「将臣くんっ! 起きてよ!」 「眠いんだよ…」 十七に戻った将臣には久し振りの朝の儀式。 今日から3学期が始まるから、少し派手にやってみたい。 望美にとっても久しぶりだ。 取り戻した日常が嬉しくて、ついつい激しく躰を揺すって起こしてしまう。 「ほら、早く起きてよ! 久し振りの学校でしょっ!」 「ああ…」 いくら揺らしても将臣が起きないものだから、望美は憤慨しながら更に激しく揺らした。 「おっ、おいっ!?」 激しくもリズミカルなサンバのリズムで揺らすものだから、将臣はとうとえ堪らなくなり、跳び起きた。 「望美ぃ、テメエ」 将臣は、寝起きには悪いとばかりに、ベッドの上に座り込み、頭を抱える。 「目が覚めた?」 ニッコリと微笑むと、将臣は綺麗な顔で望美を睨み付けた。 「酔いそうになっただろ…。ったく…」 将臣は大きな溜め息をつくと、まるでイタズラ好きの小さな子供を見ているように睨んだ。 「久し振りの登校だからね! 気合いを入れたいじゃない」 「それはお前だけだろうが」 将臣が何を考えているのか解らないような艶やかな瞳で、じっと見つめてくる。その視線にドキドキして、望美は思わず頬を赤らめた。 「きゃっ!」 将臣は望美の腕をいきなり掴むと、ベッドの上に引きずりこんできた。 「…おはようのキスはかかせねぇだろ? 起こすんなら、そっちのほうで起こせよ」 将臣は望美の顎を持ち上げると、深い角度でくちづけてくる。 舌が入りこみ、朝にしては非常に濃厚なキスだ。口腔内に舌をしっかりとはわされ、力が抜けていく。 精悍な躰に抱き寄せられて、望美はいつしか抱き着いていた。 いつもより早く起こしたというのに、これではいつも通りの登校時間になってしまう。 なのに将臣は止めてはくれなかった。 酸素を奪い尽くされ、唇を離されたときには、もううっとりぼんやりとした感覚に支配されてしまう。 「朝から美味いキスをサンキュ」 「…朝からこんな濃厚なキスをしちゃったら、大変だよ…」 将臣は、照れている望美を満足そうに見つめながら、抱き寄せて、うなじの髪をさらりと上げる。 「ま、将臣くんっ…」 将臣は剥き出しになった望美の首筋に唇を寄せると、うなじを思いきり吸い上げる。 「…あっ…!」 肌が震え、躰の中心に熱い痛みを感じる。望美は自ら将臣を抱き寄せた。 「今日は始業式だから大丈夫だが、念のためにしっかりとお前にはマーキングをしておかねぇとならないからな」 「どうして?」 そんなことは必要はないと、望美が小首を傾げると、将臣は耳元に囁きかけてきた。 「ったく、あんまり無防備になるなよ…」 「う、うん」 望美が駆け出したくなるぐらいの勢いで鼓動を高めていると、将臣はそっと離れた。 「学校に行かなきゃな。着替えて下りるから待っていろよ。おら、チャリのキー」 将臣に投げられて、望美はそれを慌ててキャッチする。 「待ってるよ」 階段をゆっくりと下りていく。そのリズムと、まだ早くなっている鼓動が重なりあって、軽やかなリズムになっている。 それはどこか恋の足音に似ていた。 将臣は直ぐに下りてくると、クロックムッシュにアレンジされたパンをおもむろに掴み、頬張る。いつも将臣がぎりぎりのせいで、母親がアレンジをしたものだった。 素早く食べ終わり、ブラックコーヒーを流しこむと、将臣は時計を見る。 「待たせたな、行こうぜ」 「うん」 ふたりして並んで学校に向かうのは本当に久し振嬉しくてスキップしたくなる。 将臣は望美な鞄を受け取ると、前カゴに押し込んでくれた。自分の鞄も隙間に詰め込む。 「しっかりつかまってろよ」 「うん」 荷台に跨がって、望美はしっかりと将臣に抱き着く。以前は普通に抱き着いていたが、今は抱き着くだけで呼吸が早くなった。 ときめきだとか、そんな言葉では表現が出来ないぐらいに、心が弾み、鼓動がそれ以上に駆け抜けている。 喉の奥までからからになってしまうぐらいに、望美は五感を越えた総てで感じていた。 自転車が朝陽に向かって走り出す。 将臣の背中に顔を埋めると、温もりと鼓動を直接感じる。まるで母親の胎内にいるような安心感と、恋心が燃え上がる躍動感があった。 気持ちが良くて、更にぎゅっと抱き着くと、将臣が一瞬、手を握ってくれた。 「ったくガキみてぇだな」 「ガキで良いよーだ」 望美はくすくす笑いながら、将臣の背中に顔を擦り付けた。 極楽寺の駅前で自転車を置き、のんびりて走る江ノ電に乗り込む。幼い頃からずっと親しんでいた電車は、将臣と乗ると更にステキになった。 いつもはのんびりと走っているが、小さな車輌も、朝夕のラッシュ時だけは、かなり賑やかになる。 「久し振りの満員電車は戸惑うな」 「そうだね。将臣くんは特にね」 ふたりで目配せをすると、ごく自然に手を握りあった。 満員電車で手を繋ぐのは、どこか秘密めいていて、ロマンティックに思える。自分だけの将臣を独占出来るようで嬉しかった。 朝陽がまるでスポットライトのように光り輝く。それがとても幸せな気分にしてくれた。 望美は将臣を見上げると、とんと額を胸に付ける。 沢山人がいるのに、まるで自分たちしかいないような幸せな錯覚に陥った。 高校の最寄り駅で降りると、将臣に恋をしている女の子たちが、熱い視線を向けてくる。 勉強が出来、容姿も整っているうえに、器用に何でもこなす将臣は、とにかく物凄いモテる。少し悪びれた雰囲気も、人気に火をつけてい る原因のようだ。 そんな事情からか、望美にとっては痛い視線だった。 「有川くん、すっかり躰は良いの?」 「ああ、サンキュ。もうすっかり良いぜ」 口々に声をかけてくる女生徒に、将臣は気軽に話かけた。 だが将臣は気にすることなく、望美と手を繋いだままだ。 望美が気を遣って手を離そうとしても、余計に手を握り締めて離さないように繋いできた。 女の子たちの視線は、常に将臣と望美が結ばれている手にあった。 「…有川くん、春日さんと付き合っているの?」 勇気ある女の子が、将臣に真実を求めるようにきいてきた。 「ああ。付き合ってるぜ」 将臣はキッパリと言い切ると、望美を腕の中に抱き寄せる。 付き合っているのは事実だが、将臣はべたべたするのを甘い好まない、昔気質の男だ。そのせいか最初は、ふざけているのかと思った。 だがそうではなく、牽制のようだ。 「…そうなんだ…」 「ああ」 将臣は望美の首筋に指を差し入れると、朝付けたキスマークをちらりとみせている。 望美は恥ずかしくてしょうがなくて、俯かずにはいられなかった。 ざわついている雰囲気を背中で感じながら、望美は恋心ゆえに手を離せないでいた。 望美が久し振りに自分の席に座ると、男子生徒が慌ててやってくる。 「女子が大騒ぎしていたけれど春日さん、有川とつきあっている?」 いきなり訊かれて戸惑っていると、将臣が望美の肩をの抱えてきた。 「答えはこれだ。俺たちは付き合っている。それだけだ」 将臣は堂々と男らしく、望美との交際を宣言する。 望美に好意を持つ男子は、目の前であからさまに見せつけられるようなことをされて、顔色を変える。 クラスメイトたは納得したような視線で見ている者が多く、からかうこともなく、空気のように微笑んでいた。 納まるべくして納まったような、そんな事を思っているようだ。 甘い雰囲気が色濃くなり、明らかに二学期とは違うふたりの新学期は、恋人宣言で幕を開けた----- |
| コメント 「迷宮」ED後の日常です。 |