*嫉妬の甘さ*


 将臣のことをこれ以上追いかけても、しょうがないのかもしれない。
 望美は、他の男子と付き合うことにした。
 今日はその彼と初デートだ。
 デートと言っても高校生だから、小町通りや若宮大路に行ったりして、鎌倉らしいレトロなデートを楽しむだけなのだが。
 少しずつ慣れていって、きちんとしたデートをすることが出来ればと思っている。
 望美にとっては、幼馴染みから卒業する初めての試みなのだ。
 ずっとずっと同じ年の幼馴染みばかりを追いかけて来たから、そろそろ卒業しなければならない。
 それが幼馴染みにとって一番良いがことなのだろうと思う。
 幼馴染みを解放してあげることが一番の幸せなのではないかと、今は考えられるようになった。
 望美は総てを振り切るように思い切り伸びをする。
 これからは新しい人生が始まるのだ。
 だからめいいっぱい楽しんで前向きに生きていければと、思わずにはいられなかった。
 望美はデートの待ち合わせ場所である、鎌倉駅へといそいそと出掛ける。
 今日はいつもよりもほんのりとお淑やかにをモットーにして、年頃の女の子らしい装いを楽しむことにした。
 鎌倉駅へは江ノ電で向かう。
 ほんの少しだけ緊張してしまう。
 ドキドキし過ぎてしまい、どうにかなりそうになる。
 それはときめきとはまた違う種類のドキドキであることを、望美は気付いてはいたが、なかなかそれを認めることは出来なかった。
 認めてしまえば、将臣のことがまだまだ大好きであるということを、認めてしまうのと同じような気がしたから。
 鎌倉駅で、出来たてほやほやのカレシと逢う。
 彼は約束の時間よりも早く来てくれていた。
「ごめんなさい、待った?」
「大丈夫だよ。じゃあ、ぶらぶらと歩こうか」
「そうだね」
 望美はふと、駅前にある鎌倉カスターの店に視線を合わせてしまう。
 将臣とよく肩を並べて食べたものだと、少々センチメンタルなことを考えてしまった。
 ダメだ。
 将臣のことはもう想い出にしなければならないのだ。
 異世界の時空で敵同士で闘ってしまった時から、こうして卒業しなければならないことが決まっていたのだ。
「どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。行こうよ。この辺りの散策も楽しいかもしれないから」
「そうだね」
 ふたり肩を並べると、ゆっくりと歩き出した。

「…あれは…」
 鎌倉駅前を歩いていると、望美が男と肩を並べて歩いているのが見えた。
 将臣は無意識に眉間に皺を寄せてしまう。
 こちらの世界に帰ってきて落ち着いてから、ふたりは今までとは少し違った関係になりつつあった。
 意識し過ぎて、空回りをしているというのが正解だろう。
 将臣は、今まで以上に望美を意識していたくせに、上手く想いを言葉では伝えられなかった。
 それゆえにずっと想いのすれ違いが続いていたのだ。
 今まで、望美がそばにいるのは当然だと思っていたし、いずれはふたりで人生を歩んでいくと信じていた。
 だが、今、目の前にいる望美は全く別の相手と共にいる。
 しかも楽しそうにしているところを見ると、ひたすら腹が立つのを覚えた。
 ふたりきりにさせたくはない。
 望美は自分のものなのだから。
 誰がどのようなちょっかいをかけたとしても、望美は自分のものだ。
 将臣は、自分の用などはそっちのけで、ふたりの後を追うことにした。
 望美にはちゃんと言い聞かせて、デートを中止させなければならない。
「俺って望美ストーカーかもな…」
 将臣は苦笑いを浮かべつつ、ふたりの行動を監視するように追いかけた。
 元還内府としては、こういったことは簡単だった。
 見つからない自信もある。
 将臣は目立たないようにそっと追跡していった。

「誰かに見られていたような気がするんだけれど…」
 望美は視線を感じて思わず振り返った。
「…? そんな風には思えないけれど…。僕は何も感じないよ」
「そっか…」
 彼が何も感じない以上は、誰にも見られていないということなのだろうか。
 何だか自意識過剰のような気がして、恥ずかしかった。
 ふたりで鶴岡八幡宮の境内をゆっくりと散策する。
 途中、寒い中で白無垢を着たとても美しい花嫁さんと遭遇した。
「…綺麗…」
 望美は、思わず自分と将臣の結婚式を想像してしまう。自分は白無垢、将臣は紋付袴。
 想像するだけで、胸が高鳴るのを感じずにはいられなかった。
 ごく自然にふたりの姿を想像してしまうところを見ると、やはり、将臣への想いは染み付いてしまっているのだろう。
 生まれてからずっと好きだったひとだから、なかなか想いを消すことが難しいのだろう。
 それがほんのりと切なかった。
「望美ちゃん?」
 彼に声を掛けられて、望美はハッと我にかえる。
「あ、な、何?」
「望美ちゃんの白無垢姿は綺麗だろうなって、言ったんだよ」
 彼は穏やかな笑みを浮かべながら呟く。
 本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいになりながら、望美は作り笑顔を浮かべた。
「あ、有り難う…」
 照れくさい気分で望美が呟くと、彼はにっこりと笑ってくれた。
 何だかぎこちない気分だ。
 将臣ならば歩いているだけでとても楽しいのに、今は歩いているだけでかなり気を遣ってしまった。

 将臣は少し後ろでふたりの様子を伺う。
 まだ手を繋いでいないのにホッとしながら、望美を追いかける。
 途中、白無垢を着たとても美しい女性が横を通り過ぎて、将臣は思わず望美と重ねて見てしまっていた。
 望美の白無垢姿。かなり素晴らしいだろう。
 想像しただけで鼓動が激しくなっていく。
 そんな美しい望美を、自分以外の男にやるなんて出来ない。望美の白無垢を堪能するのは自分なのだ。
 将臣は強くそう思うと、ふたりを厳しく監視した。

 お参りの後、望美たちは小町通りで有名なタマゴ焼きの店に入った。
 将臣もそれに続く。
 ふたりが向かい合わせに座り、楽しそうにメニューを見ているのを見ると、もう我慢出来なくなった。
 望美は誰にも渡さない。
 今すぐ返して貰う。
 将臣は席から立つと、ふたりのいる席へと向かった。

 まさかそこに将臣が現われるなんて、望美は全く想像してはいなかった。
 怒ったような顔をしてこちらに近付いて来るではないか。
 その顔から視線を逸らすことが出来ない。
 ドキドキし過ぎてどうして良いのかが解らないでいると、将臣が望美の前に立った。
 そうして有無を言わせる暇も与えずに、唇を奪ってきた。
「……!!!」
 そんなことを想像だにしたことはなくて、望美は思わず言葉を無くしてしまっていた。
 迎えにいた彼もそうだ。
 唇が離れると、将臣は強引に望美の手を引く。
「すまねぇが、望美は俺が貰う。これ二人分のタマゴ焼きの代金だ」
 唖然としている彼を尻目に、将臣は代金をテーブルの上に置くと、望美を引っ張る。
 嫌じゃなかった。むしろときめいてしまい、望美は笑顔で着いていった。
 ふたりきりになれる路地裏まで来たところで将臣は立ち止まり、望美の肩に手を置く。
 真摯に見つめられて、望美は思わず喉を鳴らした。
「…望美、お前は昔から俺のもので、俺が幸せにすると決めている。だから、他の男になびくな」
 将臣の男らしいひとことに、望美は笑顔になる。
「それって、私のことが大好きってこと?」
 望美が訊くと、将臣は目の縁を真っ赤にさせて照れくさそうに頷いた。
 ハレルヤ!
 望美は幸せが溢れても溢れても涌いてくるのを感じながら、将臣を抱き締めた。
「私も大好きだよ」
 簡単で難しい一言。
 ここからふたりの人生は始まる。





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