バレンタインはとても甘いイベント。 プレゼントをするチョコレートと同じぐらいに、スウィートでラブリーだ。 望美も今年のバレンタインは気合いが入っている。 今年こそは、将臣にバレンタインのチョコレートを手作りでプレゼントしたいと思っている。 料理の腕なんてからきしないけれども、何とか甘いチョコレートをプレゼントしたかった。 望美はチョコレートの作り方が書かれた本を読んで溜め息を吐く。 こんなにも高度なことはとてもでないが出来そうにない。 自分の手には余ると思う。 しかし、将臣にはどうしても手作りをプレゼントしたかった。 毎年、将臣は多くの女の子から手作りチョコレートを貰っている。 そこに入り込むなんておこがましいが、きちんとした自分の想いを伝えるためにも、望美はどうしても作りたかった。 「…兄さん、今年は“逆チョコ”がブームらしいよ」 「“逆チョコ”!? 何だよ、それ」 将臣の言葉に、譲は呆れたように溜め息を吐いた。 「男から女性にチョコレートをプレゼントするんだよ」 「そうか」 将臣は直ぐに望美の顔を思い浮かべた。 望美に“逆チョコ”をプレゼントしたらさぞかし喜んでくれるだろう。 将臣はそう考えながら、頷いた。 「“逆チョコ”か…。男から手作りのチョコレートを逆にプレゼントをしても良いよな…」 将臣はポツリと言いながら、望美の笑顔を思い浮かべる。 甘いものが大好きな望美ならば喜んでくれるだろう。 「なあ譲、お前、チョコレートの作り方…」 将臣はそこまで言いかけて口を閉じる。 譲に訊くのは、ライバルに弱味を見せているようなので嫌だ。 将臣は結局は訊くのは止めにすることにする。 自力でやれないことはないと思い、自分自身でどうにかすることにした。 「どうしたんだよ、兄さん」 「何でもねぇ」 将臣はあっさりと言うと、そのまま立ち上がった。 作り方は本屋で立ち読みをして、横浜の大型雑貨店に向かい、手作りチョコレートの材料を買うつもりだ。 少なくとも望美よりはかなり器用な質ではあるから何とかなるだろう。 将臣は横浜まで向かう事にした。 望美はと言えば、同じように横浜まで来ていた。 藤沢でも良いと思っていたのだが、やはり横浜のほうが選択肢が多いからと決めたのだ。 先ずは大型書店に向かい、簡単に出来そうなチョコレートの本を探す。 本を買って作れるかは不安だが、ないよりはましだと思った。 「お菓子って料理と違って、何処か理科の実験みたいなところがあるのよね。だったら私にも出来るかな…」 望美はなるべく初心者でも解りやすい本を吟味して、それを購入する。 手作りチョコレートなんて初挑戦だから、本当にドキドキする。 大好きな将臣のためにも、ここは頑張り所だと思った。 書店から出る際、ふと、菓子本コーナーに見慣れた影を見つける。 チョコレートの本をじっと読んでいるが、遠くからでよく顔が見えない。 「まさか、将臣くんがチョコレート作りの本を買うわけはないものね」 望美は人違いだと思い、そのまま通り過ぎてしまった。 次は大型雑貨店に向かう。 簡単にチョコレートやチョコレートケーキが作ることが出来るキットが沢山売っていて、望美はいかに簡単に出来るかを基準に吟味を始めた。 女の子だからお菓子作りに興味はある。 だが料理おんちであるが故に、今まであえて手を出さなかったのだ。 「…これぐらいは…出来るかな…」 まるで科学キットのようなものを見つけ、望美はそれに手を伸ばす。 小さい頃買って貰っていた科学雑誌の付録ようなものだと思い、それならば出来ると読んだのだ。 「これなら、混ぜたりするだけだし、私にも出来るよね」 望美は何度も頷いた後で、チョコレート製作キットをレジへと持っていった。 譲のように本格的なものは出来ないかもしれないが、ある程度のものは作れるような気がする。 雑貨店に行くと、かなりの種類の材料や、また簡単に出来るようなキットが置いてあり、将臣はそれをじっくりと吟味した。 「なかなかだな…」 まるで科学実験のようにチョコレートを作るキットも沢山ある。 イチイチ量ったりするのは面倒臭いので、こうしたキットタイプのものは助かった。 簡単に美味しく出来るのにこしたことはない。 将臣は、逆チョコレートのために、チョコレートキットを買い求めることにした。 レジを待っていると、非常に見慣れたシルエットを見掛けた。 ちょうど会計を終わらせたようで、声を掛ける。 「望美!」 「将臣くん!」 望美は驚いたようで目を大きく見開く。さっと荷物を隠したので、将臣もさっと荷物を隠した。 「偶然だな。会計を済せるまで待っていてくれねぇか?」 「うん、良いよ」 「サンキュ」 将臣は望美にバレないようにと、チョコレートキットを隠しながらレジに差し出した。 望美は将臣を待ちながらも、咄嗟に隠された商品を何とか横目で見ようとする。 将臣が持っていたのは、チョコレートキットのように見えた。 将臣がチョコレートを作るなんて、正直言って想像することが出来ないが。 だが先程書店に見掛けたのは将臣かもしれない。誰にチョコレートを手作りして上げるのだというのだろうか。 将臣の不可解な行動に、望美は小首を傾げた。 将臣が会計を済せると、望美のところにやってくる。 「何か食べるか、お茶して行こうぜ」 「賛成」 最近、ふたりで手を繋いで歩くことに、ようやく慣れてきた。 「荷物、良かったら持つぜ?」 「い、いいよっ!」 将臣へのとっておきのチョコレートを作るための材料だから、中身を見せるわけにはいかない。 それに手作りのからくりはバレないほうが良いのだ。 「…将臣くんは何を買ったの?」 「ひみちゅ」 「ケチ!」 「お前は?」 「ひみちゅ」 「ケチ!」 ふたりは互いにドキドキしながら、決して甘い秘密は明かさなかった。 それはアイスクリームを食べに入った時も同じだった。 バレンタインの前日。 望美は、説明書を読みながら、チョコレート作りに孤軍奮闘する。 火傷をしたりボロボロになりながら、何とか完成させる。 キットの写真とはほど遠い形になってしまったが、味は何とか保障された。 「これで何とか大丈夫かな?」 可愛いくラッピングをして、望美はほくそ笑んだ。 将臣も説明書を見てチョコレートを作る。 意外なぐらいに簡単で、写真通りの見た目で、味も美味しい。これならば望美も喜んでくれるだろう。 将臣はラッピングを気にすることなく、透明のビニール袋に入れて、リボンで蓋をする。 喜んでくれるであろう望美の顔を想像するだけで楽しかった。 バレンタイン当日。 ふたりは甘い甘いデートに出かけることにした。 デートとは言っても近場の鎌倉市内だ。 だが何よりもロマンティックだと思う。 海を見ながら春を感じたところで、望美はドキドキしながらチョコレートを将臣に差し出す。 「チョコレート。手作りだから形が悪いのは勘弁してね」 「サンキュ」 将臣は嬉しそうに微笑むと、受け取ってくれる。 「俺からも“逆チョコ”」 将臣からチョコレートを渡されるなんて夢にも思わなくて、望美は笑顔で受け取った。 「…あ…」 将臣がくれたチョコレートは、望美が買ったキットで作られたもので、しかも綺麗に出来ている。 貰ったことは嬉しいが、自分の不甲斐なさに泣きそうになる。 「どうした?」 「…私も同じキットで作ったんだけれど…、将臣くんのほうが上手い…」 「…え?」 将臣は望美の箱を開けて確認すると、そのまま口に入れた。 「…お前が作ったやつのほうが美味い」 「…え?」 望美の瞳が涙で滲んだところで、将臣が顔を近付けてくる。 そのまま将臣は望美の唇を深い角度で奪った。 甘い甘いチョコレート味のキス。 本当に甘くて官能的だ。 唇を離された時、望美はぼんやりとしてしまう。 「…じゃあ…、私もチョコレートを食べてみるよ」 「…ああ」 望美は将臣が作ってくれたチョコレートを食べた後、自分から口づけた。 キスの後、将臣はチョコレートよりも甘く笑う。 「…やっぱりお前のが美味いな」 「…将臣くん…」 望美は嬉しくてたまらなくて、このまま将臣を抱き締める。 将臣に抱き寄せられながら、こんなにも幸せなバレンタインは他にないと思った。 |