彼の部屋

〜〜〜知盛〜〜〜


 カレがこの世界に来て覚えたもの。
 煙草、珈琲…。
 そして…。
 朝焼けのシャワー。

 予想通りに、何もないがらんどうとしたカレの部屋。フローリングのLDKと、和室がひと間の部屋。
 ほとんど家具らしいものがないが、なによりも窓の外から見える海と光の競演が贅沢。
 ふたりして窓の外を眺めている時間が、休日の最高の瞬間だ。
「……鎌倉の海も悪くはないと……思うようになった…」
 煙草の煙を燻らせながら、深く実感しているかのように、知盛は言う。姿はけだるいものがあるが、その言葉は、出会った頃よりも確実に倦怠を感じられなくなっていた。
 会話は至って少なく、また内容もこの世界に関することを、話すだけ。
 それでも幸福だ。
 生きていることだけで凄く嬉しい。
 知盛がこうして近くにいるだけで、ふたりが並んでいるだけで、言葉より雄弁に語る想いが膚に伝わってくる。
 ふたりきりの時はいつもそうだ。
 将臣と一緒に、三人でいる時は、いつもふざけあったり、じゃれあったりするが、ふたりでいると途端に静かになるのは何故だろうか。
 この世界に来て、後悔を感じているのではないだろうか。
 知盛の血をたぎらせるような戦場もない、望美の産まれた世界。
 知盛にとって、ここは平和は過ぎるのかもしれない。
 後悔はして欲しくない。
 帰りたいとも思って欲しくない。
 だが、口では言い表せない不安がいつも付き纏う。それは、「恋をしているから」に外ならない。
「……!」
 考えても仕方がないことを、堂々巡りをして考えていると、不意に肩を引き寄せられた。
 心と同じように、躰も近く、近く、引き寄せられていると、知盛がここにいるという存在感しか、考えられなくなってしまう。
 息が苦しくて、胸が高まって、どうしようもなくなってしまう。
 きっと跳ね上がる心音は、知盛にまる聞こえに違いない。
「……切ない顔をして……考え込むな……」
 知盛は何時ものようにスローな深い声で呟くと、望美の首すじに唇を充てる。
 その唇と同じように冷たい知盛のキス。
 らし過ぎる。
「…そんな顔をしていると…お前を……俺しか見えないように……したく……なる」
 知盛は意地悪な声で言いながら、煽るように望美のセーターに手を差し入れてくる。最初は苛々して引き裂くことが多かった下着も、今や外し方を覚えて、手つきもいやらしくなってしまっている。それどころか、巧み過ぎて、まるでマジックを見せてくれているようだ。
「と、知盛のことしか…、か、考えていないんだから…、そ、そんなことをするのは……っ!」
 知盛の手が、セーターの下でしたたかに動き、望美の乳房を愉しむように揉みしだいていた。
「そんなこと……って…、どんなこと……なんだ? 望美……? ほらこんなに硬くなっている……」
 乳首を指先でくにっと捩られると、唇からは熱い吐息が零れ墜ちていく。下腹部の深い部分に、痛いようなもどかしい信号が送られ、入口が意思と関係なく収縮を始めた。
「……やっ……!」
「……もう…俺以外のことは……考えられなく……なっただろ……」
 首の付け根を思いきり吸い上げながら、せせら笑うように知盛は呟く。
 悔しい。
 だけど、その魂も躰も、知盛の前では屈服してしまう。望美の意思なんて、その魅力の前では、なすすべがあるはずもない。
「……知盛のことしか、考えてないよ…っ! 将臣くんと一緒にいる時は…、いっつも私を…からかうくせに…、  ふたりでいる時は…静か…だから…っ!」
 将臣の名前を口にした瞬間、乳首を強く拈られる。泣きそうになるぐらいの痛みと快楽に、望美は肌を震わせた。
「…他の男の名前は…口に出すな……。……お前の純潔を奪ったのは…この俺だ……」
 知盛は、強引に望美のスカートの中に手を入れ、下着ごしに女の部分に触れてくる。
「やあっ!」
 すでにそこは潤っていて、痺れるぐらいに気持ちが良い。たとえ布ごしであっても。
「濡れてる…」
 指摘されると、逃げ出したくなるぐらいに恥ずかしくなる。
「……こんなに……してるのに…他の男の名前は…出すな……」
「あっ…!」
下着を素早く抜き取られたかと思うと、窓に向かって強引に脚を開かれる。
 窓の外には湘南の海が広がり、サーファーが波を愉しんでいる。
 恥ずかしい場所を曝されてしまい、望美は泣きたくなった。
「……いやっ……!」
「…誰が見ているか…解らないから……な」
「……恥ずかしいし……」
「恥ずかしい………か。ならば……、こうすれば……恥ずかしくない……」
 止めて貰えるとばかり思っていた。だが、知盛は意外な行動に出てくる。
「………望美………」
 知盛は耳たぶを舌でなぶるなり、望美の目を手で隠してきた。
 確かに暗い。だが、うっすらと太陽の光が優しく膨らんで見えている。
「…ちょっと…! 何をするのっ!?」
「……これで、見えない……だろ?」
 知盛は面白がるように言うと、望美の蜜壷に指を沈み込ませてきた。ズブズブといやらしい音を立てて沈み込む指が、いつもに増して官能を与えてくる。
 五感をひとつでも制限されるというのは、なんてエロティックなのだろうかと思った。
「…んっ……あっ……!」
 唾液が唇から滲むぐらいに感じる。
 どうしようもないぐらいに、とことんまで溺れたくなった。
「……ああっ……!」
 内壁を自由に泳ぎまわる知盛の指を、悔しいけれど離したくはない。
 キュッと音を立てて締め付けると、指は面白がって擽ってきた。
 こんな心もとない刺激だけではなく、もっと派手な刺激が欲しい。
 知盛にすっかり擦り込まれてしまったのだから。
「……凄いな。こんな指では……満足出来ないだろうからな…」
 知盛は自分の衣服を脱ぎ捨てると、シャツを切り裂き、望美の腕を後ろ手に結んでしまう。
 それだけでは物足りないと、目隠しまでした。
「……これで……お前は……俺にしか神経が向けられなくなる……」
「あっ…!!」
 知盛が足の間に顔を埋めてくる。舌先でいやらしくも溢れ出してくる蜜を舐めとり始めた。
「や…っ!!!」
 腰に鈍い快感が刺激し、もっと強いものとねだっている。
 まるで懇願するかのように腰を振ると、知盛は蜜口から顔を上げた。
「……しょうがないな……。俺も……お前の蜜に……塗れたい……」
 知盛は切羽詰まるような声で言うと、思いきり自分の刀を沈みこませてきた。
「……ああっ!」
 望んでいた熱い剣に、望美はしなやかな獣のように、その身をくねらせていく。
 これこそ待っていた快楽だ。
 知盛の剣が望美の深いところに突き刺さると、大きな嬌声が沸き上がった。
「ああっ…!」
 先端で撫でられるだけで、どんどん快楽の高みへと引き上げられる。
 暗闇にうっすらと感じる、癒しの沈むゆく太陽。
 セックスだけに集中せざるをえない立場に追いつめられる。
 パラダイスに連れて行かれ、望美は空の高みに飛んでいるみたいだ。
「あ、ああ、ああっ!」
 何度も奥を突き上げられる度に、躰がバラバラになってしまうぐらいに気持ちよくなる。
「と、知盛…っ!」
「…望美…」
 逞しい方に捕まれないのが物足りない。
 とことんまで濡れて、とことんまで麻薬のような知盛に溺れて。
「あ、ああ、ああっ!」
 限界まで突き上げられ、意識が遠のいていく。ここまで来れば、もう、意識を手放す以外にない----

 
 ようやく、知盛が布の束縛から解放してくれ、疲れを癒やすためにその胸を貸してくれている。
 何もない、知盛の部屋は、既に月明かりが照らし始めている。
 何もないからこそ、とことんまでその存在をじさせてくれるのかもしれない。
 だからこれからも、何もないこの部屋で、知盛に溺れていたい----



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