鎌倉に生まれた時空に帰ってきて先ずは何をしたいと言われたから、将臣とデートがしたいと、望美は強く主張した。 それも鎌倉をふたりで手を繋いで歩いてみたい。 今まではずっと“幼馴染み”だったから、手を繋いでデートをするなんてことは考えられなくて、せいぜい肩を 並べる程度のことだった。 だから手を繋いで、鎌倉にデートに来る恋人同士のように過ごしてみたいと思った。 「じゃあ鎌倉デートをするか」 将臣も我が儘を包み込むように微笑んで同意をしてくれたから、望美は嬉しくてしょうがなかった。 澄んだ空気が気持ち良い晴れた日に、ふたりは鎌倉駅周辺に“デート”をしに出掛けた。 いつもの見慣れた町で、なんてことなく過ごしている町なのに、まるで新しく過ごす町のように感じる。 今日はいつものように普段着ではなくて、きちんとお洒落をしているからだろうか。 思えば将臣と一緒に出掛けるときに、綺麗にお洒落をしたことなんて今までなかった。 だからなのだろうか。 朝、家の前で将臣と落合った後、ドキドキしながらその横を歩いた。 こんなに興奮ぎみに緊張するなんてことは、今までなかった。 いつもごく自然に将臣の隣にいたというのに、今日は意識し過ぎてしまう。 「何だよ、そんなロボットみてぇな歩き方をして」 将臣は苦笑いを浮かべながら、望美をおかしそうに見つめてきた。 「そ、そうかなあ…」 「マジで怪しいってお前の動き」 「そ、そうかなあ…」 「ったく…」 呆れ返るように溜め息を吐かれたかと思うと、突然、手を握り締められた。 「あっ…」 「デート、なんだろ?」 「う、うん…」 恋人同士のようにしっかりと指を絡めて手を繋いでくれる。 触れたところが心臓になってしまったかのように、そこだけに血液が集中していくような気がした。 極楽寺の駅までやってくるだけで、甘い緊張と意識をするが余りに汗をビッショリとかいてしまっていた。 「…手を繋ぐの」 「…嫌じゃないよ。ただ、緊張しちゃうんだ…。本当だよ…。だってこんなこと初めてだし…その…」 望美がしどろもどろに呟くと、将臣は柔らかく包み込むように笑ってくれる。 「そっか」 握り締める将臣の力が一気に強くなり、もう二度と離さないとばかりの安心感を与えてくれた。 ふたりで手を繋いだままで、窓際に立っている。ここではもう海は見えないが、何となく景色を意識して眺めてしまう。 「何だか新鮮だよね」 「そうだな」 将臣とふたりでただ並んでいるだけなのに、トクトクと心臓が煩いぐらいに鳴り響く。 いつもなら軽口だって叩くことが出来るというのに、今日はそれが出来なかった。 鎌倉駅に到着しても手を離すことはなく、ふたりでのんびりと若宮大路を歩いていく。 「帰りにカスターと鳩サブレーを買って帰ろうね」 「ベタにな」 「後、分厚いホットケーキを食べて、鶴岡八幡宮に行ってお参りして」 「キャロウェイのカレーは外せねぇからな」 「うん。解っているよー」 望美が将臣に微笑みかけると、優しい力で手を握り締めた。 鶴岡八幡宮でお参りをした後、舞殿で結婚式が執り行われていた。 望美はうっとりとその様子を見つめる。 「花嫁さん、綺麗だね」 「そうだな。お前は白無垢が良いのかよ」 「私はウェディングドレスが良いかなあ。憬れているんだよ。ブーケトスをするの」 「ふうん…」 将臣は余り興味なさげに呟くものだから、望美はほんの少しだけがっかりした。 だがそれが将臣らしいと言えば、将臣らしいのだが。 「行くか」 「うん、そうだね」 手を繋いだままで、鶴岡八幡宮をゆっくりと後にする。 いつもの神社。 だが、今日はいつもとは違う願いを祈った。 将臣と生涯離れることがないように。 将臣はどのような願いを祈ったのだろうか。きっと甘ったるい願いではなかったような気がする。 誰もが幸せになれるように、強く祈ったに違いない。 望美は将臣の横顔を眺めた。 以前と全く同じように見えるのに、以前に比べると精悍さが増したような気がする。 男らしくなったし、更に強くなった。 様々なことを背負い乗り越えてきた将臣が、今は一番愛しかった。 「何じっと見てるんだよ」 「何でもないよっ!」 望美が照れ隠しのように顔を背けると、将臣は甘く笑った。 「さてとキャロウェイで大盛りカレーを食いにいくか」 「ロマンス足りないなあ」 「俺にロマンスを求めるお前が間違っているの」 将臣は思い切り望美の手を引くと、贔屓にしているカレー屋へと向かった。 「久し振りだからなキャロウェイのカレー! 気合いをいれねぇとな。望美、お前もガッツリ大盛りカレーを食うよな」 「大盛りなんて食べられるわけないじゃないっ! 私は小盛りに致します」 望美はわざと頬を膨らませると、プイとそっぽを向いた。 キャロウェイに入るといつも通りで、記憶のなかと同じように故郷の雰囲気を出している。とても懐かしい風景で、温かさすら感じた。 「大盛りとライス小」 将臣はいつものように注文すると、手を離して椅子に腰を下ろした。 手を離されたのが妙に切なくて、望美は将臣をねだるように見つめてしまう。 「どうしたんだよ?」 「何でもないよ」 まさかずっと手を繋ぎたいなんてことを言えるはずなんてない。望美は将臣からわざと視線を逸らしたが、逃げるなんてことは出来なかった。 将臣は何もかもお見通しかのようにフッと笑うと、水を飲み干す。 余裕があるようでないような態度に、望美はドキドキしてしまった。 キャロウェイ名物の大盛りカレーが運ばれて来て、将臣は嬉しそうにそるを食する。 望美もまた、故郷の味をたっぷりと堪能した。 キャロウェイのカレーは胃にずっしりとした満足をくれるから、将臣は大好きなのだ。 将臣は以前と同じような勢いでカレーを食べ尽くしていった。 「美味いよなやっぱ故郷の味」 「そうだよね。何度もこうやってふたりでカレーを食べたのを思い出したよ」 「俺もな…」 切ないしんみりとした空気がふたりを包み込んだかと思うと、机の下で将臣が望美の存在を確認するかのように手を握り締めて来た。 望美もまた、将臣の存在をしっかりと確かめるためにその手を握る。伝わる温かさは何よりも温かかった。 「食った、食った!」 「ホントお腹いっぱいだよねー」 キャロウェイから出た後、ふたりはお腹いっぱいになって幸せな笑顔を浮かべた。 「次は、またぶらぶらするか」 「うん。将臣くんとぶらぶらしたいよ」 再び手を繋いで、ふたりは若宮大路を歩き出した。 ふとカトリックの古い教会の前で立ち止まると、その重厚な扉が開いていることに気付いた。 「なかに入ろうぜ」 「うん、入ろう」 ふたりはまるで秘密のいたずらでもするかのように微笑みあうと、そっと教会のなかへと入っていった。 将臣と手を繋いだままヴァージンロードを歩き、祭壇の前に出る。 まるで今から神様に永遠の愛を誓うようで、望美は息が出来なくなるほどの甘い緊張を感じた。 「お前、ウェディングドレスで誓いたいって言ったよな?」 「うん」 「だったら、予行演習をしようぜ」 予行演習。 その言葉を聞くだけで、望美の瞳から涙がこぼれ落ちて来た。 嬉しくて堪らないから、涙が出てしまう。 「お、おいっ! どうしたんだよっ!?」 「…嬉しいんだよ。凄く嬉しいんだ…」 涙を拭いながら望美が微笑むと、将臣は目を細めながらこちらを見つめる。 将臣の表情が急に精悍なものになる。 そのまま腰を屈めると、顔を近付けて来た。 望美が幸せな気分で目を閉じると、将臣の唇がゆっくりと触れて来た。 いつかウェディングドレスでね。 |