女の子にとってイルミネーションは、心と想い出を彩る宝石のようなもの。 ロマンティックで甘いキラキラしたコンペイトウのようなもの。 だからこそ、大好きなひとと見たいもの。 大好きなひとと見るイルミネーションは最高にロマンティックだから。 「ねぇ! 将臣くんっ、一緒にイルミネーションの点灯式を見に行こうよ!」 望美は、ゴロゴロしながらダイビング専門誌を読んでいる将臣に声を掛けた。 「イルミネーションの点灯式? んな面倒臭いもんに行ってもしょうがねぇだろう? かなりのひとごみで疲れるのがオチだぜ?」 将臣は溜め息を吐きながら、視線を雑誌から離さない。 その姿に望美は呆れ果てる余りに溜め息を吐いた。 普通のカノジョならば激怒をしてしまう言動だが、望美は慣れているので溜め息を吐くだけだ。 そこがお互いに良いところ、悪いところを知り尽くした幼馴染みの良さがある。 「将臣くんって、本当に休日のぐうたらお父さんそのものだよねっ! 何もさ東京ミッドタウンの点灯式に行きたいって言っているんじゃないんだよ? 江ノ島もサミュエル・コッキング苑の点灯式に行きたいって言っているだけなんだよっ!?」 望美も負けず劣らずに、休日の子どものように将臣にねだっている。 お互い様でバランスが取れていることを、勿論、知っているのだ。 「ひとごみだぜ? それに江ノ島の駅からサミュエル・コッキング苑までかなりあるじゃねぇか」 「ミッドタウンに行くよりはマシじゃない?」 望美の一生懸命な口振りにも、将臣は余り乗り気ではないようだ。 「江ノ島も同じようなものだろ? 寒いしな」 「だらしないなあ。冬の海も潜っているじゃない!」 「バーカ、水温のほうが高いんだよ」 将臣は望美の頭を軽く叩くと、躰をゆっくり起こした。 「最近さ、外でまともなデートしてないじゃん。お家ゴロゴロコースばっかりだったら、ちゃんとデートしてくれるひとと浮気する」 望美はわざと拗ねるように言うと、そっぽを向いた。 「やれるもんならやってみな」 将臣は余裕のある口振りで言うと、望美をいきなり抱き寄せてきた。 ギュッと息が出来ない程に抱き寄せられて、望美は幸せな苦しさを味わう。 「誤魔化しちゃう?」 望美の言葉に、将臣は軽く笑うと、唇を近付けてきた。 結局は誤魔化されるのだが、わざと拗ねてみたりする。 それが不実ではないことぐらい、望美は充分過ぎるぐらいに解っている。 だからこそ唇を受け入れるのだ。 唇が重なるととても幸せな気分になる。 それこそジタバタしたいぐらいに。 色々なことがあり、ようやく結ばれたふたりは、相変わらずの甘くてしょっぱくて飛び切りに美味しい関係だ。 キスの後、望美はまるでアップルパイのような溜め息を吐いた。 「誤魔化し上手?」 「誤魔化され上手」 将臣は憎たらしいほどに素敵な笑顔で答えると、望美を抱き締めた。 望美もそれに応えるように、将臣を抱き締める。 「点灯式か…。ま、期待するな」 「またあ」 ふたりはまるで戯れ合う子猫のような会話をした後で、暫く心地良く抱き合った。 点灯式。 ロマンティックな夜は大好きな男性と過ごしたい。 望美にとって大好きな男性は将臣だけ。それも一生大好きでいることに自信が持てるたったひとりの男性だ。 「じゃあ期待せずに待っているね」 「ああ」 望美はにんまりと笑いながら、将臣に甘えるように抱き付いた。 サミュエル・コッキング苑での点灯式の日、鎌倉高校の恋人がいる女子はときめいている。 誰もが話題に上げて、本当に楽しみだと話している。 勿論、望美も例外ではない。 将臣とふたりで点灯式に行けたらと思わずにはいられない。 だが相手はあの将臣だ。 将臣の容姿と勉強にしても人生にしても頭の良さを発揮している姿に憬れている女子は多い。 だが将臣の本当の姿を知っている女子にとっては、“マメではない”部分が大減点になっている。 誰もが望美にだけはマメだということを知っているのだが、当の望美だけがそれを気付いていないのもある。 「望美たちは江ノ島の点灯式に行かないの?」 友人に言われて、望美は頭を横に振った。 「行かないよ。将臣くんの“面倒臭い病”が発病しているからね」 「なるほどね」 友人は頷くと、ほんのりと気の毒そうに望美を見た。 「今日はふたりで、勉強でもするよ。ふたりとも受験生だしね」 「…まあ、そうだよね」 友人は軽く溜め息を吐くと、頷いた。 「楽しんでおいでよ。1日ぐらいはゆっくりと羽根を伸ばさないとね」 望美が微笑むと、友人は頬を赤らめて頷いた。 「望美、帰るぜ」 将臣が迎えに来てくれ、望美は幸せな笑みを浮かべる。 「じゃあまたね」 友人に手を振った後、将臣と手を繋いで駅へと向かう。 本当は将臣とロマンティックごっこをしたかったけれども仕方がない。 望美はおとなしく鎌倉行きの江ノ電に乗り込んだ。 家に帰って着替えた頃、玄関チャイムが鳴り響いた。 「望美! 将臣くんよ!」 母親に呼ばれてパタパタと玄関に向かうと、将臣が外出スタイルで待っていた。 「何か羽織るものを着て来いよ。今夜はかなり冷えるらしいからな」 将臣は甘くてほんのりと意地悪な笑みを浮かべている。 まさか、サミュエル・コッキング苑での点灯式に連れて行ってくれるのだろうか。 それならばかなり嬉しくてしょうがないというのに。 「す、直ぐに仕度してくるよ」 「ああ、待っている」 望美は慌てて自室に戻ると、ダウンジャケットを着込んで、玄関へと向かった。 「じゃあ行こうぜ」 「うん。有り難う」 望美が笑顔で答えると、将臣もまた眩しそうな笑みを浮かべてくれた。 江ノ電にのんびりと揺られる間も、本当に嬉しくてしょうがない。 紫色の光に彩られた夕暮れの麗しい海を見つめながら、望美は幸せ過ぎて気持ちが高揚してくるのが解った。 「嬉しいよ、本当に! 将臣くんと一緒に点灯式に行けるのが嬉しくてしょうがないよ」 望美が小さな子どものようにはしゃぐと、将臣はスッと甘く目を細めた。 「しょうがねぇな、お前は。ガキの頃から全く変わってねぇのな」 将臣は何処か嬉しそうに言うと、望美の手を柔らかく握り締めてくれた。 江ノ島の駅で降りて、のんびりと歩いて向かう。 長い道のりも将臣とふたりならば全く気にならなかった。 本当に一瞬だと思えてしまうほどだ。 手を繋いでふたりで温もりをシェアできるのも嬉しい。 サミュエル・コッキング苑に入園すると、ふたりはイルミネーションの準備が出来た園内をゆっくりと歩いた。 「…将臣くん、有り難う」 望美はほんのりとはにかみながら、将臣に礼を言う。 するとお返しにとっておきの笑みが下りてきた。 「喜ぶのはまだ早いぜ。お前が好きな雰囲気はこれからだろう?」 「うん。だけど今も既に最高にロマンティックだよ。将臣くんはロマンスがある男だよ」 望美の言葉に、将臣が笑ったのは言うまでもなかった。 いよいよイルミネーションの点灯式が始まる。 望美は将臣と寄り添いながら、点灯式を見守った。 みんなでカウントダウンをして、イルミネーションが点灯した瞬間だった。 将臣の唇がゆっくりと望美に重なる。 その瞬間は、言葉にすることが出来ないほどにロマンティックで、望美は胸がいっぱいになった。 唇がゆっくりと離れる。 甘くぼんやりとしたまなざしで将臣を見つめる。 「ロマンティック?」 「最高にロマンティック」 望美の言葉に、将臣は触れるだけのキスをくれた。 これ以上にロマンティックはない。 望美は笑顔を浮かべると、将臣を思い切り抱き締めた。 |