初めて肌を重ねた夜、望美は今までにないほどに安らかな寝息を立てて、眠りの淵に落ちていた。腕の中で小さく丸まるのが、なんとこ心地良い重みになる。 将臣は、望美の寝顔を、穏やかな笑みを浮かべながら、じっと眺めた。 本当にいくら見ても飽き足りない、望美の寝顔を、まるで心の中のシャッターを切るかのように、何度も何度も記憶に焼き付けた。 明日も早いし、正直言って眠い。 だがここで眠ってしまえば、望美の寝顔を独り占めできなくなってしまう。 楽しげに上がる口角も、睫がちらちらと雪のように揺れる姿も、全部を見逃してしまう。 それはあまりにも勿体ないような気がして、将臣は寝付くことが出来なかった。 きっと見飽きることのない望美の愛らしい寝顔。これは絶対に飽きることはないだろう。年を取っても、自分の祖父母のように、優しくて穏やかなときめく関係でいられるような気がする。 命をかけて愛した相手なのだから、当然だろう。 「…ったく…。お前は俺の気持ちを、本当の意味で解っちゃいねぇだろ?」 将臣は低い声で、眠りの淵にいて言葉など聞いていないだろう望美に、そっと囁きかける。 「…確かに、こうして俺に総てを委ねてくれたってことは、愛してくれていると自惚れていいのかもしれねぇし…、お前が、俺がお前を愛していることを解ってくれているからだろうけれど…、どれだけ好きか、解っちゃいねぇだろ? 本当は…」 将臣は望美の瞼に子猫が躊躇いがちにするようにキスを落とし、抱き込む腕に力を込める。 「誰にもお前の無防備な姿を見せたくないぐらいに…好きだ。他の男の目にさらさず、牢獄に監禁してしまいたくなるぐらいに…、愛してる…」 こんな情熱的な告白が出来るのは、きっと恋人が眠ってしまっているからだろう。 愛しい人が眠り、安らかな気持ちになるまで、将臣はずっと見守る。 ぴったりと触れあった人肌が心地良くて、いつまでもこうしていたいと思った。 折角手に入れた温もりをもう手放すつもりもないし、このポジションも誰にも譲るつもりはない。 望美にいつまでも傍にいて貰えるように、もっと懐の大きな男にならなければと、思う。 成長できるのは、望美がいるからだ。 いつも相応しい男でいたいと思っているからだ。 「…俺が一人前の男になれるかどうかは、おまえにかかっているのかもな」 額をそっと撫でて、将臣は微笑む。 「愛しているぜ」 やがて、ヴェルヴェットのような睡魔が襲い、将臣がうとうと微睡み始める。すると望美の瞼が緩やかに開いた。 将臣のあどけなさと男の色香が混じった、穏やかな寝顔を覗き込む。最高の寝顔だと思った。 「…将臣くん、解っていないのはあなたのほうだよ? 私がどれほど愛しているかを…・あなたをあの迷宮に閉じこめてしまいたいぐらいに、愛しているの…」 望美は甘く囁くと、将臣の瞼にフェザータッチのキスをする。 もう、二度と離したくない温もり。 将臣にいつまでも愛して貰えるように、素敵な女でいたい。いつまでも。 そのためにも努力しようと思っている。 「…私が一人前の女になれるかどうかは、将臣くんにかかっているんだよ?」 将臣の髪をそっと撫でながら、望美は微笑む。 あの時空にいた頃ほどではないが、将臣の髪は素敵と思うぐらいに艶やかに伸びている。 望美はそれが気に入っていた。 「大好きよ…」 望美は将臣にぴったりと柔らかな躰を押しつけると、また瞳を深く閉じる。 愛しい人が眠るまで。その寝顔を見つめるのは、恋人たちの特典。 |
| コメント 大阪のペーパーを加筆収録したものです。 甘くて短いお話です。 |