沖縄での最後の夜を、みんなは思い思いに愉しんでいる。 カップルの子たちは、月光に照らされた海岸を歩き、日常から切り放されたロマンティックな雰囲気を堪能していた。 将臣はと言えば、女の子たちに、一緒に海岸に行きたいと、あんなにねだられていたというのに、誰ひとりとして受け入れることがない。 身に纏う雰囲気は、まるで冷たい孤独を引きずっているようだ。 遠くを見ているような孤独を見出だし、望美は胸が痛くなった。 じっと見つめていると、将臣が視線を絡み付かせてきた。 「望美」 「え、な、何?」 うろたえていると、将臣は手を取ってくる。 「ひとりか?」 「見れば解るじゃない。友達はみんな、カレシと夜の海を見に、海岸に行っちゃったよ」 「じゃあ、俺達も行くか」 将臣が長く伸びた前髪をかきあげながら、さりげなく提案してくれる。 仕草と声にドキリとした。 指は太いのに綺麗でなめめかしく、動きだけで望美の心を揺さぶり、声は完全に大人を纏っていた。 「海岸はカップルばっかりだよ。私たちは浮かないかな?」 「大丈夫だって。それにあいつらが知らねぇとっておきの場所に連れていってやるよ」 「うん! 行く!」 本当に何よりも嬉しくて、素直な笑みが、望美の顔に灯った。 将臣は温かでどこかやんちゃな笑みを浮かべると、望美の手をしっかりと引っ張り、歩き始める。 いつもクールだと思われている将臣の、こんな表情を識っているのは、恐らく自分しかいないと、望美は優越感に浸った。 強く、そして少し早く将臣は望美の手を引いて歩く。 もう少し早くて、強引でもいいよ。 ときめきながら心でそっと呟いてみた。 手を繋いだままホテルを出て、海岸まで歩いていく。掌に総ての感覚が集まっているかのように熱がうごめいて、望美はこの緊張を識られてしまうかと焦った。 「これだったらみんなと同じビーチに行くよ?」 「海はひとつだから道程は同じだろ」 「それはそうだけれどね」 速くなった将臣の足取りを追うように、望美は小走りをする。 すると将臣はほとんど明かり等ない小さな脇道に逸れて行った。 不思議と怖くなかった。 少し息が上がるぐらいねスピードで坂を上がる。 口を開ければ、こんぺいとうみたいに入ってくるのではないかと思うぐらいの数多の星が、夜空に張り付いていた。 「凄いね。手を伸ばしたら届いてしまうかもって思うぐらいに、星がいっぱいだね!」 「それを口に入れて食うんだろ?」 「食べないよ」 くすくす笑いながら、手を引っ張られて歩くのが今は嬉しい。 闇にも目が慣れて、将臣のボディラインのシルエットをちゃんと確認することが出来る。 シルエットだけでも男らしさが香る。 耳の後ろが熱くなるのを感じながら、望美はじっと将臣を見た。 「こっちだ」 少し段差があり、スカートの望美は上手く上がれない。お気に入りのピンクのスカートは、将臣を意識して買った。 「上がれねぇのか?」 「将臣くんみたいに脚が長くないし、スカートだもん」 困った子供のような声で言えば、将臣が苦笑したのが解った。 「しょうがねぇな…」 「しょうがねぇよ」 わざと口ぶりを真似ると、将臣が不意に望美を抱き上げ、上に引き上げてきた。 「あっ、ちょっと」 「お前を待ってたら、自由時間が終わっちまう」 将臣は憎まれ口を叩くが、それが照れ隠しであることぐらいは解っていた。 「まあ、もう着いたしな」 「え、ホント!?」 視線を上げれば、直ぐ向こうに海が広がり、数多の星の花束で彩られた望月が、最高の光を海に投げ掛けている。 波が月光で輝き、望美は魂を吸い取られとしまうかと思うぐらいに、魅入ってしまった。 「ホントに綺麗だね…」 「そうだな…」 「有り難う。すごい嬉しいよ」 望美は将臣を見る。 月光に縁取られた横顔は、ここにある絶景が霞んでしまうほどに、大胆不適な精悍さを持っている。 目が離せなくて、じっと見ていると、視線があった。 「…来年の夏休み…」 「うん」 「…来年の夏休みは…、ここにまた来ようぜ。ふたりきりで…」 ”ふたりきり” 言葉だけで、ときめかずにはいられない。 「うん…ふたりで来よう」 望美ははにかみながらも強く頷き、約束を心のなかで抱きしめる。ほんのりと温かな感情が競り上がってきた。 「約束な」 「約束だよ」 将臣は望美の頬にかかる髪をそっと払うと、両手で包み込んでくる。 「なんか、今日のお前はすげぇ綺麗だな」 照れながらも、隠さずにぶっきらぼうな賛辞をくれるのが嬉しい。望美は素直に感謝の眼差しを向ける。 「将臣くんだって、きらきらしてるよ。マンガの王子様みたい」 「そんな王子がいるかよ」 「いないね。イマドキ」 くすくす笑いながら、頬に食い込む将臣の指の力に気付いた。 胸が締め付けられる。少女マンガではないけれども、息が出来ないぐらいにキュンと音がなった。 時間が止まる。 一千分の一秒すらも感じられる程に。 「星化粧してるみてぇだ」 将臣は望美の顔を覗き込んできた。 「…他の野郎にやるのは勿体ねぇな…」 「だったら誰が貰えばいいの?」 「…俺…かもな?」 真夏のアイスクリームよりもとろとろにとろけさせてしまう、ミルクチョコレートよりも甘い言葉。酔っ払ってしまいそうな言葉に、望美は心を将臣に預ける。 そのまま腰を屈めると、将臣は顔を近づけて来た。 唇が重なる。 誓いのキスは、こんぺいとうの味がした。 修学旅行の約束を果たすために、ふたりは夏の沖縄に来ていた。 あの時と同じように、手を繋いでとっておきの場所に向かう。 もうキス以上のことをしてはいるが、それでもこの場所でのキスには意味がある。 あの時と同じように段差のある場所まで来ると、将臣は抱き上げてくれた。 「やっぱりここから見るのは最高だな」 蒼い闇に紛れながら、将臣は感慨深げに目を細める。 「そうだね」 昼間に比べると幾分か冷えたものの、湿気を孕んだ熱い風は、ふたりの肌に張り付くように吹いている。 望美は、空と海が一体になるような魅力的な光景を眺めながら、将臣が自分を見ているのに気付いた。 「バカ、俺が見たいのはお前。ここで見られるお前は、星化粧しているみてぇだろ?」 将臣は望美を抱き寄せると、顔を近づけてくる。 「好きだぜ」 何度聴いても飽きることがない告白とともに、将臣のキスが唇に下りてきた。 望美にとっては、将臣のキスは、最高のリップケア。 星化粧をし、唇を将臣色に染められた自分は、きっと誰よりも綺麗に違いない。 その証拠に、その夜、将臣は望美を徹底的に求めてきた。 幸せな星化粧。 今度は、子供と一緒に。 |
| コメント 修学旅行のお話です。。 |