旅立ち…


「…将臣くん、やっぱり南の島へ行っちゃうんだ」
「ああ」
 もう二度と離さないと言ってくれたのに、将臣は、平家の者たちと、南の島に落ち延びる準備をしている。船に荷物を積み込む将臣の横で、望美は切ない気分で様子を見ていた。
 本当は、邪魔をしている言っても過言ではないが、そうせずにはいられない自分がいる。
「南の島は温かいだろうね。きっと、みんな闘いも忘れて、のんびりと過ごせるだろうし」
 望美は切ない気持ちを隠すように、笑って誤魔化し、早口でまくし立ててしまう。そうしなければ、別れに泣きそうになってしまうから。
 一番大好きなひと-----
 この命を賭けても、幸せになって欲しかったひと。
 だからこそ、将臣が幸せであればそれでいいと思っている。
 それなのにこんなに切ないのは何故だろうか。
 自分の我が儘でその幸せを壊したくないと思っているのに。
 一緒に生きたいだなんて、望まれないなら、言わない方が良い。
 望美はそんな想いを隠しながら、まるで金魚のふんみたいに、将臣の後ろばかりをついて行ってしまう。
 望美が思い悩んでいる間も、将臣はてきぱきと荷物を運んでいる。少しイライラしているように見えた。
 そんな表情ですらも、記憶に閉じこめていたい。
 もっと側にいたくてあまりに近づいてしまったものだから、荷物を持つ将臣にぶつかりそうになる。
「危ないぞ。望美」
「ごめん」
「昼飯にするか。お前の食うだろ」
「う、うん」
 将臣に連れられて木陰に腰を下ろすと、おにぎりを分けてくれた。
 それを受け取り、望美は将臣の様子を眺めながら、無言でおにぎりを食べる。
「…南の島でも、こうやっておにぎり食べたら美味しいだろうね」
「そうだろうな。のんびりこうやってな」
 将臣は眩しい陽の光に眼を細めながら、どこか幸せそうに空を眺めていた。きっと、この先に幸せが待っていることを感じているのだろう。
「メシ食ったら、お前の番だな」
「私の番?」
 望美は何を言われているのか、一瞬、判断が付かずにきょとんとして将臣を見た。
「バカ、お前の荷物に決まってるだろ?」
 将臣はたしなめるように言うと、望美を睨んでくる。その怖い眼差しですら、望美には素敵なものに映った。
 幸せが心に降り注いでくる。まるで南の島の太陽に照らされているみたいだ。
 笑いたいのに、何だか泣きたい。そんな不思議な気分になった。
「連れて行ってくれるの?」
 望美が恐る恐る訊くと、将臣は驚いたように眉を上げた。
「言ってなかったか?」
 将臣は望美の表情で、その事実を理解したようだ。望美がコクコクと頷くと、将臣は望美の頬を両手で包み込んだ。
「解れよ。何も言わなくても。もう俺がお前を離すはずめぇだろ?」
「…でも…。やっぱり不安だよ。ちゃんと言ってくれないと…っ!」
 望美が愚痴るように言ったところで、将臣に唇を塞がれる。これ以上言わせないとばかりに深くキスをされて、望美は息が出来なくなってしまう。
 唇を離された後、今度は抵抗しないように抱きしめられる。
 逞しくて、望美を護ってくれる将臣の腕。
 そんな強さを見せつけられれば、もう何も言えないではないか。
「ちゃんと言って欲しいよ。そうじゃないと、夢だと思ってしまうから」
 望美がストレートに自分の気持ちを伝えると、将臣は考え込むように眉を寄せる。
 次の瞬間、力強く抱きしめられてしまった。
「黙って俺のものになっとけ!」
 将臣のストレートで乱暴な言葉に、望美は幸せの笑みを浮かべて、抱きついた。
「はい----!」
 この返事がこれからの幸せな場所に導いてくれる。
 告白は幸せの始まり。
 望美は強くそれを感じずにはいられなかった。
 新しい、ふたりの旅立ちには相応しい、陽射しが降り注ぐ。
 もっともっと幸せを感じられるのは、もうすぐ。
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冬のペーパーの再録です。




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