*Looking For Partime Job*


 アルバイトをするために、鎌倉近郊の募集記事が載っている無料ペーパーを、望美は必死になって見ていた。
「何を見ているんだよ?」
 いきなり将臣の声が聞こえたかと思うと、ペーパーを目の前で取り上げられてしまった。
「ま、将臣くんっ!?」
 幼馴染みカレシの登場に、望美は鼓動をドギマギしながら飛び上がる。
「ちょっと、女の子の部屋なんだから、ノックぐらいしてよっ!」
「ノックならしたさ。何度かな。だけど気付かなかったのはお前だぜ?」
 将臣は薄く笑いながら、望美の額を軽く弾く。
 確かにアルバイト求人のペーパーを必死になって読んでいたのはこちらの非なのだからしょうがない。
 望美は真っ赤になりながら、唇を尖らせて将臣を睨み付けた。
「…望美、お前、バイトするのか?」
「そうだよ。今年はもう受験生だし、夏休みにはお金がいるから、いまのうちにバイトして蓄えておこうと思って」
 将臣と約束した夏の沖縄旅行の資金と、バースデープレゼントだけは、どうしても自分の力でなんとかしたかった。
 今年の夏だなんて随分と先の話かもしれないが、きちんと備えられるのは、どう考えても今しかなかった。
 将臣はペーパーをさらりと読みながら、望美をちらりと見る。
「夏に何かあったっけ?」
 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべているところを見ると、確信犯に違いない。
「決まってるじゃない! 沖縄に一緒に行こうって約束したじゃないっ!」
 わざと声を荒げて拗ねるように言うと、将臣は楽しげに笑う。
「…ということは、お前は俺とのふたりきりの旅行に乗り気だってことだよな? 覚悟はついたのか?」
 甘く掠れた声でわざと囁いて来る将臣にむくれながら、望美は耳まで真っ赤にして睨み付ける。これが総てを肯定しているのは明らかだ。
「…で、どんなバイトをするんだ?」
「接客かなあ…。冬休みは郵便局で、年賀状の仕分けアルバイトを頑張ったから、目標までは後少しなんだよ。だから、そんなに無理をしなくて入れそうな、接客かなあって」
「例えば?」
「カフェとかかなあ…。ああいうところだと、制服可愛いし」
 何となくのイメージで望美は呟く。すると将臣は、眉を険しく寄せた。
「制服で決めるな。メイドタイプ、胸を強調するミニスカートタイプはご法度だからな」
 将臣はペーパーを見るなり、該当しそうなところを、赤ボールペンでバツを付け始めた。
「うどん屋だとか、スーパーのレジにしとけ」
 将臣はキッパリ言い切ったところで、ハッとしたように首を振る。
「嫌、ダメだ。うどん屋はダメだ。オヤジ臭くなる。後、コンビニもダメだからな」
 将臣は何かしら危ない想像を膨らましているとしか、望美には思えない。
 望美がするアルバイトなのに、将臣はぐるぐると色々考えているようだった。
「だったらどこでバイトをすれば良いのよ。選択の余地なんて、全くないじゃないっ!」
「そんな余地はなくて良いんだ」
 将臣は怒ったように望美を睨み付けると、自分が選んだスーパーのレジにまるをつけた。
「ここなら駅から近いし、高級スーパーだからな。変なやつはいねぇはずだ。お前はボンヤリとしているところがあるからな。スーパーのレジが良い」
 将臣は半ば強制するように言い、他の求人部分を切り取っていく。
「勝手に決めないでよっ! 私だってお洒落なカフェだとかで働いてみたいんだもん!」
 望美は反発すると、将臣は背筋が凍ってしまいそうな冷徹な怒りを含んだ視線を投げて来る。
 こうなるとお互いに引けない状況になる。
「ここは湘南! カフェなんかで働いてみろ。へんなサーファーにひっかかるのがオチだろ? メイドの格好だって、この胸を強調するスタイルにしたら、ヤローが好奇な目でお前の躰を見るんだぜ? いやらしい目でな。んなこと、お前に堪えられるはずがねぇだろ? それにへんなストーカーまがいのやつがついたらどうするんだよ! その点、スーパーのレジなら、品の良い鎌倉夫人相手だから、いらねぇ心配なんかする必要がなくなるだろ? お前もバイトに集中出来るってことだ」
 将臣が早口でまくし立てる持論を聞きながら、望美の顔は段々にやけて来た。
 ここまで将臣が言う理由なんてたったひとつだ。
 それに思い当たり、望美は益々表情をとろけさせた。
「それにここなら、俺のバイト先も近いから、夜は一緒に帰れて、お前も夜道は安心だろ?」
 将臣はふと、望美の甘いニヤニヤとした表情に気付いた。
「おい、聴いているのか?」
 険しくなった視線にも、望美は笑顔で頷いた。
「将臣くん」
 含み笑いを浮かべながら、望美は上目遣いで見上げる。
「な、なんだよ?」
 将臣の焦り具合に、望美はにんまりと笑いながら、頬をほんのりと染め上げる。
「…それって、将臣くんが少しでも、嫉妬して選んでくれているって思っても良い?」
 視線を上げると、将臣は益々目の縁を紅く染め上げた。
 図星だ。
 将臣のとろけてしまいそうな嫉妬が嬉しくて、望美は微笑む。
「解ったよ。だったらこのスーパーのレジ係に申込んでみるよ」
 望美がキラキラと輝くような素直な笑みを浮かべると、将臣は照れるように優しい笑みを浮かべて、大きな手のひらを頭の上にぱふりと乗せた。
「バイトをするのは良いがあんまり無理はするなよ。学校だとかに支障かたさねぇ程度にな。お前、俺と同じ大学にいくなら、尚更だからな」
「うん、分かっているよ。だから目標まで後少しだから、自分のペースで頑張るよ」
「そうだ」
 幼馴染みで恋人でどこか兄妹のようなふたりの不思議で温かな関係が、ほんわかと周りの空気をパステルカラーにしてくれる。
「将臣くんが真剣に考えてくれて、嬉しかったよ」
 将臣は照れたまま、望美の頬を撫でる。優しい感触にこころが弾んだ。
「バイト先までちゃんと迎えに行ってやるから」
「将臣くん、甘やかせすぎるよ」
「甘やかせて良いところと、悪いところはちゃんと見極めてるつもりなの」
「そうだね」
 将臣が額を軽く弾くと、望美はにんまりと笑った。





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