘れてしまい、思わず立ち上がってしまった。
「…あっ…! 望美、有川くんだよっ!」
 友人の一言でバレてしまった。
 気まずい雰囲気で、望美と視線が絡み合う。
 望美は恥ずかしそうに視線を逸らすものだから、将臣は無意識にその前に出た。
「ちょっと来いよ」
「え、あ、将臣くんっ!?」
 望美が戸惑うのも構わずに、将臣は手を引いてカフェを出る。
 望美が誰かに取られるなんて、そんなことは容認出来ない。
 将臣は、望美をカフェの裏手まで連れて行くと、向かい合った。
「なあ、好きなヤツって誰だよ」
「そ、そんなの、将臣くんには関係ないじゃない…」
 目を逸らそうとする望美の視線を追いかけていく。
 そんなに言いたくないのだろうか。それを思うと余計に腹が立ってしまう。
 ムカつく余りに、将臣は感情的になるのを感じた。
「関係なくはねぇだろう? 俺には関係あんだよっ! お前が他のヤツのもんになったら困るんだよっ!」
 将臣は感情に任せて言ってしまったところで、気付く。
 しまったと思っても後の祭りだ。
「…将臣くん…」
 名前を呼ばれて恐る恐る望美を見ると、ほのかに顔を赤らめて幸せそうな表情をしている。
「…私のことを好きってこと…?」
 何時も以上に可愛い顔をするものだから、将臣は余計に調子を崩す。
 もう誤魔化してもしょうがない。
 将臣は半分ヤケになりながら、男らしく宣言する。
「そうだよっ! お前のことが大好きだっ!」
 照れ隠しの余り大声で叫んだ瞬間、望美が抱き着いてきた。
「お、おいっ!?」
 望美はもう将臣を離さないとばかりにすがりつくと、その顔を見上げた。
「…私の好きなひとは将臣くんだよ。将臣くんのことが、私も大好きっ!」
 力強く言われて、将臣の顔に幸せ色が宿る。
 お互いに照れ臭そうに笑い合うと、ふたりは唇を近付けていく。
 誰に見られても構わない。これほど幸せなことはないと思いながら、ふたりはぎこちなくキスをする。
 夏の味がほんのりとする、ふたりらしいキスだった。





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