将臣くんは好きな女の子がいるんだろうか。 最近はそればかり考えては溜め息を吐いている。 将臣が最近眩しいぐらいに素敵になってしまい、望美は何度もくらくらしてしまう。 以前よりももっと好きになってしまい、甘い気持ちが盛り上がり過ぎて、時々おろおろとしてしまうこともあった。 特に将臣はかなりモテるせいか、望美は幼馴染みとしても気が気でない。 今日なんて、学年でも有名な美人が将臣にラブレターを渡していたものだから、望美のこころはじりじりとしていた。 いつものように長い距離を歩いて家まで帰る。 「将臣くん、ラブレター…その貰ったんだって?」 明るく言おうと思ったが、顔がつい引きつってしまった。 「ああ。なんか貰ったけれどな。まだ読んでねぇ」 将臣は今まで忘れていたとばかりに、明るくさらりと呟いた。 「返事とかはそのするの?」 「しなくっちゃならねぇだろう? 折角くれたんだからな」 将臣は面倒臭くさそうに言うと、ぶっきらぼうに制服のポケットに手を突っ込んだ。 「…返事をしてあげたらきっと喜ぶよ」 「だったら良いんだけれどな」 将臣はラブレターのことなんてどうでも良いことのように話している。 気になってしょうがない。 将臣が彼女にどのような返事をするのか、落ち着かない。 望美はドキドキしながら、将臣の様子を見ていた。 「将臣くん、そのさ、ラブレターって貰ったらどんな気持ちになるの?」 望美は曖昧に笑いながらも、将臣の表情を覗き込む。すると将臣はあからさまにムッとした表情になった。 「関係ないだろ。ラブレターなんかに浮かれてねぇで、とっとと帰るぞ!」 「うっ、うん」 いつもなら想像出来ないほどの将臣の機嫌の悪さに、望美は思わずおののいた。 それからはラブレターのことも、何も聞くことは出来なかった。 学校というのは不思議なところで、奇妙なものがブームになる。 今、望美たちの学年でブームになっているのはラブレターだった。 告白ラッシュになっているのは、きっと今年が高校受験で、一緒にこの難局を乗り切りたいと思っているからだろう。 望美も意外な人物からラブレターを幾つか貰ってしまった。将臣ほどの数ではない。 何だかひとの想いを文字に託されて渡されるというのは、複雑な気分になっていた。 ラブレターを貰うのは素直に嬉しい。だが、相手の事をあまりよく知らなかったり、思っていなかったりすると、ただの重い紙切れになった。 これに返事を書くのは、正直言って気が重い。 ラブレターは、好きなひとから貰うと嬉しいものになるが、余り想っていないひとから貰うと、本当に困るものだと思った。 それに。望美が一番大好きなひとはラブレターなんて面倒臭いものをくれるはずもないのだ。 いつものように帰宅部のふたりは歩いてくる。 「…将臣くんは、ラブレターを書く予定とかはないの?」 「んな面倒臭いもんを書いてどうすんだよ。とっとと言葉で話せば良いじゃねぇかよ」 将臣は苛々を募らせているかのような話し方をすると、押し黙ってしまった。 望美はそれ以上は言えなくなってしまい、気まずい雰囲気のなかで押し黙る。 将臣の様子を伺いながら、望美は嫌なドキドキに支配されていた。 他のことに気を取られていたからだろうか。車がギリギリのところを走っていることを、望美は気がつかなかった。 「おいっ!」 将臣は望美の腕を思い切り掴むと、そのまま道路の端にに躰を引っ込めてくれた。 将臣の指に力が食い込む。 痛い程の強さに、将臣が男であることに気付かされる。 もういつまでも男の子ではないのだ。将臣は確実に大人への階段を昇っていっているのだと、望美は感じた。 自分はいつまでも小さい頃と何も変わってはいないというのに、幼馴染みが変わって行くのが、何だか切なくて、そして寂しい。 「…大丈夫かよ?」 「…ご、ごめん」 流石に望美はうなだれる。将臣にキツく睨み付けられてしまい、こころが圧迫されてしまうぐらいに痛んだ。 「…ったく、無駄なことばっか考えてるからだぜ!? ラブレターみてぇなしょうもねぇことに踊らされて、ったくバカじゃねぇのか? んな大したことねぇ男に踊らされて、全く何が嬉しいんだよ。お前はアホか!」 将臣はいつも以上に口汚なく望美を罵る。 先ほどのことは望美だって自分が悪い事ぐらいはとてもよく分かっているつもりだ。だが、将臣もそこまで言うことはないと思う。 望美はプチンと何かがキレたようになり、将臣を睨み付けた。 「将臣くんだって女の子いっぱいいっぱいいっぱいラブレターを貰って、鼻の下をでろーんって伸ばしてたじゃんっ! 一緒じゃないさっ!」 「お前と一緒にするなバカっ!」 望美はわけの分からない痛みや怒りを感じながら、将臣に凶器のような視線を向ける。 「俺はお前みてぇに鼻の下なんて伸ばしてねぇ!」 「あ、そうか! 元から長いんだもんねっ!」 もう何が原因で怒っていたかなんて、忘れ果ててしまい、望美はひたすら怒る行為に終始していた。 車のクラクションが激しく往来に鳴り響く。エキサイトする余りに、また身体を車道側に乗り出していたらしい。 「あぶないっ!」 再び将臣に腕を持たれ、今度は抱き締められるように腕のなかに納められた。 「ったく…、お前は学習機能がゼロのヤツだな…」 「ごめん…」 今度ばかりは更にうなだれる。将臣の派手な溜め息にも、反抗することなんて出来ないでいる。 「気をつけろよ…。お前だけは怪我をしたら困るんだからな」 将臣の言葉に、望美は涙がポロポロと零す。それはまるで怒りを流しているようだった。 「お、おいっ!」 うろたえる将臣に、望美は洟を啜りながら見つめる。 「…ラブレターを最初に貰った将臣くんが悪いんだもん…」 「はあ!?」 「…だってそれで不安になってさ…、どうしようかと思っていたから…」 「お前な…」 将臣は訳が分からないとばかりに困った顔をすると、ふと照れたような色を浮かべた。 「どうしようもないだろ? まあ断るつもりだったけれどな」 「どうして?」 「今は面倒臭いってことにしといてくれ」 将臣は真っ直ぐと望美を見る。 「お前は? 返事はどうすんだよ」 将臣のまなざしがほんの少しだけ歪で怖い。 「…私も、面倒臭いってことにしておいて」 「お互いだな」 「うん」 ふたりは顔を見合わせると、申し合わせたように安心して笑う。 「まあ面倒臭いってことと、お前が車に轢かれないようにってことで」 将臣が望美の手を握ってくる。 手を繋いでいるだけなのに、いつも以上にドキドキしてしまう。 ふたりは顔を見合わせると、笑いあった。 まだまだ青いふたりの恋。 成長はまだこれから。 |