将臣が夜景の見えるレストランに連れて行ってくれると言ったので、望美は張り切ってコンサバティブなワンピースと、綺麗なハイヒールを組み合わせた。 大学生になってからヒールはよく履くようになったが、そんなに高いものを履いてはいなかった。 だが今日は気合いを入れて、9センチのハイヒールに挑戦をしてみた。 確かに脚はとても綺麗に見えるのが解る。 将臣と一緒に折角レストランに行くのだから、出来る限りのお洒落をしたかった。 望美は鎌倉駅まで向かう。 将臣が車で迎えにきてくれるのだ。 大学生になってから将臣は一人暮らしを始めた。 望美は未だ実家暮らしなので、少し距離は出来てしまったが、それでも二つ部屋が出来た気分で楽しんではいる。 駅のロータリーでカスターをふたつ持って待つ。 カスターは将臣が食べたいとメールを送ってきたのだ。 昔からデートの度にカスターをふたり並んで食べていた。 今もそれは変わらない。 望美が待っていると、程なく将臣の車がやってきた。 アルバイトに精を出して買ったものなのだ。 望美の前にぴたりと車を停めると、将臣は助手席のドアを開けてくれた。 「有り難う、将臣くん」 望美が車に乗り込んでシートベルトをすると、将臣は直ぐに車を出した。 「カスター買ってきたか?」 「もちろん」 望美がカスターを見せると、将臣は笑顔になった。 「懐かしいふるさとの味だよな」 「そうだね」 望美が早速封を開けて食べると、将臣はこちらを羨ましそうに見つめてくる。 「俺にも封を開けて食わしてくれねぇのかよ?」 「しょうがないなあ」 望美はくすくすと笑うと、カスターの封を開いて、そのまま将臣にかぶりつかせた。 「美味しい?」 「¥○☆…!」 何を言っているのかがサッパリ分からなかったが、美味しいと言っているようだった。 将臣はもぐもぐとカスターを食べながら、ハンドルを切る。 この姿を見たら誰もが驚いてしまうだろうと、望美は思わずにはいられなかった。 カスターを食べ終わり、のんびりとした横浜までのドライブを楽しむ。 「横浜に行ったら、横浜煉瓦を買って帰ろうかな。美味しいからね」 望美がご機嫌なリズムで言うと、将臣はフッと笑う。 「デートだってのに、お前は昔から食い気ばっかだよな」 「だって、美味しいものを食べると幸せな気分になれるんだよ」 「確かにな。だが、もう少しだけ色気の方に興味はねぇのかよ。折角のデートなのにな」 「…だけど、美味しいものを食べるのもデートの楽しみだよ。私はそう思うけれどね」 「そうだけどなあ。もっとロマンティックになれねぇか?お前は」 「…ロマンスの足りない将臣くんには言われたくはありませんよー」 ふたりでいつものように戯れあうような会話をしながらドライブを楽しむ。 こういうドライブが楽しくてしょうがなかった。 車が横浜の市街地に入ると、少しだけ緊張する。 将臣と一緒に本格的なレストランに入るのは、初めてだからだ。 夜景が見えるレストランに向かう。 レストランは高台にあり、横浜の夜景をうっとりと楽しむことが出来る場所があった。 将臣はレストラン近くの駐車場に車を停めて、そこからレストランまでをエスコートしてくれる。 今夜の将臣は、カジュアルではあるがスーツを着崩していた。 それでも充分に素敵だ。 「何だ、お前、今日はハイヒールを履いてきたのだよ」 「うん。折角、レストランデートだからね」 「そうか。まあ、こうして手を繋いでいたら躓いてしまうことはないか」 将臣に手を繋いで貰い、望美はお姫様になったような気分を堪能することが出来た。 「…何だかこうしていると嬉しいよ」 「今日はちゃんとロマンスのある男だろ?」 「ちゃんとロマンスがあるよっ」 望美がくすくすと笑いながら言うと、将臣もまた幸せそうに笑ってくれた。 レストランに入ると、そのロマンティックで可愛らしい雰囲気に、望美は嬉しくなった。 きょうはちゃんとお洒落をしてきて良かったと、思わずにはいられない。 「…嬉しいよ。凄く」 望美は泣きそうな気分になりながら、将臣を見上げる。 「馬鹿、んな顔するなって」 将臣は何処か照れくさそうに笑うと、望美の髪をクシャクシャにした。 海が見える席に案内をされて、そこにゆっくりと腰掛ける。 とっておきの場所に連れて来て貰い、本当に大切にされていることを感じていた。 運ばれてくる食事はどれも美味しくて、しかも盛付けも凝っていて美しい。 「本当に綺麗だよね。見ていてうっとりとしてしまう。なのに美味しくて嬉しいよ」 「色々仲間に訊いたんだよ。俺はこういう場所に疎いからな」 「いつもの定食屋も私は好きだよ。だけど時々こうやっておしゃれなところに行くのも良いものだなあって思うけれど」 「そうだな」 ふたりでロマンティックな港の夜景を見ながらこうしてゆっくりと食事をするのは、とても嬉しい。 スペシャルなプレゼントだ。 デザートまで食べ終わり、ゆったりとした幸せな気分を味わう。 レストランを出た後、ふたりは散歩をするように緩やかなリズムで歩いていた。 「…こうやって歩いているだけなのに、幸せだよ。こうして再びこっちで一緒にいられるチャンスを頂いたから、めいいっぱい幸せにならなければならないって思う」 「ああ。めいいっぱい幸せにならねぇとな」 駐車場まで歩いていると、ふいに脚がカクンとなり、膝が曲がる。 足に痛みが走って、望美は思わず顔をしかめた。 「大丈夫かよ?」 「なんか…、足首あたりに靴擦れを起こしたみたい…」 望美は情けない気分になりながら、将臣を見上げた。 「…痛いか…?」 「うん、ちょっとだけ…」 折角、背伸びをして履いたハイヒールなのに、こういう結果になってしまうなんて。切なくて痛くて笑えない。 望美がしょんぼりとしていると、将臣は呆れたように溜め息を吐いた。 「しょうがねぇな…」 将臣はそのまま望美を抱き上げる。 「ま、将臣くんっ…!?」 望美がいくらうろたえても、将臣は全く意に介さないようだ。 「駐車場まですぐだし」 「そんな脚で歩かれたら着くのが遅くなっちまう」 将臣はキッパリと言い切ると、軽々と望美を駐車場まで運んだ。 車に乗せられて、少しばかり切ない気分になる。 折角、頑張ってハイヒールを履いたというのに、このような結果になってしまのかというのが、望美には重くのしかかってきた。 将臣は、自宅へとハンドルを切る。 「うちに着いたら足の手当てをしてやるよ」 「うん。有り難う」 望美は何とか笑うと、足を軽く擦った。 将臣の家に着き、部屋に入ると、直ぐに手当ての準備をしてくれた。 「有り難う、将臣くん」 足を出すと、将臣は手早く手当てをしてくれた。 「…有り難う…」 「ハイヒールは少しずつ慣れていかなければならねぇからな。これから履く機会も増えるだろうかなら」 「そうだね。慣れるようにしていかなければならないからね」 「ああ」 「お前には白いハイヒールを履いて貰うためにもな」 「白いハイヒール…」 望美がきょとんとしていると、将臣が軽く頭を小突いてくる。 「ばか、白いドレスだろうが」 「…あ…」 将臣に言われて、望美は真っ赤になりながら見上げる。 これってプロポーズ? そんなことを訊く前に抱き上げられ、ベッドに連れて行かれてしまった。 |