余りに満月が綺麗だったから、将臣とふたり、七里ヶ浜に出かけた。 ぶらぶらとふたりで、他愛のないことを話ながら歩くのも良い。まるで空気のように当たり前に手を繋ぐのも悪くなかった。 僅かに湿気を含む風が頬を擽り、もうすぐ梅雨の季節だと教えてくれる。 しんみりとした夜道を歩きながら、心はふわふわ致死合わせの雲の上に乗っている。 「七里ヶ浜なんて久しぶりだね。結局、何かあったらここに戻ってくるところを見ると、私たちにとっては特別な場所なんだね」 「そうだな…」 高校を出てから初めて訪ねる想い出の場所。将臣とふたりで、青春の光と影を共有した、懐かしくも甘酸っぱい場所だ。ここで最後にキスをしたのはいつfだっただろうか。ここで他愛ない夢物語を話したのも。 高校生の頃、本当に空気よりも当たり前に存在した想い出の場所。そこはふたりにとって生涯忘れることが出来やしない、心の故郷でもある。 親世代から懇意にしているカレー屋さんでカレーを食べ、そのまま海岸にのんびりとふたりして佇んだ。 手をしっかり繋いで、お互いの存在を意識する。月光の優しい光の浮かび上がる将臣の輪郭を視線でなぞれば、胸の奥が苦しくなる。子供の頃からずっと消えたことがなかった、おかしな甘い痛み。心地良い痛みは、これからもずっと持ち続けるだろう。結婚しても、子供が出来ても。それはもうそんなに遠い未来ではない。 望美は将臣をうっとりと眺めた。 将臣は本当に月の光がよく似合う。日光よりも厳かな光のほうが、将臣らしいと思った。 「どうしたんだよ?」 視線に気付いたのか、将臣は望美に月の光と同じ癒しを滲ませた眼差しをくれる。 「将臣くんは月の光が似合うって思って」 「見とれたか?」 「もうバカ」 いつものようにからかい、からかわれて、ふたりは飽くことがない面映ゆい時間を重ねていくのだ。 ふたりにとって、それが何よりも幸せだということを、一番本人たちが解っていた。網二度と手放したくない、かけがえのない瞬間の連続だということを。 「…まあ、俺は月光が似合うと言われた方が、嬉しいかもな」 「どうして?」 将臣は目をスッと細めると、子供の時よりも大きくなった掌で、望美の頭をくしゃくしゃに撫でた。 「バカ、月と言えば、お前だからに決まってるだろ?」 「あ…」 照れた声で囁かれるのは、かけがえのない愛の言葉。 「…有り難う…」 「礼を言うことはねぇだろ」 「いいの。そんな気分だから…」 望美はそれを噛みしめながら、将臣の肩に甘えるように頭をもたせかけた。 じっと目を閉じてこのように甘えるのが好きだ。望美は波の音と将臣と自分の鼓動を重ねて、穏やかな時間の流れのような幸せに浸った。 「ホント、幸せだよ」 「俺もな、今夜は良い気分で酔っぱらうより気分が良いな」 「ホントに…」 望美はふふっと笑うと、ふと左手薬指に輝く指輪を月にかざしてみる。今まででどの光よりも月光は、薬指に光るダイヤモンドを輝かせてくれる。 「綺麗だね」 「給料三ヶ月分だからな」 「そんなものでは買えないぐらい、価値があるんだよ」 くすぐったい幸せに酔いながら、ふたりで指先に輝くダイヤモンドを眺め、同じ想いで願う。 「ずっと一緒にいようね」 「ああ。ずっとな…。幸せにする」 「私も…」 ふたりの願いはただ一つ。 これからもずっとふたりで月光を眺めていられますように。 七里ヶ浜の月ならば、きっと願いを叶えてくれる |
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