*ホワイトディの贈り物*


 逆チョコレートのお返しに、逆マシュマロや逆クッキーはあるのだろうか。
 望美はぼんやりと考えながらじっと自分の手を見た。
 とてもではないが、手作りでクッキー、ましてやマシュマロなんて作れる筈がない。
 以前、家でクッキーを作った時、砂糖と塩を間違え、小麦粉と片栗粉を間違え、バニラエッセンスとタバスコを間違え、挙句の果てには焼き加減まで間違えて、史上最悪のクッキーを作ったことがあったのだ。
 それを食べた将臣が、健康が取り柄にも拘らず、お腹を壊して寝込んだ挙句に、「望美ー、やめてくれー!」と唸りながら寝ていたという武勇伝付きだ。
「…あれから将臣くんは当分の間クッキーが食べられなくなったんだよね…」
 望美はしんみりと思い返しながら、手作りクッキーは拙いと思った。
「…だけど…、そろそろ料理はちゃんと出来ないとヤバいよね…」
 望美は溜め息を吐くとまた手のひらを見た。
「練習すれど練習すれど、我が料理上手くならない。じっと手を見る…」
材料がきちんと入っているキットすらきちんと作れないなだから、相当な料理の腕だろうなあ…」
 望美はまた手を見るしかなかった。
「やっぱり逆ホワイトディは、カスターの詰め合わせかなあ…。それしかないよね…」
 カスターは将臣の心の味であるから、それをプレゼントするのが一番良いように思えてくる。
「将臣くんもやっぱり食べられるほうが良いよね…」
 望美は結局、カスターの詰め合わせを買うことににした。

 ホワイトディは何もお菓子でなくても構わない。
 将臣はやはりここはアクセサリーだろうと、準備することにする。
 望美に似合うアクセサリー。
 その名前の通りに、月をモチーフしたものが良いのかもしれない。
 将臣は、月をモチーフにしたものでバイト代で買えるようなアクセサリーを探すことにした。
 今回は少しだけ奮発することにする。
 折角のホワイトディなのだから、心にも形にも残るものにしたかった。
 横浜の駅ビルあたりに入っているブランドをくまなく探す。
 月をモチーフにしたアクセサリーは、あるようでなかなか見つからなかった。
 将臣は一生懸命探したが、めぼしいものがない。
 望美が似合うアクセサリーを探したくて、将臣はアクセサリー店を探し歩いた。
 ふと小さなアクセサリー店に立ち寄ると、そこには「月のたまご」と呼ばれる、綺麗で手軽なシルバーアクセサリーがあった。
 望美が好きそうな愛らしいデザインだ。
 将臣はそれを買い求めると、直ぐにラッピングをして貰った。
 望美が喜ぶ姿を想像するだけで、将臣は嬉しくてしょうがない。
 望美の笑顔があれば他には何もいらなかった。

 デートの約束を取り付けるために、将臣は望美の家に向かう。
 望美の家に直ぐ気兼ねなく訪ねられるのは幼馴染みの特権だと思う。
 いつものように望美の母親に話をして、家に入れて貰った。
「望美、将臣くんよ」
「はーい」
「邪魔するぜ」
「どうぞ」
 望美の部屋に入ると、流石に勉強をしているようだった。
「何だ、勉強中だったのかよ」
「だって、将臣くんと一緒の大学に行きたいんだよ。だから一生懸命に勉強しなくちゃって思って。私の偏差値だと、同じ大学は少し厳しいから」
 望美は笑顔で屈託なく言う。
 同じ大学に通いたいと望美が思ってくれているのが、将臣には嬉しくてしょうがなかった。
 やはり将臣も出来れば同じ大学に通いたいと思う。
「望美、解らないところがあったらそのままにするなよ。どんどん訊いてきてくれて構わないからな」
「はい。有り難う」
 望美の笑顔を受け取るだけで、沢山手を貸してやりたいと思う。
 将臣は望美に頷いてみせた。
「そうだ、次の土曜日、一緒に出掛けねぇか? 近場で悪ぃがみなとみらい辺りに」
「そうだね! 嬉しいよ。みなとみらいは久し振りだから。行きたいよ」
 望美が屈託なく言うものだから、将臣は嬉しくて微笑んだ。
「楽しみだよ。だって“ホワイトディデート”だよね?」
「まあ、そういうことだよな」
 将臣は照れ臭くて素直にすんなりとは認められなかった。
「じゃあホワイトディは昼前には迎えに行くから待っていてくれ」
「うん、解ったよ」
 望美は本当に嬉しそうににんまりと笑う。
 その顔が愛らしくてしょうがなかった。

 逆チョコレートにカスターの詰め合わせを贈るなんて自分ぐらいだと思う。
 だが上手くお菓子を作れないのだから仕方がない。
 いずれクッキー作りのリベンジをするつもりだ。
 そのためには何度も練習しなければならないと思った。
 カスターの詰め合わせを用意して、望美は将臣を待つ。
 将臣の好きな味をピックアップをして、詰めて貰った。
 将臣は望美を迎えにきてくれると、そのまま横浜へと連れて行ってくれる。
 電車に乗っている間も、「直ぐに迷子になるから」といつものように悪態を吐いて、手をずっと繋いでくれていた。
 それが望美には嬉しくて嬉しくてしょうがなくなる。
 横浜に着いて、みなとみらいでぶらぶらする。
 赤レンガ倉庫までのんびり歩いてお昼を食べた。
 お昼は望美が好きなガレット。
 それを食べた後、ふたりで観覧車を乗りにいった。
「何だか観覧車ってワクワクするよね」
「ったく、ガキの頃とあんまり変わらねぇな」
 将臣は苦笑いをしながらも着いてきてくれる。
 いつもいつも将臣は望美の本当にしたいことをさせてくれながら、見守ってくれるのだ。
 望美にはそれが嬉しくてしょうがなかった。
 観覧車に乗り込み、コンパートメントの中でふたりきりになる。
 向かい合ったところで、望美はフッと笑みを浮かべた。
「将臣くん、いつも有り難う…。とっても嬉しいよ。いつも見守って貰って、いつも自由にさせて貰って、本当に 感謝しているんだよ。将臣くんには幾つ花丸をあげても、あげ足りないね」
 望美は照れが少し入った笑みを浮かべて、拙いながらも自分の気持ちを伝えた。
「…いつもお前には笑わせて貰っているからな」
 将臣はそれだけを言うと、望美の手を握り締めた。
 ふたりで観覧車の窓の外に広がる横浜の街をじっくりと見つめる。
 やはりエキゾチックでスマートな港町だ。
「こうやって横浜の海を見ていると、やっぱり鎌倉の海が懐かしくて、大好きだなあって思うよ。同じ海なのにね」
「そうだな…」
 将臣は望美を抱き寄せると、ふんわりとしたキスをしてくれる。
 触れるだけの柔らかなキスに、望美は甘い気分になった。
「…鎌倉まで戻るか…」
「そうだね」
 ふたりは顔を見合わせて頷きあう。
 ホワイトディのプレゼントであるカスターは横浜の街よりも鎌倉が似合う。
 望美はそう思った。

 結局は七里ヶ浜に向かう。
 ふたりは鎌倉の海を眺めて、甘くて落ち着いた気分になった。
「ホワイトディの逆プレゼントだよ」
 望美がカスターの詰め合わせを手渡すと、将臣は嬉しそうに微笑んだ。
「サンキュ」
 将臣は早速パッケージを開けると、スタンダードなカスタードを取り出す。
「お前は?」
「じゃあ紅茶味」
 望美もカスターを取り出してふたりして子どものようにかぶりついた。
「カスタード味」
 将臣が軽くキスをしてくるものだから、望美も「紅茶味だよ」と言って、将臣に口づけた。
「さてと俺からのプレゼント」
 将臣は望美に綺麗にラッピングがされた箱を手渡してくれる。
「…これ…?」
「あけてみろよ」
 望美は嬉しさでドキドキしながら、パッケージを開ける。
 すると月をモチーフにしたペンダントが出て来た。
 嬉しくて眺めてしまう。
「着けてやるよ」
「…有り難う…」
 将臣はペンダントを手に取ると首に掛けてくれる。
 望美は嬉しさの余りに胸がキュンと鳴るのを感じた。
 泣きそうなぐらい、暴れそうなぐらいに嬉しい。
「…有り難う…」
「どう致しまして」
 将臣は照れるように言った後、望美を抱き締めてキスをする。
 ホワイトディの甘い甘いキス。
 嬉しさはずっと続く。





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