暦の上ではもうすぐクリスマスなのに奇妙な感覚だ。まだまだクリスマスは先のような気がするのに、後少しだなんて考えられない。 将臣とふたりだけで過ごしたいのに、上手く言い出せない。勝ち気な望美には珍しいことだ。 「将臣くんモテるからなあ…。こっちの世界でも、あっちの世界でも…。私なんか、溝を開けられた感じがするな…」 こちらにいる時から、兄のように頼りになった将臣だが、あの時空での成長を経て、益々逞しく、そしておとなびた。 あの頃と同じ姿をしているはずなのに、もう、かなり年上のように思える。 同じ世代の男の子には絶対に出せない雰囲気を出しているせいか、憧れている女の子は増殖中だ。 以前にも増して、望美のところには問い合わせが多くなってしまった。 内容はお馴染みの「有川くんと付き合っているのか」だ。 ちゃんと告白をされたわけでも、デートをしたわけでもない。 だから「幼なじみだよ」と、答えるしかなかった。その度に女の子たちはホッとして、将臣に告白をするが、いつも玉砕していた。 何時か玉砕しない女の子が現れるのだろうか。 そう考えるだけで、望美はひどく切なかった。 つい学校の屋上どひとりになっては、色々と考えてしまうのだ。 ここは想い出の場所だからだ。 「おい、どうしたんだよ? 寒いのに」 お馴染みの低い声が響き、望美が振り返ると、将臣が呆れ返るような顔をして立っていた。 「将臣くん」 「何してんだよ。風邪を引くだろ?」 マフラーをして、ちゃんとブラウスの下にフリースを着込んでいるのでそんなに寒くはない。むしろ将臣のほうが余程寒そうに見えた。 「将臣くんのほうが、余程寒そうだよ。私はいっぱい着込んでいるから大丈夫」 「着膨れかよ?」 楽しげに言いながら、将臣は望美の横に立った。 将臣が横にいるだけで、存在感を覚える。ほのかに香る将臣の香りが、望美の呼吸を速めた。 「何してたんだ?」 「頭冷やしてた」 「どうしてだ?」 「何となくね…」 望美はそれだけを言うと、澄んだ空を見つめる。 「将臣くんは何をしに来たの?」 「お前と同じで頭を冷やしに来たんだよ」 将臣はフェンスに体重をかける。あまりに意識しすぎて、呼吸も整えることも叶わない。 「しっかし、屋上は寒いな」 「将臣くんが薄着をしているからだよ」 望美は笑いながら将臣を見つめた。 同じ体形で、同じ制服を着ている姿は、どこか圧迫されているように見えた。 逞しく、素敵になってしまったように感じ、望美は一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。 「おい、お前だけがマフラーしてんのは狡いぜ。俺にも半分やらせろ」 将臣はまるでマジックをするかのように、望美の首からすんなりとマフラーを外してしまった。 それを自分と望美にくるりと巻いてしまう。 「あ…」 「これで温かいだろ?」 マフラーを通じて、将臣の温もりが感じられる。 将臣の匂い。 もう男の子ではなくて、男のひとだ。 近づいた温もりがそう言っている。 望美は意識をせずにはいられなくなり、喉がからからに渇くほどのドキドキを感じた。 「あ、温かいのは、私のほうじゃなくて、将臣くんじゃない」 声が上擦って安定しないのを感じながら、望美は拗ねるように言う。 「これだったら温かいか?」 将臣は望美の手をしっかりと握りしめ、直接の温もりをくれる。 しっかりと密着をしたふたりの温もりは、沸騰するぐらいに熱くなっていた。 「あったけーな。久しぶりにすげぇ暖かい」 「そうだね」 望美は頬まで温まるのを感じ、胸が痛くなるほどにドキドキする。 将臣は平気なのだろうか。 こんなにふたりして密着をしているというのに、平気なのだろうか。 肌が甘い緊張で僅かに震える。 「まだ寒いのかよ」 「ちょっとだけ…」 「だったらもう少し温めてやるよ」 将臣は自然に言うと、望美の細い躰を強く抱きしめてくる。 突然の甘いイタズラに、望美は声が出ない。しっかりと密着した躰はとても逞しく、心ごと包みこんでくれる。 走り出してしまいたいぐらいの甘い興奮と、眠ってしまいたいぐらいの安堵感が望美を包みこんだ。 こうして抱きしめられて、凄く幸福なのに泣けてくるのは何故だろう。悪態をつきたくなるのは何故だろうか。 「…狡いよ…」 望美は声を搾り出すかのように呟く。 「どうして?」 「…だって、将臣くんひとりで成長したみたいだもん。私を置いてひとりで大人になるなんて…狡いよ…」 望美は複雑な気持ちを言葉にすると、ギュッと将臣の腕を握り締めた。 「17のままだ…なんていうのは、お前には通じねぇもんな…。嫌か? 17の姿で、精神的にはおっさんの俺は」 将臣は困ったように目を優しく緩める。それが大人の余裕のように望美には思えた。 「嫌じゃないっ! 嫌じゃないよ…。だって…カッコ良すぎるから…、何だか置いてけぼりを喰らったような気がして嫌なのよ…」 望美は侘しく切ない気持ちを正直に言うと、俯く。こんなことをストレートに言える相手は、将臣しかいないのだから。 「ったく。おいてきぼりを喰っているのは俺のほうだぜ…。だからそんなことを言いたいのは俺のほうなんだからな」 将臣は望美を更に強く抱きしめてくる。 「愚痴愚痴言うやつは罰だ。お前、クリスマスは俺と二人だけで過ごすこと。それが罰だ」 思いがけない提案に、望美は思わず将臣を見上げた。 「ホントにいいの?」 「強制的に参加させる」 これはプレゼントではないだろうか。望美は将臣の腕を強く抱くと、小さく囁いた。 「有り難う…」 将臣は望美の手をぎゅっと握り締めた。 「こうしてると暖かいね」 「そうだな…」 肌と熱をしっかりと合わせると、幸福の温もりがほわへほわと自分を包んでくれていた。 「もう離れんなよ。どんな状況になっても、俺は離す気なんてねぇから」 「えっ!? このまま!?」 ずっと抱きしめられた状態を想像して望美は真っ赤になった。嬉しいやら、恥ずかしいやらが解らない。 「…俺、サンタクロースにお願いしていることがあるんだけれどな」 「何?」 将臣が勿体つけるような笑みを浮かべると、望美を見る。 「叶えてくれるか? 望美サンタクロース」 「何?」 勿体振って言われるものだから、望美は一瞬ドキドキする。 「お前が欲しいんだけれどな」 ストレートな将臣の言葉に、望美は潤んだ瞳を向ける。 「…好きだ…なんて、今更か?」 首筋に唇が当たるかどうかのすれすれの距離で、将臣は囁く。 「…私も好きだなんて言ったら、今更かな?」 望美は嬉しさで視界を曇らせながら、茶目っ気のたっぷりの笑顔を向ける。 「俺たちに、遅いとか、早いとかはないな」 ふっと眩しそうに笑う将臣に、望美は甘えるように総てを預ける。 「約束だ。クリスマス」 「うん。最高のクリスマスにしよう」 約束の言葉を噛みしめるように言うと、将臣の唇が重なる。 もう離れない。 離さないことを誓って。 恋は聖夜に永遠の力を得るのだから----- |