クリスマスの準備は大変だけれど、とても楽しい。 外のレストランで温かくて美味しい食事、ロマンティックなホテルでの一夜も良いけれど、やはり素敵なのは、ふたりで過ごす温かな夜が一番ロマンティック。 クリスマスを気合いを入れて過ごすのも良いが、大好きな将臣とのんびり過ごしたいと望美は思う。 色々とロマンティックなことをして欲しいと注文することはあるが、やっぱり大好きなひとと同じなら、それだけで幸せで楽しいものだ。 クリスマスプレゼントは何にしようか? 今年は出かけたりはしないから、少しだけ奮発しても良いのではないかと思った。 望美は横浜まで出かけて、ショッピングモールに顔を出した。 将臣はダイビングが趣味だから、ダイバーズウォッチが良いのではないかと、時計専門店やスポーツ専門店などを回ってみた。 「今年はバイトも頑張ったから、少しは奮発しようかなあ…。受験勉強に付き合ってくれたお礼もあるしね」 望美は今年のプレゼントはずっと使って貰えるものにしたくて、少し頑張ってみることにした。 「これ、素敵かもしれない…」 望美はじっとダイバーズウォッチを見つめ、手に取ってみた。 なかなか使い易い時計のように思う。 考えていた予算よりも少し出てしまったが、この際、それは良かった。 「…あ、あの! これをプレゼント包装にして下さい。お願いします」 望美はほんのりと頬を紅潮させながら、ダイバーズウォッチを差し出す。 将臣が喜んでくれるのなら、それだけで本当に嬉しかった。 将臣もまた、プレゼントを探しに横浜に来ていた。 余り顔を出すことのない女子向けのファッションビルに行くのは、かなり抵抗もあった。 だが望美の為だ。そんな恥ずかしさも消える。 将臣は、ジュエリーショップを中心に、ゆっくりと見て回る。 余り得意とは言えない分野だが、それでも望美の為ならば何とか出来るような気がした。 将臣は幾つかのジュエリーショップに足を運び、望美に似合うリングを見つけた。 今年は何処にも行かず、イベントもさしてしないから、いつもよりも気合いを入れてジュエリーを選ぶことが出来る。 予算もいつもよりかなり出しても大丈夫だ。 将臣は指環を選ぶと、深呼吸をして店員に声を掛けた。 「…あのすみません。これを下さい」 将臣は望美のリングのサイズを告げると、店員に綺麗にラッピングをして貰った。 将臣へのクリスマスプレゼントを無事にゲットして、望美はジンジャーブレッドマンクッキーを買う為に、スウィーツの美味しいカフェへと向かった。 ここで休憩をするのも楽しい。 望美は無事にジンジャーブレッドマンクッキーを買った後、温かいチョコレートを頼んで、ゆっくりと窓辺に腰を下ろした。 こうして街を見ているだけで、何だか楽しい気分になる。 望美がカフェで甘くて美味しいチョコレートをじっくりと味わっていると、「春日さん!」と声を掛けられた。 顔を上げると、クラスメイトの男の子がにこにこと笑っている。 その笑顔が好ましいと思いながら、望美も笑顔で応えた。 「ひとり?」 「そうだよ。クリスマスプレゼントを買いに来たんだ」 「そうなんだ。一緒しても良いかな?」 「どうぞ」 「有り難う」 望美は、ひとりも良いものだが、こうしてクラスメイトと過ごすのも楽しいと思いながら、色々と他愛のないことを話した。 将臣もクリスマスプレゼントを買い終えて、ほんの少しだけホッとしていた。 お土産に望美の大好きなジンジャーブレッドマンクッキーを買いに行こうと、カフェへと向かった。 ジンジャーブレッドマンクッキーを購入した後で、コーヒーでも飲もうとカフェに立ち寄ると、望美がクラスメイトの男と楽しそうに話しているのが見えた。 正直言って、腹が立つ。 しかも相手は、望美のことが好きなヤツなのだ。 望美はただのクラスメイトとして接しているだけなのだろうが、相手は恐らくは夢見心地だ。 許せないと思ってしまう自分に苦笑いをしながら、将臣はふたりに近付いていった。 「よう、望美」 「将臣くん!」 将臣が声を掛けるなり、望美の瞳は薔薇色に輝く。将臣以外は見てはいない。 望美の反応に将臣は満足をしながら、わざと熱く見つめた。 すると望美もはにかんだ笑みを浮かべて見つめてくれる。 将臣は望美は自分のものなのだということを、男に見せつけてやった。 ちらりと威嚇するようにクールなまなざしで見つめると、すっかり諦めてしまったのか、男は溜め息を吐いた。 将臣はとても満足な気分になり、思わずほくそ笑んだ。 「…春日さん、俺、行くよ」 「え? もう少し一緒にいれば良いのに。ねえ、将臣くん」 こころの中では“早く行け!”と思いながら、将臣は苦笑いを浮かべる。 その笑みの威嚇が充分に伝わったからか、男はただ黙っていた。 「やっぱり行かなきゃ。春日さん有り難う、また」 望美にだけは挨拶をし、将臣には威嚇するようなまなざしを向けて、クラスメイトは行ってしまった。 行け、行け。 将臣はムッとしながら、男を追い払えてホッとしていた。 全く望美は無自覚だ。だからこそ嫌なヤツに言い寄られたりするのだ。 将臣はそれが大いに気に入らなかった。 「将臣くんに逢えて嬉しいよ。ね、お茶したらふたりでこの辺りをぶらぶらしようよ」 「そうだな」 望美の無邪気な笑みを見ていると、和む。 「じゃあ甘ったるいチョコレートを飲んだら、行こうぜ」 「うん」 チョコレートを飲み終わった後、ふたりで手を繋いでカフェを出る。 これだけでも幸せな気分だ。 「クリスマスイルミネーションが綺麗だよね」 「そうだな」 クィーンズスクエアのクリスマスツリーやイルミネーションは見事で、望美はうっとりと見つめている。将臣にとっては、ツリーの前でデジタルカメラや携帯電話を構える人々は、ただの通行の邪魔に見えなかったが。 「…ホントに綺麗だ…」 将臣には、クリスマスツリーよりも、望美が美しく見えた。 「何だかこうやってクリスマスの準備をしていると一年なんてあっという間だなあって思うよ。何だか去年のことが遠い遠い昔のように思えてしまうよ」 「…そうだな…」 何回も人生を生きたと思うほどに、激動の時間だった。 将臣は遠い昔のように感じながらも、つい昨日のように思えてしまう。 ふたりでゆったりとクリスマスツリーを堪能して見た後、クィーンズスクエアやランドマークタワーをぶらぶらと歩く。 「何を買ったんだよ?」 「ヒミツ」 望美は早口で言うと、将臣を見つめる。 「将臣くんは?」 「ヒミツ」 望美の真似をするように早口で言えば、頬を思い切り膨らませて拗ねる。その顔は、小さな頃と全く変わっていなくて、将臣は思わず甘く微笑んだ。 「ケチなんだから」 望美が唇を尖らせるものだから、将臣は更に甘く笑ってしまう。 「当日までのお楽しみだ。そうだろう?」 「…もう…」 将臣に拗ねながらも、望美は頷く。その顔がやはり可愛くてしょうがなかった。 こんなにも可愛い望美を他の誰にも渡さないし、渡したくもない。 将臣は、望美の手を力強く握り締めた。 「こうして手をつないでずっと離れなくて済むのが、物凄く嬉しいよ。本当に」 「そうだな」 お互いに離れないでいることがどれほど大事なことか、奇跡のように幸せなことかを解っている。 だからこそ将臣は望美の手を力強く握り締めた。 「お互い最高のクリスマスにしような」 「うん」 ふたりでそっとこころを合わせれば、これほど幸せなことはないと思った。 |