あなたがいれば…


 あなたがいれば、どこであろうとも関係がないのです。
 どんな時空であっても、どんな世界であっても-----

 闇が降りた京の街を、頼久は愁いを込めた瞳で凝視していた。
 今宵は満月のはずなのに、かつてあかねと一緒に見たような神々しさはない。闇を照らすような美しさもない。
 風雅や、あかねが言うところの「ろまんちっく」とやらもない。
 明るすぎて、些か、興ざめを覚えそうだ。
 視点を移すと、遠くに見えるのは、ライトアップされた寺院や、山々。頼久が生まれた時空と同じ馴染み深いものもあるが、多くがそのままではない。
 ビルディングと言う名のとてつもなく高く、冷たい建物の中に、京の古が埋まっている。
 京は幾度も戦に遭い、その度に多くのものを消失し、再建がなされたと、あかねに説明を受けた。
 かつて生活をしていた京と同じ場所であるはずなのに、ここは京じゃない。
 京都-----名前が似ていても異なる場所。ここは、夜でも真の闇になることはない。
 月の美しさを愛でるには、少々物足りない場所。
 生まれた場所とここを比べるたびに、胸が締め付けられるような痛みをもたらされるが、それでも後悔は微塵もなかった。
 この時代に、愛する少女と一緒にいるためだけにやってきて早、半年。
 仕事も得て、日々暮らすのに必要な糧も、充分過ぎるぐらいに得ていた。
 今は、偶然が重なり合って、”モデル”という、かつての自分には考えられないような職業についている。
 だいたい、あの時代にはそんなものはなかったし、今でも服を着てポーズを取るだけの仕事は、正直言って、武士の名折れだ。
 だが、それでもこの仕事を続けているのは、この時代では、自分が自分の力で生きていく術が必要だったから。愛するものに、迷惑をかけたくはなかったから。
 日々の糧を得ることで、こうして狭いながらも住まいを得ることが出来たし、ひとりで生活も出来る。何よりも、あかねに迷惑をかけることがないのが、何よりも嬉しかった。
 いつか、そう遠くない未来に、あかねを妻に貰い、幸せにするためにも、今の仕事が必要だ。
 -----そして、いつか自分の夢を叶えるためにも。
 夢。
 それは子供たち相手の、小さな道場を開くこと。今も、仕事の合間を縫っては、近くの寺で週二回、子供たちに剣道を教えている。
  武道は生涯の仕事だと、ずっと子供の頃から思っていたのだから。
 この平穏な、戦も争いもない、愛する女性の故郷で、平和に武道を続けていきたい。
 そして、勇気を持った立派な剣士たちを、たくさん育ててみたい。
 そして、それを世話してくれるのが、着物と割烹着姿のあかね。髪を後ろに束ねて、ニッコリと笑いお茶を持ってきてくれるのだ。
「頼久さん、お茶が入りましたよ----」
 頼久の頭の中の声と、今耳に響く声がぴったりと重なった。
 振り返ると、そこにはニッコリと笑ったあかねがエプロン姿で立っている。
「神子殿! お茶ぐらい、私が淹れましたのに!」
「だ・め! 言ったでしょう? 頼久さん、もう私たちは主従関係じゃないのよ? 私が好きでやってるんだから、させて」
 あかねはきっぱりとはっきりした声で断り、優しい笑顔を浮かべながら、頼久の前にお茶を置いてくれる。
「よいお茶の葉が手に入ったんだよ。宇治の玉露だって。あ、黒蜜のわらびもちもあるんだよ」
 あかねは嬉しそうに頼久の世話をしてくれている。
 あの頃は、こんなことは考えられなかった。頼久にとってはあかねは主であり、主に細々とした世話をしてもらうことなんて、とんでもないことだった。
 だが、最近は、頼久の世話を細かに焼くために、あかねはマンションに毎日のように来ている。所謂、半同棲というものらしい。
 流石に結婚前の男女が一緒に暮らすわけにも行かず、週末だけあかねは泊まっていく。平日はちゃんと帰るのだ。
 あかねがこうして世話を焼いてくれることに、最初は戸惑いもあったのだが、愛しいあかねに説得をされて、ようやく受け入れることが来た。

 愛してる・・・。

 今は素直にそう思える。
 この世界に来て、『主従』という名の枷が少しずつ取れていく。その度に、愛の表現をまっすぐにすることが出来るようになってきた。
 こちらで覚えた煙草を銜え、頼久はソファに座る。心地よい、精神安定の方法だ。吸いすぎはあかねに怒られてしまうが、それもまた一興だ。
「頼久さん、あのね?」
 食後のデザートであるわらびもちを爪楊枝に刺しながら、、あかねは探るような眼差しを、上目遣いに向けてきた。
 それを見て、頼久ははっと胸の奥を掴まれる。
 あまりに切ない、愁いを持った瞳をしていたから。
 胸が痛い。
 だが、大人の寂しさを湛えたあかねは、本当に美しかった。
「頼久さん…」
 あかねは本当に言いづらそうに言葉を淀ませている。その姿がまた、切ない。
「どうかされましたか? 神子殿」
「あ、あのね、頼久さん…、本当は寂しいんじゃないの?私と過ごすために、あなたは全てを捨てて、この時代にやってきてくれた・・・。だけど、それが本当に正しかったのか、時々不安になるの…」
 素直に不安を打ち明けるあかねは、なんてかわいいのだろうかと、不謹慎ながらも頼久は思った。
 小さなあかねの不安。
 後悔なんてあるはずがない。
 一番欲しかったものを、こうして掌に掴むことが出来たのだから。
 あかねがこうして自分のことを考え、切ない気持ちを抱いてくれるのが嬉しくもあり、また胸を痛むことでもある。
 誤解を解いてやらなければならないだろう。
「…どこにも…私を置いていかないで」
 小さな消え入るような囁き。大きな瞳に涙をいっぱい貯めて、じっとこちらを見ている。
 理性のたががぷつりと音を立てて外れた。
「神子殿!」
 華奢なあかねの肩を抱きしめ、頼久はその花のつぼみのような唇を奪う。
 欲情、愛情、独占欲…。それらの熱くて沸騰に近い感情が、頼久のなかに渦巻いていく。
 深く、深く、唇を吸い上げる。唇がぷっくりと腫れたとしても、それは知ったことではない。後で舌で寝めて直してやれば良い。
 それよりも不安になっているあかねの負の感情を取り除き、そんな感情が二度と起こらない様に、その唇に刻み付けておきたい。
「あふ…」
 総ての呼吸を奪うように、強引に舌を可愛い唇に差し込めば、あかねから苦しげな吐息が漏れる。伽羅の香りを思わせるそれは、頼久をさらにかきたてる。
 もっと、もっと、あなたが欲しい-----
 舌を口腔内滑らせて、あかねの総てを奪っていく。舌で上顎を撫でてやると、腕の中の愛しいものは花のように震えた。
 好きだ。
 好きで堪らない。
 あなたがいなければどうしようか。
 あなたがいれば、生きていける。
 あかねの唾液を吸い上げる代わりに、自分の唾液をあかねの口腔内に注ぎ込む。
 これは、愛し合ったものだけに許される愛の儀式。
 ようやく唇を離すと、あかねが瞳を潤ませてこちらを見てる。肩で息をするのが、なんとも愛らしい。
「神子殿…」
 吸い付くような滑らかな頬を指先でなぞると、あかねは深く瞳を閉じる。
「ねえ、前から言ってるみたいに、名前で呼んで欲しいの。私、もう”龍神の神子”じゃないから…」
 あかねは甘えるように言いながら、頼久をまっすぐに見つめてきた。この瞳に、抗えるはずはない。
「はい・・・。あかね殿」
「”殿”はいらないわ」
 あかねの言葉は、頼久にとっては絶対。深い微笑を浮かべると、そっと、愛しいものを息が出来ないほどに抱きしめた。
「----あかね…」
 あかねの瞳が、その低い声に導かれて閉じられる。
「はい、頼久さん…」
 愛しくて、可愛いあかね。
 もうどうしようもないぐらいに愛している。
 頼久はあかねを抱き上げると、寝室に運んでいく。あかねは頼久の首にしっかりと腕を巻きつけてきて、離れないようにする。まるで幼子が甘えるように。
「頼久さん、敬語も止めてね」
 いきなり言われても、そう変えられるものでもない。頼久は困ってしまい、眉根を寄せた。
「----善処しますが、中々直せるのは時間がかかるみたいですね」
「そうね。ゆっくり直しましょう」
 あかねは微笑むと頼久の首筋に顔を埋め、幸せそうな吐息を漏らす。熱いあかねの吐息は、頼久を十分すぎるほどに欲情させた。
 ベッドにあかねを寝かしつけ、組み敷くように上から抱きしめる。あかねは、心ごと包み込むかのように頼久を抱きしめてくれた。
「神子…、あかね!?」
「頼久さん、寂しくない?」
 不安げに訊かれて、怜悧な頼久はあかねの不安な原因を感知する。そんなことをなくしてあげるのは、朝飯前。
「----寂しくない・・・。あなたがいるから…」
 あかねが優しく笑いかけてくれる。深く、慈しみのある眼差しを向けられ、あかねに護られているのを感じる。
 だから御守りしよう---この命が果てるまでに。
「ほんとに? 私がいればいいの!? 」
「はい」
「でも寂しいでしょ? 大好きな仲間に逢えなくて…」
 これ以上何も言えないようにと、頼久は、あかねの唇を強く、深く、塞いでしまった。
 自然と滲んだあかねのなみだを、指先でついっと弾くと、まるで宝石のように見える。
「いいえ…。ここにはあなたも天真もいる」
「でも、でも…!!」
「神子殿」
「…んっ!?」
 少し困ったような声を出した後、頼久はあかねのブラウスのボタンを器用に外し始める。この世界に着て感動したことのひとつとして、愛し合うときに服が脱がしやすいことだった。
「あ…、んんっ…!」
 下着を脱がし、むき出しになった白い乳房を揉みしだけば、もうあかねは何もいえなくなる。目に眩しいぐらいに白い胸に唇を寄せながら、頼久は甘く愛を囁く。
「あかね…、私は、あなたがいればどこにいてもいいんです。反対にあなたがいなければ、生きている意味がない。あなたさえいれば、この世界は薔薇色に見える。この時代に来て、本当によかったと思っています」
「あっ・・! 頼久さんっ…っ!!」
 喘ぎながら痴態をさらすあかねは、なんて美しいのだろうか。
 あかねはもう自分だけのものだ。誰にも渡さない。誰にも…。
「あなたさえいれば何もいらない…」
「頼久さ…あああっ!」
「愛しています…」
 勃ちあがり色味が変わったあかねの乳首を、頼久は指先で強く摘んだり、舌で転がしたりしてもてあそぶ。その度に、あかねの細い
躰は弓のようにしなり、頼久を官能の世界に誘う。
音を立てて乳首を吸い上げると、あかねの細い腰がベッドから浮び上がった。背中に宛がったシーツが皺になり、乱れ始める。
 女を抱くのはあかねが初めてではない。
 だが、精神的にも肉体的にも満たしてくれるのは、あかね以外にいない。
 柔らかくて、そしてすべすべとしたあかねの太腿。
 そこを撫でると、あかねが苦しげに呻いた。
 もう、熱い雫が太腿に流れている。
 頼久が欲しいと、あかねの躰が呻き声を上げている。
「あかね…、失礼します…」
「あああっ!」
 びくりと肌を揺らすあかねの脚を大きく開き、頼久は熱い場所に唇をつけた。
 極上のハチミツよりも甘いあかねの蜜を、美味しく吸い上げていただく。
「あ、あああっ!」
 総てを支配しながら、ひれ伏すように頼久はあかねを愛していく。
 舌で襞をぴちゃぴちゃと淫らな音を立てながら舐めた後、熟して熱くなっていく肉芽を吸い上げる。軽く歯を当てただけなのに、あかねはどうしようもないぐらいに腰を蠢かせた。
「頼久さん…、頼久さん・・・っ!」
 腰の淫靡な動きに頼久は甘く微笑みながら、さらにあかねをあおっていく。
 奉仕するように熱い場所を舐めながら、指を胎内に入れてかき混ぜていく。
 もうこの指は、あかねの感じる場所を知っている。
 かきまぜながら、ふっくらとした場所を突いてやると、もうたまらないといったような表情にあかねがなった。
 切なくも艶のある顔。
 そんな顔を見せられてしまえば、頼久はたまらなくなる。
 唯でさえ勃起したそこは痛いぐらいなのに、さらに上を向いて、突っ張るぐらいに痛い。
「…頼久さん・・・っ!」
「もう、たまりません…」
 我慢できない。
 頼久は、あかねの入り口に自分自身を宛がうと、入り口をえぐるようにして胎内に入る。
「あ、ああ、あああっ!」
 熱いものに満たされた嬌声があかねの唇から漏れた。
 それがさらに頼久を刺激し、腰を奥深いところまで進めていく。
「愛しています、あかね…っ!」
「ああ! 頼久さんっ!」
 お互いに手をしっかりと絡めあい、もう二度と離れないようにする。
 もう理性なんかはない。
 お互いに、男と女だ。
 頼久は献身的な野獣そのものになりながら、腰を上下させて、あかねの内部を何度もこする。
「ああ、あああっ!」
 涙を滲ませて頼久を締め付け蠢くあかねに、くらくらするぐらいの快感がやってきた。
 あかねの内側で蠢きながら、最奥を先端で何度も撫でてやった。
 何度も突き上げ、そしてその度に気が狂うぐらいに気持ちよく締め付けられ、総てが快楽に向って音を立ててスピードを上げていく。
 愛を交わすのに、結婚前の男女は、しっかりと避妊をすると天真から効かされたが、今日も忘れてしまった。
 あんなものではあかねをちゃんと感じられない。
 あかねをじかで感じたい----
 視界がゆれ始めると同時に、あかねの躰が激しく震え始めた。
 高みに上り詰めたらしい。
 頼久ももう我慢できなかった。
 頭が真っ白になるぐらいに高まっていく。
「くっ・・・! あかね・・・っ!!」
 そのままあかねの胎内に精を放ち、頼久は果てた----


 愛し合った後は、こうやって緩やかにするのが好きだ。
「もう、絶対に離れませんから」
「はい。離さないで下さい」
 ふたりは微笑みあうと、再び抱き合い、夜の闇に解けていく。

 そう、あなたがいれば、何もいらない----
   

後書き
八葉の方々って、結局自分の時代を捨てて、愛に殉じる訳じゃないですか。
故郷の時代が懐かしいと思うときはあると思うんです。
そういったところから、この創作が出来ました。

久しぶりにサイトにUPする際、どうしても見るに耐えられなくて、加筆修正を加えました。
最初は健全だったんですが、あはは、18禁になってしまいました。





モドル