何故かクリスマスよりもイヴに盛り上がるのかと、いつも思ってしまう。 クリスマス当日になると、テレビの世界では既にお正月の話題で持ち切りになり、誰もがクリスマスであることを忘れてしまう。 何だか勿体ないと思ってしまう。 こんなにもロマンティックなイベントは他にないのだから。 「ったく日本人ほど節操のない人種はいねぇよな。クリスマスのお祝いはするわ、神社にお参りは行くわで」 将臣は苦笑いを浮かべながら、望美を見つめる。 確かにそんなところはある。 「だけどさ、これが日本の良いところじゃないかなあ。節操ないかもしれないけれど、何だか楽しいじゃない? だってね、色々なことが経験出来るんだよ。これほど楽しいことはないって思うんだけれど」 「まあ、確かにな」 将臣は頷くと、空を見上げる。 「今年は俺たちもとうとうファミリークリスマスを卒業か…」 将臣は感慨深げに呟くと同時に、何処か寂しげな笑みを浮かべた。 「…そうだね…。今までずっとクリスマスイヴはうちと将臣くん家の合同クリスマスパーティだったもんね。だけど、昨日はファミリークリスマスパーティをしたから、卒業とは言わないのかもしれないけれどね」 「まあ、確かにな」 望美がにっこりと笑うと、将臣もまた頷いてくれた。 ふたりで江ノ電に乗り、鎌倉まで向かう。雪の下にあるカトリック教会に行くのだ。 クリスマスイヴにミサを受けたくて、望美が将臣に連れて行って貰うように頼んだのだ。 駅に降りると流石に冷え込んでいて、望美は鼻の頭を真っ赤にして息を弾ませた。 「流石にクリスマスイヴの夜は寒いね」 「そうだな」 将臣はそっと望美の手を握り締めてくれる。その力ある温かさが望美には嬉しかった。 「お前、寒いのを解っているはずなのに、どうして手袋もせずにそのまんまなんだよ」 将臣が苦笑いをすると、望美は頬をほんのりと赤らめながら、拗ねるようなまなざしで見上げた。 「…だって…、手袋をしていたら…、直接、将臣くんの温かさが伝わって来ないんだもの…。じかだったら伝わるでしょう…」 望美のはにかんだ言葉に、将臣はフッと微笑んだ。 「そうだな。確かにお前の言う通りだ。だったら片方の手は、俺が温めてやるよ。しょうがねぇから」 将臣が握り締めてくれている温もりをとても温かく感じながら、望美は頬を赤らめて嬉しい笑顔を浮かべた。 将臣もまた蕩けるような甘い笑みを浮かべてくれる。 それがまた望美のこころの奥までしっかりと温めてくれた。 将臣は、望美の手を握ったままコートのポケットに入れてくれる。 ほわほわとしていて本当に気持ちが良いぐらいに温かい。 「…温かいよ。有り難う。小さい頃もさ、私が手が冷たいって泣いたら、こうやって手を繋いで、ジャンパーのポケットに手を入れてくれたよね。あれ物凄く嬉しかったんだよ」 望美は懐かしく思いながら、温かな気持ちで呟いた。 「あれは俺も寒かったからな。お互い様だ。今も一緒」 将臣らしい照れ隠しに、望美はくすりと笑った。 「あ! 将臣くん、教会までカスターを食べて行かない? 私、奢るからさ」 「そうだな」 望美は将臣の手を引っ張ってカスターが売られている駅前の店へと向かった。 「将臣くん! クリスマス限定のカスターだって! これを食べながら行こうよ!」 「はい、はい」 望美は限定というのが嬉しくて、クリスマスカスターを購入する。買うだけでウキウキしてしまった。 「本当に甘くて美味しそう。早速食べちゃお」 将臣に手を繋がれて、もう一つはカスターを食べるために塞がっていて、とても嬉しくて楽しい。 「あ! ベリー系の味がする! クリスマスらしくて美味しい」 「俺はやっぱりシンプルなヤツのほうが良いけれどな」 ふたりで同じものを食べながら歩くなんて、なんて贅沢なことななだろうと、望美は思わずにはいられない。 これが平和で幸せな証なのだ。 それを誰よりもよく解っているつもりだ。 カスターを食べ終わる頃に、ふたりは教会に到着し、席に着く。 荘厳な雰囲気に気分が引き締まる。 これぞトラディショナルなクリスマスなのだろう。 賛美歌を歌い、神父からの有り難いクリスマスの話を聞いて、こころが豊かになる。 話を聞いている間も、ふたりは手を握り合って、お互いが一番近いところにいることを、確かめていた。 クリスマスイヴのミサが終わり、ふたりはゆったりと外に出る。 鎌倉の夜の空気は優しく澄んでいるような気がした。 「海でも行くか? クリスマス海」 「良いね。クリスマスの海って素敵だものね」 ふたりは風邪をひかないようにと、途中で温かな飲み物を購入して海へと向かう。 ふたりでクリスマスの海に訪れるなんて、とてもロマンティックだ。 砂浜までやってきて、ふたりはただ夜の海を見つめた。 とても落ち着く気分だ。 こんなにも贅沢なことはないのではないかと、望美は思う。 温かなドリンクを飲んで躰を温めていたが直ぐに冷えてしまった。 「温かい飲み物を飲んでも温かいのは一瞬だけだな」 将臣が苦笑いを浮かべて、からになった紙コップを眺めている。 「そうだね。躰は冷めてしまうかもしれないけれど、こころはとっても温かいよ」 望美が笑みを浮かべると、将臣も少し照れくさそうな笑みを浮かべて「そうか」と呟いた。 「だけどこうしたほうがもっと温かいだろう…?」 将臣はふわりと背後から望美の躰を包み込むように抱き締めてくれる。 「…温かい…」 「だろ? 俺は燃える男だからな」 「私限定の湯たんぽだよ」 望美がにんまりと笑いながら言うと、「そうかもしれないな」と将臣は笑った。 こうしてふたりでじっとして、夜の海を見るのはとてもロマンティックだ。 将臣が相手だからこそロマンティック。 不意に闇のなかに、白いものがふわふわと舞い上がる。 望美の頬の上で蕩けて、雪であることを知った。 「雪だね…」 「通りで寒いと思った」 「だけど何だか素敵だよね」 「そうだな」 将臣は空を見上げた後、ポケットに手を突っ込んでゴソゴソとする。 「何しているの?」 「何でもねぇよ。あ、お前の手がかなり冷えているだろうから、しっかりしっかり温めてやるよ」 「有り難う」 将臣は望美の手を取ると、擦って温めてくれる。それがまた嬉しい。 「有り難う、凄く手が温かくなっているよ」 「俺も暖まっている」 「良かった」 望美がにっこりと笑うと、不意に指先が冷たくなった。 「え…?」 左手薬指に冷たい感覚が走り抜けて、望美は思わず将臣を見上げた。 「将臣くん…?」 ひんやりとした感覚なのに、何故だか心地好くて、左手薬指を見ると、そこにはキラリと可愛い小さなダイヤモンドが着いた指環が填められていた。 「…将臣くん…」 望美が驚いてその顔を見上げると、フッと蕩けるような甘い笑みをくれる。 「メリークリスマス、望美。これからの感謝と、将来の予約を込めてな」 将臣は照れくさそうなそれでいて温かな声で呟く。 嬉し過ぎるプレゼントに、望美は涙が滲んできた。 「…有り難う…、将臣くん…」 「泣くなよ」 将臣は困ったように言うと、望美をしっかりとその胸で抱き締めてくれる。 温かで最高のクリスマスプレゼントを貰い、望美は泣くことしか出来ない。 「有り難う…。大切にするね」 「ああ」 クリスマスイヴ。 そこには甘くて幸せな魔法が潜んでいる。 |