Christmas Time


 恋する女の子にはクリスマスは一大イベント。
 ピンクのスピードに乗ってふわふわふわふわ。
 大好きなひとと一緒に過ごしたい奇跡の日。

 冬休みに入ったというものの、何故だか早起きをしてしまう。
 それはきっと今日が神様に祝福をされた特別な日だから。
 朝からふわふわそわそわ。
 落ち着かない。
 クリスマスイヴにはデートの約束はないけれど、一緒に過ごす暗黙の了解を取ったひとならいる。
 デートじゃないけれど、こころは弾んで楽しくてしょうがない。
 何となく、ペールピンクのカシミアのセーターと、白いスカートを合わせて。
 いつもよりも女の子の気分になりながら、ニコニコと笑って待っていた。
「望美! 将臣くんが見えたわよっ!」
「はあい!」
 何時だとか、どこに行くとか…。
 そんな約束をした訳ではないけれども、うきうきとする楽しくてきらきらした気持ちはたっぷり。
 どのようなクリスマスイヴになるのかを想像しながら、望美は玄関先に出た。
 玄関で待っていた将臣は、黒いレザーのライダースジャケットを着て、いつものようにヴィンテージもののジーンズを穿きこなしている。
「出て来いよ、外に。とっておきのものを見せてやるよ」
「うん! ブーツ履くからちょっと待ってね」
 望美は急いでブーツを履いて、まるで子犬のように将臣を見上げた。
「お待たせっ!」
「ああ。行こうぜ」
 ごく自然に手を繋いで家の外に出る。
 こうしていつも手を繋ぐようになってから、もう一年が経とうとしていた。
 有川家の前に来ると、望美は感嘆の声を上げる。
「バイク!」
 大型の黒と赤のボディラインのバイクは、とてもシャープで、クールなほどに格好良い。
「買ったんだ! とうとう!」
「最初にお前を乗せたいって思ったからな。特等席だぜ」
「うん!」
 将臣はタンデムシートを叩くと、ここに乗れと指示をする。
「自転車の王子様が、バイクの王子様になったのかー」
「メット被ってさっさと乗れ」
「うん!」
 望美の頭の大きさを意識してくれたのか、ヘルメットはちょうど良い大きさだった。
 望美はそれを頭に被ると、もたもたと顎紐を留める。
「ったく、しょうがねぇな」
「しょうがないよ」
 望美がくすくすと笑いながら言うと、将臣が顎先に指を当てて来た。
 なまめかしい指に、望美はドキリとする。
 頬を赤らめると、将臣はからかうような瞳で望美を見つめて来た。
「…キスされると思ったか?」
「もうっ! 知らないっ」
 キスをされる時と同じぐらいにドキリとしてしまったのは確か。
 将臣はスッと目を細めると、器用にヘルメットのベルトを留めてくれた。
 留めて貰っている間、喉がからからになるぐらいに緊張してしまう。
 息が出来ないほどのときめきに、望美は倒れてしまいそうになった。
「ほら完了。とっとと後ろに乗れよ」
「有り難う」
 望美がタンデムシートに乗り易いように、将臣は車体を軽く斜めに倒してくれた。
 望美が何とかシートに跨がった後、将臣は手早くバイクに跨がる。
「しっかり掴まっていろよ」
「う、うん」
 将臣の広い背中に総てを預けるように、望美がギュッと抱き付くと、前に回った手を軽く握り締められた。
 甘くて親密な行為に、望美はうっとりせずにはいられなくなる。
「将臣くん…」
「最高のクリスマスイヴにしてやるよ」
「有り難う…」
 望美が将臣の背中に顔を埋めると、それが合図かのように、将臣は思い切りバイクのエンジンをかけた。
 音に気付いたのか謙が忌々しいものを見る目付きで、ふたりを見た。
「先輩を怪我させたら承知しないから」
「了解。んなへまはしねぇよ」
 将臣はクールに呟くと、思い切りエンジンをふかせて出発した。
 ゆっくりと家の前を出発し、切り通しを下りて行く。
「どこ行くの?」
「やっぱり鎌倉江ノ島ドライブだろ?」
「そうだね!」
「寒くなったら言え」
 寒くなんてなるはずもない。将臣の広くて温かな背中にずっとくっついているのだから。
 切り通しから国道に出て、海沿いをバイクは走る。
 江ノ電からのんびりと見る景色とはまた違った、新鮮な色彩を感じる。
 望美は将臣の背中に甘えるように頬をあてがいながら、うっとりと景色を楽しんだ。
「バイクから見る景色も素敵だね!」
「気に入ったか?」
「バッチリだよ! 最高のクリスマスプレゼントだよー」
 望美は大きな声で叫ぶと、最高にご機嫌な気分きなった。
「クリスマスプレゼントはこんなしけたもんじゃねぇからな。期待していろよ」
「うんっ!」
 望美は期待を示すように、将臣の背中を力強く抱き締めた。

 バイクは江ノ島まで一直線に走り、一番近い駐車場に停まった。
「やっぱり絶景だよね!」
「そうだな」
 将臣は自分が先にバイクを下りて、望美が降りるのを手伝ってくれる。
「展望台がクリスマス装飾しているらしいから、見に行こうぜ」
「エスカーなしだよね」
「もちろん」
 将臣がキッパリ言い切ったので、望美は思わず溜め息を吐く。
「エスカーに乗らねぇほうがダイエットになるぜ」
「わ、解ってるよ」
 ふたりで手を繋いで、ゆっくりと江島神社まで歩いて行く。弁天橋から海を眺めれば、麗しい富士山を拝むことが出来た。
「綺麗だね。おやすみだから空気も澄んでいるし、絶景だよっ!」
「江ノ島に来て良かったか?」
「もちろんだよ。江ノ島が大好きなんだもん」
「そう言うと思ったぜ」
 将臣は温かな笑みを浮かべると、望美の手をしっかりと引っ張っていく。
ふたりで参道を歩き、ゆっくりゆっくり登っていく。
「江ノ島の猫は可愛いよね、いつ逢っても!」
「お前は犬とか猫とか好きだからな」
 望美は屈むと、猫の喉を撫でてやる。ゴロゴロと喉を鳴らすのが、実に可愛いかった。
 エスカーを使わずに、展望台まで目指す。こうしてふたりで手を繋いでいるのも楽しいと、望美は思わずにはいられなかった。
 サムウェルコッキング苑に入場すると、クリスマスの装飾がされていてとても素敵な雰囲気になっていた。
「凄いよっ! クリスマスにここに来るのは初めてだけれど、凄くロマンティックだねっ!」
 望美は将臣にしっかりと密着をしながら、甘い笑みを向ける。
「そうだな。マジで綺麗だな」
 将臣は不意に望美を見つめる。ロマンティックな影が瞳に宿り、息苦しくなるほどに、ときめいた。
 体のよい宿り木の下に、将臣が導く。
 将臣の瞳が望美をからかうように光る。それがとても魅力的で、望美は思わず息を呑んだ。
 将臣は目を閉じながら、ゆっくりと顔を近付けて来る。
 クリスマスに彩られた、まるで外国にいるような庭園でキスをするなんて、夢でも見ているかのようだ。
 望美がうっとりと瞳を閉じると、将臣の唇がしっとりと重なった。
 爽やかなクリスマスの空気と似合うのか似合わないのか解らない、濃厚なストロベリーパイのようなキス。
 しっとりと望美の唇を包み込んだ後、舌で容赦なく愛撫をしてくる。
 腰がじんと痺れてしまうようなキスに、このまま気を失ってしまいそうになった。
 唇を離された後、望美はふらふらにまで力を抜かれた躰を、将臣に支えられるように抱き締められた。
「…この木の下でキスをしたふたりは、永遠に幸せになれるんだと」
 将臣は望美の瞳を覗きながら呟くと、その瞼にキスをした。
「…幸せにしてね」
「ああ、約束する」
 将臣は眩しそうに笑うと、望美の唇に触れるようなキスをしてきた。
「メリークリスマス、望美」
 腕のなかで望美を抱いたままで、将臣は小さな箱を目の前で差し出す。
「プレゼント!?」
「それ以外に何があるっていうんだよ」
 将臣が照れたように言うのを可愛いと思いながら、望美はプレゼントを受け取る。
「凄く嬉しいよ。あけて良い?」
「ああ」
 将臣の許可を得て、望美はがさがさとパッケージを開けた。
「うわあ!」
 ほわほわとした嬉しさの余りに、望美は感嘆の声を上げた。
「可愛い! ムーンストーンのペンダント!」
 望美が日の光に翳して見つめると、きらきらとしたきらめきに笑みを零す。
「付けてやるよ」
「うん、有り難う」
 首筋にかかる神をかきあげた。
 将臣はペンダントをそこに器用にかけると、首筋に思い切り唇を押しつけて来た。
「…ま、将臣…くん…っ!」
 将臣のくちづけは、背中がぞくぞくするほどに感じていた。
「クリスマスの印をつけてやったぜ」
「これもプレゼント?」
 望美が瞳の周りをほんのり紅くして呟くと、将臣は余裕のある男の笑みを浮かべる。
「ああ、もちろん」
 その自身のある声に、望美は将臣の肩に顔を隠した。
 素敵な栗須益男売れ前途を有り難うと、こころのなかに呟きながら。




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