フラッシュを焚かれたような光に瞼の奥が白くなり、望美は目を開けた。 吐息がかかるほどの距離に、知盛がいる。 特別な人と迎える、特別な朝は、日常とは違う空気の流れや時間の流れを持っているような気がする。 望美は、未だ夢の世界に魂魄を鎮める、大切な人を眺めた。 この世界に連れてきてしまい、それが本当に良かったのか、望美は時々考えてしまう。 こうして誰よりも傍にいて、同じベッドで密着して眠っていても、心は、遙か遠い、あの異世界の京にあるような気がする。 知盛と一緒に眠ると、ドキドキとした温かな幸せと、どこか掴み所のない苦しみがせめぎ合って、胸の奥が忙しく波打つ。 望美は知盛の寝顔を見つめながら、このままこの視界の中に宝物のように永遠に閉じこめていられればいいのにと、思った。 それほどにまで、知盛は美麗だった。高く筋の通った鼻梁も、薄くて冷酷な雰囲気のある唇も、長い睫に縁取られ、今は閉じられた瞳も、総て。知盛の総ては、神様が粋を込めてお作りになったのではないかと、思わずにはいられない。 まるでふたりを囲う檻のように、窓から差し込んだ夏の光は、気怠い幸せに満ちていた。この光が、知盛は誰よりもよく似合う。 望美は額にかかる知盛の髪に吐息を吹きかけ散らしながら、その美しさに感嘆とした。 望美は幸せで甘い笑みを滲ませると、知盛の温もりを奪うかのように抱きつく。 「…起きてたのか…」 知盛はゆっくりとドラマティックに瞳を開くと、望美を腕の中に引き寄せた。 「朝だよ」 「…関係ない…」 知盛は低い声で艶麗に言うと、望美を抱え込むように抱きしめてきた。まるで、二度と離したくはないとばかりに。 「…俺にとっては、まだ、朝じゃない…。まだ…、眠いからな…」 「だったら少し寝なよ。起こしてあげるよ」 「…起こさなくて良い。お前も一緒に寝ろよ…」 知盛は望美をベッドに縛り付けるかのように抱きしめると、更に強く抱きしめてくる。 寂寥を知盛の力から感じた。 望美は自分のことのように切なくなり、心臓が悲鳴を上げそうになるほどに軋んで揺れる。 「…ねえ、寂しい?」 望美は、まるで小さな子供がお気に入りの人形に話しかけるような口調で呟いた。 知盛は一瞬、置いてけぼりを喰らった子供のようにふわりと笑ったが、直ぐに望美をその胸にしっかりと抱く。 「…いいや…。お前がいるから…寂しくはない…」 それが半分は真実で半分は嘘であることを、望美は識っている。兄弟の契りを交わした将臣が傍にいても、故郷を棄てた知盛の寂しさが埋まることは、ないのかもしれない。 だからこそ、おまじないのような一言を言いたい。 「私が傍にいるから…大丈夫だよ…。ずっと傍にいるよ…」 望美は知盛を絹の力で抱きしめると、滑らかなキスを、硬くて薄い唇に落とした。 「…俺も…。しょうがないから…お前の傍にいてやる…。欲張りなお前のな…」 知盛は幸せそうな低い笑みを唇から零すと、望美を更に強く抱きしめた。 一番大切な人の温もりを、朝からこうして感じられるのは、なんて温かくて幸せなのだろうか。 余りに幸せすぎて、望美はうとうとと眠りの淵に引き込まれる。 「…ずっと傍にいてね、知盛…」 傍にいる世なんて約束をしながらも、本当に傍にいたいのは、望美自身。本当に知盛を離したくないのも。故郷から遠ざけたのも。 知盛の髪を撫でられると、ワガママな不安は霧散する。 「おやすみ…」 遠くに知盛の声を聴きながら、今度目覚めたときの幸せを望美は思って、たゆたゆと眠りの淵に落ちていった。 |