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ごろ寝をする知盛に、望美は枕をぶつけてやった。 「知盛! 今日はどんな日か解っているのっ!?」 「今日は火曜日だろ…」 あっさり言うと、知盛は煙草を口にくわえる。それがどんな意味があるのかと、僅かに眉を潜めている。 「今日はホワイトディなのっ! バレンタインが女の子からプレゼントする日なら、ホワイトディは男の子がお返しをする日なの!」 ぷんすかと音が聞こえてしまうのではないかと思うぐらいに、望美は頭から湯気を出して怒る。 だが、知盛は知らんぷりだ。 「…そんな日…俺は…知らない…」 「知らなくても関係ないのっ! 重要な日なんだからねっ!」 伝え忘れたのか、はたまた自分が聞き忘れていたのか。知盛にはどうにも判断は出来かねた。 どちらも有り得る。 「…俺にとっては…、花祭りのほうが…余程…大切な日だ…」 「私も仏教徒だけれど、ホワイトディのほうが大切なんだから。知、知盛なんて、甘茶飲んで寝ていたらいいのよ」 拗ねて、勝手に怒るのは、望美の専売特許。知盛はそれもまた心地良いと思っている。 「…私なんかいっつも知盛に振り回されているみたい。折角ホワイトディだって、楽しみにしていたというのに…」 望美はがっくりと肩を落として、溜め息をついた。 「…楽しみにしていたなんて…、神子殿は…催しが好きでなのだな…」 「だって女の子には大切なものなんだからね…」 拗ねる望美の背中を、知盛は深く抱きしめる。 「…じゃあ…そんなに大切な日ならば…、お前を…たっぷり大切にしてやるよ…」 「ちょっ! 知盛っ…!」 躰に手を這わせられて、望美は焦らずにはいられない。 「…たっぷり…奉仕をしてやる…。俺に命令しろよ…」 官能的な命令に、望美は思わず喉を鳴らす。 胸の高まりを感じた。 この不遜で、いつも振り回す男を、自分の思い通りに出来るのは、良いことなのかもしれない。 「命令しても聞こえないふりとかはしない?」 「…クッ…! …さあな…」 知盛は、相変わらずからかうような含み笑いを浮かべると、望美を抱き寄せた。 「さあ、神子殿…、ご命令を…」 「じゃあ、私をお姫様抱っこをして」 なんだかドキドキする余りに、喉がからからに渇いてしまう。望美は思わず舌なめずりをしてしまった。 知盛は薄く笑うと、望美を軽々と抱き上げる。 部屋を回った後、椅子に浅く腰掛けられた。 「…神子殿…望みのままに…」 傅いてくれるものの、やはり知盛は不遜だ。本当は自分が傅いているのではないかと、望美は錯覚を覚えた。 脚を知盛に差し出すと、そこにほお擦りをしてくる。緩やかな動きに、背筋がぞくりとした。 「…神子殿? 次はどうして欲しい?」 脚にくちづけながら、とりあえずのお伺いは立ててくれてはいる。 だが唇の刺激のせいで、頭の芯まで熱くなり、考えられなくなる。 「ん…っ!」 「…気持ち良くなりたい…みたいだな…」 知盛は冷静な笑みを浮かべると、スカートの中に手を入れて、望美のタイツを静かに脱がしにかかる。 絹が擦れる音がやけになまめかしかった。 知盛は立ち上がると、望美の瞳を覗き込むような視線を送ってくる。 冷徹で艶のある瞳に、望美は心を溺れさせた。 なんて瞳なのだろうか。魂を吸い取られてしまいそうだ。 冷たい月を宿すような眼差しと、唇。薄くて触れたくなる。 「…キスして?」 知盛は僅かに眉を上げると、顔をじらすようなスピードで近付けてくる。 早く唇を触れ合わせたくて、望美は知盛の首に腕を回して引き寄せた。 触れ合うだけのキス。 知盛は駆け引きを求めているのだろう。 望美が軽く啄むようなキスをすると、知盛は噛み付くようなキスをしてきた。 総ての熱を奪われ、更に熱いものを返されてしまうようなキス。 むせかえってしまうような熱に、望美の理性は音を立てて崩れていく。 もっと引きずり込まれたい。引きずりたい。 ふたりはお互いが対峙するようなキスを絡ませあった。 知盛の舌が望美の唇にするりと入り込んできた。 もっと深いキスをしていたい。 お互いに舌を絡ませ合いながら、痺れてとろとろになってしまうようなキスをした。 本当は熱情に傅いてしまっているのかもしれなかった。 キスの後、もっと欲しくて、ねだるように引き寄せると、今度は腫れ上がってしまうぐらいに唇を吸い上げられた。 痛いのに気持ちが良いなんて、自虐の極意だと思わずにはいられなかった。 再び唇を離された後、望美は知盛に甘えるように抱き着く。 「優しく抱きしめてね」 すると、ふわりとした考えられないぐらいに優しい抱擁がかえってきた。 これには望美も笑みが零れた。 マシュマロみたいな抱擁だ。 「…ご要望は? 神子殿…」 もうこれ以上は恥ずかしくて言えない。 躰は甘く疼いたが、口に出すことは憚れるような気がする。 「…もう…」 「…嘘をつくなよ…望美…。お前の躰は正直だ…」 知盛はブラウスのボタンを幾つか外すと、望美の鎖骨を指でなぞった。 「…これでも…まだ…嘘をつくか…?」 「あっ…!」 焦らすようになぞられてしまい、思わず声が漏れた。 押さえ込もうとしていた欲望が、情熱となって頭を擡げてくる。 望美は唇を噛み締めると、肌を震わせた。 結局は、知盛は意地悪で、自分の意のままに操ろうとするのだ。 「…どうするんだ…? 神子殿…?」 ここまでなれば、もう躰の欲望が先だってくる。 「じゃあ…、とことんまで気持ちよくして欲しい…」 知盛はくせのような危険を含んだ笑みを望美に向けると手慣れた手つきで、ブラウスのボタンを総て外してしまった。 ブラジャーが見える状態になると、知盛はその上からしっかりと揉みしだいていく。 柔らかな胸に、知盛の指が食い込んでいくのにつれて、望美の肌が沸騰以上に熱くなっていった。 下着の上からはもどかしい。もっと中心に深く根付く熱が欲しい。 「…どうして…欲しい?」 「あ…」 「…黙っていては…解らないだろう…」 そんなことを言われても、中々言えやしないというのに。 「…だって」 「…言わなければ…、お前が本当に望んでいることを…してはやれないからな…」 楽しげに笑う知盛が憎らしい。 これではどちらが命令しているか、ちっとも解らないではないか。 望美は溜め息をまたはきたくなった。 結局はいつも追い詰められるのは望美だ。 このまま、止められるのは切ない。 望美は熱く濡れた唇を、僅かに開いた。 「…じかにキスをして…」 まるで勝ち誇ったような笑みを浮かべられる。 だが勝負はこれからだ。 望美が知盛を抱くのだ。 |
| コメント ヴァレンタインのお返しのお話。 |