生まれたての清らかな年を、大好きな男性と迎えられるなんて、こんなにも素敵なことは他にない。 ロマンティックで甘い幸せに浸りながら、真新しい年を一緒に過ごせるなんて、なんて素敵なのだろう。 今年一年の“どうぞよろしく”を沢山込めて、素敵なスタートをきる。 今までは振り袖を着て将臣と初詣に行ったことがなかったから、今年はきちんとしたい。 朝から振り袖を着つけたり、髪をゆったりと大忙しだ。 だが、不快じゃない。 大好きなひとに綺麗なところを見せたくて、望美は奮闘した。 「望美、お化粧しましょうか? 折角、振り袖を着たんだから、きちんとお化粧をしないと勿体ないものね」 母親は笑顔で言ったが、何処か寂しそうなまなざしになる。 「有り難うお母さん」 「将臣くんにとっておきのところを見せなければならないものね」 母親にからかうように言われて、望美は耳まで真っ赤にさせる。 「さてと、座って頂戴。将臣くんが驚くほどに良い女に仕上げてあげるわよ」 「有り難う、お母さん」 母親は丁寧にかつ手早く望美にメイクをしてくれた。お洒落をした姿を見て、将臣は喜んでくれるだろうか。 それだけが不安だ。 「はい、出来上がりです。綺麗になったわよ。流石はお母さんの娘ね」 母親が笑顔で自慢げに言うものだから、望美は余計に恥ずかしくなってしまった。 将臣が気に入ってくれたら、これほど嬉しいことはない。 将臣はどのような反応をするだろうか。想像するだけで、くすぐったい。 玄関先のチャイムが鳴り、望美は慌てて向かう。 将臣が待ってくれている。 それだけで嬉しい。 望美が玄関ドアを開けると、将臣が息を呑むのが解った。 ほんのりと目の下を赤らめている。 それがとても魅力的だ。 「望美」 将臣は褒めもしなかったが、ただ望美に真直ぐ手を差し出してくれる。 それが将臣の最上級のエスコートなのだ。 解っているからこそ、さり気なさが嬉しかった。 望美は笑顔で頷くと、その手をしっかりと取る。 握り締めてくれた力に男らしい想いが込められていて、嬉しかった。 「お母さんいってきます」 「はい。いってらっしゃい」 邪魔をするのは野暮なことだと思ったのだろう。香穂子の母親は顔を出しては来なかった。 家を出て、ふたりでゆったりと歩いていく。 「将臣くん、何か言うことない?私、精一杯頑張ったんだよ」 望美はわざと言うと、将臣をイタズラっぽいまなざしで見つめた。 「まあまあじゃねぇの? 馬子にも…」 「“馬子にも衣装”なんて言ったら、失礼だからね」 将臣の先回りをするように言うと、望美はニコリと笑った。 「…まあまあだ…」 将臣は結局、言う言葉を無くしてしまい、誤魔化すように言っただけだった。 江ノ電に乗り込んで、鎌倉へと向かう。鶴岡八幡宮にお参りをするのだ。 鎌倉駅は相変わらず凄いひとで、将臣としっかりと手を繋いでいないとはぐれてしまいそうになる。 「望美、手を離すなよ?」 「離すわけないよ。もう二度と…」 望美は、将臣にしか解らない深い意味を込めて、力強く呟く。 将臣もまた「そうだな…。俺からも絶対に離さない」と力強く呟いた。 もう二度と手を離さない。 あんなにも切なくて苦しい想いを、もう経験したくはないから。 あの時手を離してしまったことで、ふたりの運命は大きく変わってしまったのだから。 「…ずっと離さないからね」 望美は甘い笑みを浮かべながら呟き、将臣を見上げる。 「俺も離さないに決まっているだろ? 覚悟しろ」 甘くてしょうがない幸せな言葉。 照れくさいのか、将臣はさらりと呟いた。 しっかりと手を繋いで離さない。 神様に嫉妬はされないと確信して、ふたりは参道を歩いていった。 今日の望美は本当に美しくて、見つめているだけでかなりドキドキしてしまう。 将臣は、望美の美しさに完全にはこころを奪われつつ、幸せな気分になっていた。 何度見ても飽きないぐらいに綺麗だ。 ここまで綺麗な女は今まで見たことがないと将臣は思っていた。 こんなにも綺麗な望美を、他の誰にも晒したくはない。 自分だけの望美にしたいと強く思った。 実際に、望美は既に将臣だけのものだが、それでももっともっと独占したいと思わずにはいられなかった。 「寒くねぇか?」 「大丈夫だよ。着物ってね、意外に温かいものなんだよ。これは本当なんだ。それに将臣くんにしっかりと手を握って貰っているから温かいよ」 望美がはにかみながら何処か嬉しそうに呟いてくれるのが、将臣にとっては何よりも嬉しいことだ。 こんなにも幸せな気分になるなんて思ってもみないことだった。 ふたりは参道を抜けて、鶴岡八幡宮の本殿へと入る。 ここでしっかりとお参りをした。 将臣にとって願い事はただひとつ。 ただ望美のそばにいられたら、それだけで幸せ。 本当にそれだけなのだ。 将臣はただそれだけを強く祈った。 望美は将臣と共にしっかりと祈る。 望美の望みはただひとつ。 これからもずっと愛する将臣と一緒にいたい。 本当にただそれだけなのだ。 それだけがただひとつの願いなのだ。 将臣と一緒にいられるだけで、望美は幸せだった。 それ以外に幸せなことなんてあるはずがない。 望美はしっかりと祈って、将臣を見上げた。 「願い事はもう良いか?」 「うん大丈夫だよ。将臣くんは?」 「俺も充分だ」 「そっか。じゃあ行こう」 ふたりは再び参道をぶらぶらと歩いて戻る。 途中で屋台を覗くのも楽しくて、温かな甘酒を呑みながら歩く。 勿論、家族のお土産の為に鳩サブレーを買うことも忘れてはいなかった。 「缶で買うのかよ? いつでも買いに来れるだろう?」 「うん。だけど折角のお正月だからね。たっぷりと買って、みんなに分けようと思って。将臣くんとこうやって幸せなお参りができたから、幸せのお裾分けなんだ」 望美が幸せそうに笑うと、将臣はフッと甘く微笑んでくれる。 それがとっても嬉しかった。 「少し散歩しながら帰らねぇか? お前の振り袖姿をもうすこしだけ堪能したいからな」 将臣の言葉が嬉しくて、望美は俯きながら微笑んだ。 ふたりは甘味処に入り、善哉を食べて温まる。 幸せなほわほわとした気分に、望美は益々笑顔になった。 これからもずっとずっとこうしてふたりで過ごせたら良いのにと思う。 きっとそう出来ると確信している。 江ノ電に乗るのが勿体ないような気がしてふたりだけで手を繋いでゆっくりと歩いて行く。 「今日は最高のお正月になったよ」 「そうだな」 将臣はふと、人通りがまばらな路地に望美を誘うと、不意に頬を包み込んで来た。 「すげぇ冷てぇな」 「歩き回ったからね」 「…温めてやらねぇとな…」 「うん。温めてよ」 望美の言葉に、将臣はフッと笑うと、そのまま唇を重ねてきた。 しっとりと唇を重ねられて、ロマンティックな甘さを感じた。 唇からお互いの温もりを交換し合う。 とても幸せだ。 唇をゆっくりと離すと、将臣は先ほどの善哉よりも甘い微笑みを望美にくれる。 「今日は綺麗だな…」 今日は…の部分は機嫌が良いから聞こえないふりをして、望美はにんまりと微笑んだ。 「…あけましておめでとう」 「おめでとう」 呪文のように呟いて、正月の幸せを満喫していた。 |