アリオス&コレット
心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。 だが。 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分にプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックなことはないかもしれない。 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。 アンジェリークは今、アリオスと風光明媚な美しい惑星で暮らしている。 女王としての任を終えて、アリオスとふたり、穏やかに幸せに暮らしている。 まだ旅をするように惑星のありとあらゆる場所へ、引っ越しを繰り返している。 落ち着く惑星を決めたものの、まだどの土地に落ち着くかまでは決めてはいなかった。 「こうして旅をしながら土地を探すのも良いかなのかもしれないね」 「そうだな。お前とこうして住む場所を探すのは、何だか良いな。昔なら、放浪には孤独しか感じなかったが、今は違う。お前がそばにいるから、何もないのに笑えるな」 アリオスは機嫌良さそうにクッと喉を鳴らして笑った。 ふたりでのんびりとした旅。 住処を見つける為の旅だから、そんなに焦らなくても大丈夫だ。 ふたりは便利の良い場所よりも、自然が美しい郊外の町を探している。 条件としては王立研究院のある町が近いという点が枷としてはあるのだが、それ以外は好きな場所を選ぶことが出来た。 もうお互いに自分達が生まれた宇宙に帰ることは出来ないけれども、それ以上に素晴らしい場所が見つかると思っていた。 そして、とうとうその場所が見つかり、アリオスと共に向かっている。 爽やかな風を浴びながら、心地好い気分で新天地に向かっていた。 「何だか羽根が背中に生えた気分。清々しい気分よ」 アンジェリークが思い切り伸びをすると、アリオスは苦笑いを浮かべた。 「ほどほどにな」 「だって、ようやく私たちが落ち着ける場所が見つかったもの。嬉しいの。だけど、旅も新婚旅行のようで楽しかったんだけれどね」 「まあ、お前さんが気に入るかどうかは解らねぇが、少なくとも俺は気に入っている」 「だったら最高に素敵なところだよ。私には解るんだよ」 アンジェリークが明るく言うと、アリオスは柔らかな笑みを僅かに唇に浮かべた。 「アリオスのほうが、私よりも絶対に見る目はあるように思うから。星を見つける時も、愛すべき美しくも平穏で、災害が少ないところを選んでくれたんだもの」 アンジェリークはうっとりと、車窓に広がる、美しくも澄んだ風光明媚な景色を眺める。 まるで写真集から飛び出してきたかのような完璧な風景だ。 車は海辺を走り続ける。 きらきらと太陽の光を反射して、宝石よりも美しく輝いている。 自然が作り出す光というのは、なんて美しいのだろうかと、アンジェリークは思わずにはいられなかった。 「もう少ししたら着くぜ」 「うん」 アンジェリークはふと、ステアリングを握っていないアリオスの手をギュッと握り締める。 この場所に落ち着いて、これから愛するひとの子供を産むのだ。 沢山の家族に囲まれて、共に白髪が生えるまで、ふたりはずっと一緒にいるのだ。 アンジェリークにとっても、アリオスにとってもずっと夢見ていた理想的な家族を、この土地で育んでゆくのだ。 それがどれほど幸せなことなのだということを、本人たち以上に知るひとはいないだろうと、アンジェリークは思った。 「アンジェ、買い物には基本不自由はしねぇし、治安も最高に良い。ネットワークが構築されているから、足りないものはインターネットで買えるしな。それに散歩するのは最高の町だ。のんびり出来るから安心しろ。お前はずっと休みなく働き続けていたからな。この町でのんびりとすると良い。空気も美味いからな」 「うん、有り難う。アリオスもゆっくりしてね。だってアリオスだって、休みなく働いて来たんだからね…」 「有り難うな。お前は民の為に働いたが、俺はお前の為に働いたから意味合いが違う。だから、お前こそ休息は必要だ」 アリオスはさらりと嬉しいことを言ってくれる。それがアンジェリークを嬉しくさせる。 「有り難う」 「お前はこれからこの町でのんびりすれば良いんだからな」 「うん」 女王としてではなく、ただのアンジェリークとして生きてゆく。 二つの人生を経験することが出来るなんて、アンジェリークはなんて贅沢なのだろうかと思った。 「見えて来たぜ」 「わあ!」 海と植物に包まれた、まるでおとぎ話に出て来るような小高い丘の上に、広いけれども可愛いらしい雰囲気を持つ家が建っていた。 まさにアンジェリークが理想だと思っている家だった。 「あれなの!?」 「ああ」 「素敵!」 アンジェリークは、すっかり目の前の家に夢中になっていた。 車を家の庭にあるカーポートに入れて、いよいよふたりは新天地に降り立つ。 深呼吸をすると、空気も新鮮でとても美味しかった。 「空気もきれいだし、最高ね」 「ああ。気に入ったか?」 「勿論よ!」 アンジェリークは思わず声を華やかに上げると、思い切り伸びをした。 「うちの中に入るぞ。必要なものは既に全部うちに入れて貰っているからな」 「有り難う」 アリオスは薄く笑うと、いきなりアンジェリークを抱き上げてきた。 「あ、アリオスっ!?」 アンジェリークが戸惑うのも構わずに、アリオスはスタスタと家の中に入ってゆく。 「どうしたの!?」 「新しい家に入る時には、夫が妻を抱き上げて中に入ると幸せになれると聞いたからな」 アリオスには珍しくロマンティックなことをしてくれる。 柄にもないから恥ずかしいのか、瞳の周りを薄く赤くさせていた。 それが可愛くて、アンジェリークは思わずくすりと笑った。 アリオスはアンジェリークを抱き上げたままで、堂々と階段を上がってゆく。 「アリオス、昔読んだ童話のお姫様にでもなった気分よ」 アリオスは僅かに眉を上げたが、それが照れ隠しなのは間違なかった。 階段を上がると、広くて明るい寝室に入ってゆく。 本当に贅沢だと思わずにはいられないぐらいに、解放感があって窓が広くて明るい、素晴らしい寝室だった。 瀟洒なフランス窓からは、溢れんばかりの光が溢れている。 夜は落ち着いた美しさを誇る月が見られることだろう。 アリオスはアンジェリークを窓際で下ろしてくれた。 「窓の外を見てみろよ」 「うん」 アリオスに言われた通りに、アンジェリークは窓の外を見る。 その瞬間、言葉を失った。 そこには薄いピンクの薔薇が可愛らしい雰囲気をたたえながら、一面に咲き誇っている。 何本あるかが数えきられないぐらいだ。 まさにこのままリボンを掛けてプレゼントをされたような気分だ。 「この景色が俺からのプレゼントだ」 「有り難う…」 感動し過ぎてしまい、アンジェリークは言葉を失ってしまう。 「これまで有り難うな。これからもよろしくな。百万回言って足りないからな。愛しているという言葉も…」 「私も…」 アンジェリークが泣き笑いを浮かべながらアリオスを見つめると、抱き締めてキスをしてくれる。 百万回の“アイラブユー”と“有り難う”を込めて。
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