*Game*


 今日こそリベンジ。
 元龍神の神子・春日望美には負け続けるなんてことは有り得ないのだから。
「将臣くんっ! ゲームしよっ!」
 望美は今日もとっておきの格闘ソフトを持って、幼馴染みがいる有川家を訪れる。
 その意気込みの強さは、競走馬よりも鼻息が荒いぐらいだ。
「…ったく、また来たのかよ…。懲りねぇヤツだよな」
 将臣は苦笑いが浮かべながら、困ったように望美を見つめた。
「だって連敗なんて、私には有り得ないもん! 将臣くんに勝つまでは、絶対にやり続けるんだからっ!」
 望美はフンと乙女とは思えないほどに鼻息を出すと、握り拳を振り上げる。
 最近、将臣がアルバイトでいない時以外は、こうして家に遊びに行っては、ゲームをしている。
 だが本当は、ゲームなんてただの言い訳に過ぎない。
 できる限り将臣のそばにいたい。それだけだ。
「しゃあねぇな。リビング行くぜ」
「うんっ♪」
「その前に、カップヌードル作らせろよ」
 作ると言っても、あくまでお湯を入れるだけだ。
 将臣がカップヌードルを作っている間、望美はいそいそとゲームの準備をした。
「望美、お前は食うか?」
「いらない。これ以上太りたくないっ! ウェスト27インチ死守!」
 望美はかたくなに拒み、持って来たミネラルウォーターとホシイモを準備する。
「んながむしゃらになんなよ。お前はもうちっと太ったほうが良いって」
 将臣はそんな気持ちは解らないとばかりに、呆れるように呟いた。
 甘やかしてくれる言葉に、気持ちがほわほわと心地よくなる。
「いいんだよー」
「んなにスタイルを気にしているんだったら、ゲームなんかちんたらするのを止めて、運動すりゃあ良いんだよ」
 将臣はカップヌードルを片手に、望美の横に腰掛けた。
「だったら私もスキンダイビングやろうかなあ。だったらお金がかかりそうにないし」
「日焼けを嫌がるお前には、無理かもな」
「そんなことないもんね」
 ふたりは幼馴染み特有のじゃれ合いをしながら、コントローラーを握りしめ、臨戦体勢を整えた。
「んなゲームばっかしてたら、勉強する時間なくなるだろ? 勉強しろよ。ただでさえ、来年は大学受験なんだからさ」
「そのお言葉、将臣くんにそっくりお見舞いしてあげるよっ!」
 将臣もまたギクリとした洒落にならない笑みを浮かべる。
 だがそつない将臣のことだ。スマートに大学入学を決めるだろう。
 将臣は要領が良くて、そのうえ頭の回転が早い。柄が悪いのに学年トップを続けてている。
 ガリ勉しなくてもいつもなのだ。
 正直、高校を選ぶ時、まさか公立の鎌倉高校を選ぶとは思わなかった。私立の有力高校に行くと思っていた。
 だが選んだのは公立の雄・鎌倉高校。同じ高校を選んでくれて、凄く嬉しかった。
 ずっと一緒だったから、大学まで同じが良い。
 しかしかなり勉強しなければ、将臣に追いつけない。
「将臣くんが勉強教えてくれたら良いんだよ」
「ったく、俺が教えるならスパルタだぜ」
 将臣は苦笑しながら、望美の髪をくしゃくしゅにしてきた。
「もうー、やめてよ〜」
 ふたりでふざけあいながら、早速、ゲームは最初のファイトに入る。
 将臣も望美も格闘技は大好きなので、ゲームといえどかなり気合いが入る。
 ふたりの間だけ湯気が出るほどに白熱し、お互いに興奮ぎみにゲームを楽しんだ。
 結局、またまたまたまたまたまた、何度『また』を付けて良いか解らないぐらいに、アッサリと望美が将臣に負けた。
「きぃーっ! 悔しいっ!」
 ハンカチの代わりに、望美はホシイモを噛みながら、じたばたと暴れて悔しがった。
「ムリムリ。俺様に勝つのは百万年早いんだよ」
 将臣は勝ち誇った笑いを高らかにあげながら、望美を見る。
 憎たらしい表情に、カップヌードルをひっくり返したい気分になった。
「もう一回やるっ!」
「ムリだって。何度やっても同じだろ?」
 将臣はカップヌードルを美味しそうに啜りながら、勝者のセリフを掃き捨てた。
「そんなことないもんっ!」
「ムリだろ。気合いいれてもダメなんじゃねぇか。…そうだな。何かが賭けられていねぇ限りは、お前にはムリなんじゃねぇ?」
 美味しそうにラーメンを啜る将臣がこにくたらしい。
 望美はもう一度鼻息を荒くすると、将臣を強く睨みつけた。
「解った! 賭けゲームやろうっ」
 望美が高らかに勢いよく宣言をした瞬間、将臣は冷たい炎を纏った瞳で、じっと見つめる。
 冷静と情熱の間に位置するまなざしに、望美は息が止まるほどにドキリとした。
 なんて胸が熱くなるような瞳をするのだろうか。
 全身に震えが走ってしょうがない。
 望美は深呼吸をしようとしたが上手く出来ず、思わず生唾を呑んだ。
 言葉を出そうにも唇が震えてしまい、どうしようもなかった。
 将臣に抱き締められたときの瞳に似ていて、望美は熱さの余りにくらくらした。
「…じゃあ…」
 望美は音を立てて喉を鳴らす。
「…じゃあ…、私が勝ったら…」
 キスして欲しい。
 抱き締めて欲しい。
 そんなことばかりが脳裏に浮かぶ。
 望美は必死になって欲望を追出そうとしたが、全くもって上手くいかなかった。
「何を賭けるんだよ? 負けるって解ってるから、思い付かないのかよ」
「そ、そんなことないもんっ!」
 将臣に小ばかにされたように言われて、望美は拗ねる余りに唇を尖らせる。
「だ、だったら…、将臣くんに稲妻ラリアートかけほうだい」
「却下! 俺が死ぬ、もっとマシなのを考えろよ」
 将臣はクールに呟くと、望美に答えを迫った。
「…そうだね、うーん、何が良いんだろ。あっ! 購買の焼きソバパンを一週間分!」
 望美は当たり障りなく自分らしいものを言う。
「ま、お前らしいわな」
「将臣くんは?」
「俺? 俺は…」
 じっと思い詰めたような瞳で見つめられて、望美は胸の奥が締め付けられるかのようにドキリとした。
「…そうだな…」
 将臣は考え込むような仕草をしながら、じっと望美を見つめる。
 顔を近付けられて、喉が焼け付くほどに緊張していた。
「…な、何!?」
「…お前…」
 将臣に低くて掠れたような声で囁かれて、望美は息を呑む。
 脈が激しくなっていく。
 全身が心臓になったかのように、呼吸も鼓動も速くなっていった。
 望美が硬直をして、変な笑みを浮かべていると、将臣は更にじっと見つめて来る。
 感情の行き場を失ったところで、将臣が含み笑いを浮かべた。
「…嘘っ!」
 からかうように笑われて、望美は拗ねる余りに唇を尖らせた。
「からかうなんてひどいっ!」
「ひどかねぇよ」
 将臣は笑いながら望美を再び見つめると、何時ものように屈託なく言った。
「俺は焼きソバパンふたつを一週間分な!」
「ズルイ!」
 望美が本気で殴るふりをすると、将臣は豪快に笑った。
 賭けるものが決まり、ふたりはゲームを始める。
 夢中になるあまりに、望美は周りが見えなくなっていた。
 熱くなり、ストレスが何処かにいってしまうぐらいに気分が良かった。
「やりっ!」
 結局、連打の技が一枚上手の将臣が勝利とあいなる。
「ダ、ダメ! 今のはリハーサル!」
「賭けにリハーサルなんかあるかよ。明日から焼きソバパンな! よろしく」
「ダメだって! まだ、終わってないも…あっ!?」
 立ち上がった将臣を追いかけようと、望美は立ち上がった。しかし、慌てていたせいで足を引っ掛けてしまい、そのまま前のめりになる。
「望美!?」
 将臣は直ぐに望美を腕で抱き留めたものの、勢い余ってそのまま倒れ込んだ。
「うわっ!」
 将臣は、望美を守るように倒れてくれ、下敷きになる格好になる。
「将臣くん、ご、ごめん」
 将臣に声を掛けて、望美はハッとする。将臣の瞳が欲望を滲ませ、こちらを捕らえていた。
「…ま、将臣くん…」
 頭を抱き抱えるように引き寄せられると、そのまま将臣の唇に、望美の唇が押しつけられる。
 アクシデントなのか、予め用意されたのか。
 解らないままで、望美はキスを受けた。
 唇が離れたあと、望美は泣きたくなる。
「マジで欲しいのはお前だ…」
「将臣くん…」
 将臣は望美を自分の胸に押しつけるように抱き締める。
 将臣の胸からは、激しい鼓動が聞こえた。
 不意に将臣は望美を組み敷くと、動けないように手首を掴む。
「…ま、将臣くん!?」
 望美はうろたえて、将臣に訴えるように見上げる。
「お前…無防備すぎなんだよ」
 将臣は苛立つように呟くと、望美に唇を重ねる。
 噛み付くような本格的なキスは、甘さとせつなさと痛みをくれる。
 野獣のように望美の唇を貪り、将臣は口腔内を凌辱する。
 背筋が震え、躰に力が入らなくなる。
 呼吸が限界になったところで、ようやく唇が離された。
 息を乱していると、将臣は望美を睨み付けるように見つめる。
 将臣は苦しげな顔をしたあと、望美を離して立ち上がる。
「…お前、隙ありすぎ。気をつけろよ」
 捨て台詞を聞きながら立ち去る将臣を、望美はぼんやりと見る。
 震える指先で唇に触れる。
 野獣のようなキス。
 完敗だ。
 将臣相手なら、望美はどんなゲームにも負けてしまうような気がした。





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