もう誰も、自分たちの仲を引き離すものなんていない。 神様のイタズラも運命もなにもかも捩伏せて、今、こうして手をしっかりと繋いでいるのだから。 夜道を歩きながら、将臣と望美はお互いの温もりや存在をただ確かめあう。 「望美、クリスマスの話だけどな、あれ、みんなとパーティーじゃなくて、二人だけで過ごさねぇか?」 照れるようにしながらも、ストレートな将臣に、望美は頬を赤らめて一度だけ頷いた。 「嬉しいよ。将臣くんと初めて二人だけでクリスマスなんて」 素直に言うと、将臣は優しく笑ってくれる。その笑顔が、浮かぶ月よりも眩しい。 「クリスマスもだが、やりてぇこといっぱいあるから、心してかからねぇとな。お前と沖縄行く約束したし。お前と京都や潮岬もじっくり回ってみてぇし」 「うん! 楽しみ!」 あの時空で、ふたりで過ごしたケーキよりもとろけそうな時間。余り一緒にいられなくても、あの時間に話したことは、きっと忘れない。大切な宝石箱をひっくり返したような、キラキラした時間は、これからもふたりにとっては大切なものになっていくだろうから。 「いっぱいやりたいことやろうね! ずっとふたりで…」 「ああ。そうだな」 視線をからみ合わせ、お互いの想いを確かめていく。 これからはずっと離れないと決めたのだから。 「何だか不思議だね…。離れていてもずっと夢で繋がってたけど、こうして手を握れて、こうして将臣くんの温もりを感じているのが嬉しい」 「俺も」 将臣はピタリと歩くのを止めると、望美の腰を抱き寄せた。 「ま、将臣くん!?」 「向こうにいて、ずっとしたかったこと、してもいいか?」 「え…?」 将臣は豊かな身長を少し屈め、望美と視点を合わせてくる。その後に、ぽってりとした唇を親指で軽く擦ってきた。 鼓動がどうしようもないぐらいに早くなる。 潤んだ瞳を将臣に向けると、眼差しから微笑みが消えた。 「…もう俺達はただの幼なじみじゃない。お前は俺の女だから」 「将臣くんだって、私の男だよ」 「そうだ」 将臣の唇が近付いてくると、自然と瞼が下りて来た。 沖縄に修学旅行に行ったときに、早朝にホテルを抜け出して、ふたりして蒼い海を見ながら、唇を触れ合ったことを思い出していた。 あの頃は、他愛ないバードキスのようなものしか出来なかった。 それが今。 好きあった無邪気な甘いだけのキスから、お互いに離れないと誓った深く愛し合ったものだけが赦されるキスへと変わる。 将臣の唇が触れる。 このキスはただ唇を合わせるだけのものじゃない。 ふたりの想いを確かめるものだ。 将臣の舌が深いところに入り込んできて、望美を我が物だと宣言しているみたいた。 しっかりと抱き合ってこんなキスをするなんて、想像出来なかった。 想いを確かめるようなキスをした後、望美は酸欠の余りに将臣のがっちりとした胸に躰を預けた。 空気を分かち合った気分になる。 確かに将臣は17に戻った。 だがその雰囲気は、命を賭けて生きて来たせいか、頼りにたる男に変わっていた。 もう、男の子なんかじゃない。 抱きしめてくれる腕がそれを表していた。 「…クリスマス、出来たらオールで一緒にいてぇよな」 将臣の一言に、望美は驚いて顔を上げた。耳たぶまで赤くなってしまっている。 「あ…、私も…将臣くんにって思っているけれど…」 「サンキュ」 将臣の大きな手が、頭をぐりぐりと撫でてくれる。懐かしい感覚に、望美の心は癒されていった 「四年待ったのと同じなんだからな。だから覚悟しておけよ」 からかうように言われて、望美は猿のお尻よりも真っ赤になる。まるで、京都や奈良の古民家の軒下に吊された庚申人形のようだった。 「か、覚悟する」 躰を硬くしながらも、握りこぶしを作って気合いを入れる望美に、将臣は笑いながらしっかりと抱き寄せる。 「気持ち良くしてやるからな…?」 ニヤリと笑う将臣に、望美はその胸を叩く。 「もうっ! 何を言うのよ!」 「だってマジじゃねぇかよ」 「…それは…」 望美は口をもごもごとさせる。将臣は意味深げに笑うと、瞳の下にキスをしてきた。 こんなロマンティックなことなんて、するひとじゃなかったのにと、望美は嬉しい驚きを感じていた。 「17に戻っちまったから…、体力は有り余っちまってるから、覚悟しろよ? 龍神の神子殿?」 ウィンクしながら言うのも昔からの将臣なのに、どこか大人びた雰囲気を持っている。 将臣は肉体を通り過ぎた時間は元通りになったのに、精神的に通り過ぎた時間は元通りにはなっていない。 それをひしひしと感じた。 じっと真剣に見ていると、将臣がその視線の重さに気付いてくる。 「どうした?」 「…うん。こうして一緒にいられて、幸福だなあって思っただけだよ」 「そうだな…。もう何も心配しなくても、いいんだからな」 将臣の胸の鼓動と波の音、そして微かに聞こえる故郷の電車が通過する音がが重なり合い、不思議なハーモニィを作り出している。 望美はそれをぼんやりと数えた。 一体、ふたりは幾つの運命を乗り越えてきたのだろうか。 その最良なかたちとして、今、こうして元の世界にいる。 厳かな月の光に照らされ導かれて、これからもふたりは歩いていくことだろう。 手を取り合った先には、楽園のような幸福が待っているはずだから。 「このままじっとしていたいけれどな。お前の親父さんやお袋さんに悪いからな」 「うん…」 「これから一生の付き合いになるだろうしな」 将臣のストレートな言葉に、望美は頬を恋紅葉色に染め上げる。 ふたりはふたたび歩きだし、家路を急いだ。 勿論、しっかりと手を握りあって。 「これからやりたいことイッパイあるよな。沖縄に一緒に行くだろ? 潮岬でふたりで魚介を使ったバーベキューをするだろ? お前をいっぱい抱くだろ?」 「もぅっ!」 明らかに独占欲の高いことを言われると、自然と顔が綻んでしまった。だが、反論をしていないと、こちらの躰が持たないような気がする。 「まあ、とりあえずは譲が作った飯を食うか。久々だからな」 「もう! 結局はそれなんだからっ!」 望美が笑うように言えば、将臣も笑う。 そうだ。 こんな他愛ないことでも、ふたり一緒だというだけで、とても楽しい。 ふたりは久々に通る家路を、仲良くじゃれあいながら帰っていった。 夕食と入浴を済ませた後、望美は自分の部屋の向かい側にいる将臣に、久々の 挨拶がしたくて窓を開ける。 同じタイミングで向かいも窓が開く。 ふたりは顔を合わせると、くすりと笑いあう。 「どうしても言いたいことがあったんだよ」 「私も!」 ふたりは含み笑いを浮かべて、同じタイミングで口を開く。 「「おやすみ」」 次の瞬間、狭い家同士の距離を埋めるかのように、ふたりは躰を寄せ合い、キスをした。 |
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