幸せの寄り道


 産まれて来た世界に戻ってきて、あの時空での出来事は嘘のように思える。
 だけどそれは真実。
 この躰から、キズや時間は消せても、心を過ぎ去った時間は消えやしない。
 望美はそれを心に刻んで、きっと離さないと決める。
 何もなかったように時間は過ぎ去っていく。あの頃と同じ。
 ただ違っていることは…。

「望美、帰るぞ」
「うん!」
 将臣と一緒に帰宅をする機会が増え、いつも指を絡ませ恋人繋ぎをしていること。
 校門を出ると、ふたりで指を絡ませて仲良く下校する。そんなふたりを見る周囲は、おさまるべくしておさまっていると、納得しているものが少なくない。
 ふたりはほんの僅かな時間を愉しむように、七里が浜に下りて、騒ぎ合う。
 デート代わりの日常が、ふたりにとっては、ごく当たり前の日常になりつつある。
 殆どの日は、将臣がのアルバイトと勉強が忙しいので仕方がない。
「今日はバイトだっけ? 将臣くん」
「ああ。色々、金をためなくっちゃならねぇからな」
「沖縄に行くのと、後はひとりぐらしか…」
 望美はそれはお金がいるとばかりに、何度も頷いた。
 そんな望美を、将臣はじっと見ている。
「…ふたり暮らしをすんだよ」
「え? 譲くんと? だったらこの近くじゃないとダメだね…。高校通えなくなっちゃうもんね」
 望美は頷きながら、譲がいると家事は楽だと考える。将臣もテキパキやるタイプではあるが、譲ほどではないだろう。
「譲くんと一緒なら安心…」
「バカかお前」
 将臣は、望美の言葉を取るように、溜め息をつきながら、叱責する。何故怒られたかが解らなくて、望美は唇を尖らせた。
「バカって! バカ、バカ言うのがバカなのよっ!」
「ったく、お前は小学生以下だな…」
 将臣は益々呆れ返ると、がっくりと脱力する。
「え? じゃあ譲くんじゃなくて誰なのよ? 友達?」
「…友達と言えば友達なんだけれどな…」
 困ったように将臣は言う。その困ったぶりが、望美には気になってしまう。
「どうしたのよ?」
「友達で、時には妹みてぇで、時には俺のたったひとりの女で…。だけど俺を煽るように熱くさせるくせに、横にいると居心地が良い女…」
 将臣がとても愛おしげに言うものだから、望美はひどく不安になる。
 背筋に冷たいものすら流れ落ちてしまう。
 その恐ろしさに、望美は胸が張り裂けそうになった。
 泣きそうな顔を将臣に向けると、フッと穏やかに笑いかけてくる。その上、指で額を弾いて来た。
「痛いじゃないっ!」
「ったく…。バカ、お前のことに決まってんだろ?」
 将臣は、何を当たり前のことを言っているんだとばかりに、笑っている。
「…俺が一緒に暮らしたいのは、お前に決まっているだろうが。他にどんな女がいるってんだよ…」
「…だって、将臣くんは、モテモテだからさ…。最近、特にそうじゃない? だから、将臣くんが別に誰かさんがいるのかと思って…」
 望美は情けなくも、自分の恋の不安を、将臣にさらけ出す。
 本当に胸が痛くて、切なくなるぐらいに大好きなのだから。
「…お前以外にいねぇよ。頭に入れておけ。それに俺はお前を離せるような、中途半端な愛し方はしていねぇつもりだからな」」
 将臣は望美の髪をぐちゃぐちゃにすると、豪快に笑ってくる。
「もう、止めてよお…」
 望美が困ったように不平を漏らすと、将臣は益々笑って虐めてきた。
「俺の女はお前だけなんだよ。もう、お前以外の他の女なんかいるかよ?」
 真面目に聞くと、歯が浮くような台詞をさらりと言いながら、将臣は意味深い笑みを浮かべる。
「それにお前以上に、俺をあんなに追い詰めて、気持ち良くさせてくれる相手はいねぇからな」
 あからさまなセクシャルな発言に、望美は目許までまっかにして睨みつける。
「もう、スケベっ!」
「だから、俺と一緒に暮らしてくれ。いくら隣に住んでいても、お前がすごく傍にいねぇと嫌なんだよ。だから、同じ屋根の下で、同棲しちまおうぜ? 返事は?」
 軽く言っていたくせに、いざ決断を迫る眼差しは、真摯な光を宿している。
 そんな瞳で見られたら、否定出来ないではないか。
「今すぐ?」
 望美はわざと焦らすように言い、将臣を上目づかいで見つめる。
「今すぐだ」
 本当は答えなんて、コンピューター並のスピードで出ている。それをわざと焦らすように言った。
「…おい、俺をあんまり焦らしたりするなよ?」
 結ばれた手を、将臣は更に力を込めて握りしめてくる。
 望美はその強さに、いつも余裕を感じる将臣の可愛いらしさすら感じた。
「おい…っ!」
 珍しく焦る声を堪能してから、望美はにんまりと笑う。
「…いいよ! 一緒に暮らそう」
「マジかよ?」
「うん、大マジだよ」
 きらきらと輝くような笑みを浮かべると、将臣は本当に嬉しそうな表情を浮かべる。
「ったく、俺を焦らせるなよ…」
「焦った?」
「ちょっとな」
 将臣が素直に認めてくれたのが嬉しくて、望美はにんまりと笑う。
「同じ大学に行くか、近い大学にいったほうがいいね」
「そうだな。ふたりで住む口実が出来るからな」
 将臣は望美を抱き寄せると、小さな声で秘め事を言う。
「それに一緒に住んだら、ラブホとかの心配をしなくていいだろ?」
 途端に顔から火が出るぐらいに、望美は真っ赤になる。顔が熱くて、どうにかなってしまいそうだ。
「バ、バカっ!」
 お互いに恋心を認めあってから、すぐに躰で愛し合うようになった。それからというもの、愛し合うことに積極的な将臣は、自分の部屋や、アルバイト代に余裕がある時はラブホテルと、色々と世話をしてくれる。
「…将臣くんてばもう…」
 恥ずかしさの余りに、悪態しかつけない望美に、将臣は愉しんでいるかのように笑う。
「お前をいつも傍に置きたいんだから、しょうがねぇだろ?」
 将臣の羞恥すらない堂々とした言葉に、望美がわざと拗ねると、じゃれるように抱きしめてきた。
「好きだぜ…。だからお前を抱きたいって思うんだぜ。四六時中お前を抱いていたいって、いつも思ってる」
「将臣くん…。私だって、ずっとずっと将臣くんと一緒にいたいって、思っているよ…」
「望美…」
 将臣は望美の息が出来ないぐらいに強く、抱きしめてくる。
 それは極上の美酒にも似た深みがある。
「----同棲は、俺たちの第一歩だ。そのまま一緒になろうな。準備が整ったら、結婚するぞ」
 いきなりこんなタイミングでプロポーズされるとは思わなかった。それが将臣らしいと言えばらしいのだが。
 まだぴんと来ずに、望美は将臣を見上げる。
「返事は?」
「は、はいっ!」
 何かに導かれるように、望美は将臣に返事をする。
「約束だ」
「うん。約束」
 望美は将臣の手をぎゅっと握り締めると、約束の熱い想いを噛み締めていた。
 これからもずっと続く、ふたりだけの幸せな寄り道------
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十六夜ED後のふたりの日常です。





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